日暮しの種 

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ひまわり

2013-07-27 08:55:11 | 編集手帳
7月17日 編集手帳

あたりに人影はなく
風も絶え
しんと静まり返っている。
夏の昼下がりにはときどき
そんな沈黙の時間がある。
〈ひとり/げらげら/わらってる/まわりを しーんと/させちゃって〉。
まど・みちおさんの詩『ヒマワリ』である。

形容矛盾ではあるが
音のない世界をこれほどにぎやかに彩る花はほかにないだろう。
日曜の東京版に
千葉県成田市の牧場で黄金色に咲き誇る写真が載っていた。
早めの猛暑到来で、
花も幾らか急ぎ足であるらしい。

浮かんでくるヒマワリがある。
北上川のほとり
震災で児童74人が犠牲になった大川小学校(宮城県石巻市)のそばである。

わが子の生きた証しにと
あるご両親が種をまき
同じ境遇の親御さんと世話をした。
児童があの日
津波から逃れようと目指した高台である。
「しーん」とした夏景色に耳をすませば
記憶のなかの無邪気な「げらげら」が聞こえるかも知れない。

〈列車にて遠く見ている向日葵ひまわりは少年のふる帽子のごとし〉
(寺山修司)。
もうじき今年も
廃虚となった校舎を見おろす高台にその花は咲くだろう。
少年の
少女の
振る帽子のように。
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原発忌

2013-07-27 08:26:40 | 編集手帳
7月11日 編集手帳

山笑う春、山滴る夏、山粧よそおう秋、山眠る冬…。
俳人の長谷川櫂さんは詠んでいる。
〈山哭なくといふ季語よあれ原発忌〉(句集『柏餅かしわもち』より)

吉田昌郎まさおさんが食道がんで亡くなった。
58歳という。
官邸や東京電力本店からの指示が混乱、
錯綜さくそうし、
寝ぼけたような命令も飛んでくるなかで、
東電福島第一原子力発電所の所長として最悪の事態を回避すべく、
現場で陣頭指揮にあたった人である。

現場と東電本店を結んだテレビ会議で吉田さんは突然立ち上がり、
カメラに尻を向けてズボンをおろした。
パンツの中にシャツを入れ直す。
カメラの向こうには当時の菅直人首相もいた。
作家の門田隆将さんが吉田さんの談話を交えて綴つづった『死の淵ふちを見た男』(PHP)にある。

自分が感情を爆発させれば部下が動揺する。
パンツの尻を向けることで、
もろもろの不満を腹にのみ下したのだろう。
がんと被曝ひばくに因果関係はないとしても、
過労とストレスが命を縮めたのは間違いない。
暴れ狂う原子炉と格闘した末の戦死である。

長谷川さんの造語であるらしい「原発忌」という言葉が、
悲しくもこれほど胸に迫る人はいない。
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