10月1日 編集手帳
女主人公・多加たかが言う。
「商人あきんどいうもんはどない大きな肚はら持ってても、
算そろ 盤珠弾ばんだまはじく時だけは細こまこう汚きたのう弾くもんだす」。
山崎豊子さんの直木賞受賞作『花のれん』にある。
『白い巨塔』『華麗なる一族』など後年の代表作を読んだ目には、
主人公の口を借りて創作の秘密を語っているようにも映る。
戦後日本の“暗部”を丸ごと作品に取り込む大きな「肚」と、
物語の面白さを細かく弾いた「算盤」と――
どちらが欠けても山崎文学の魅力は語れまい。
詩人のオスカー・ワイルドは語ったという。
〈現実が芸術を模倣する〉。
戦闘機の機種選定を巡る政界と商社の癒着を描いた『不毛地帯』を連載中にロッキード疑惑が浮上するなど、
ワイルドの言葉そのままの先見性に満ちた作品群を残した。
夢中でページをめくらせた財前五郎教授や万俵まんぴょう大介頭取が咲かせる“悪の華”の、なんと妖しかったことか…。
山崎さんが88歳で亡くなった。
かつて山崎さんが書いた色紙に〈暖簾のれんは商人の命〉とある。
作家にとっても命であったろう。
誰の真似まねではなく、
誰にも真似できない孤高の暖簾を、
細腕で守り抜いた人である。
女主人公・多加たかが言う。
「商人あきんどいうもんはどない大きな肚はら持ってても、
算そろ 盤珠弾ばんだまはじく時だけは細こまこう汚きたのう弾くもんだす」。
山崎豊子さんの直木賞受賞作『花のれん』にある。
『白い巨塔』『華麗なる一族』など後年の代表作を読んだ目には、
主人公の口を借りて創作の秘密を語っているようにも映る。
戦後日本の“暗部”を丸ごと作品に取り込む大きな「肚」と、
物語の面白さを細かく弾いた「算盤」と――
どちらが欠けても山崎文学の魅力は語れまい。
詩人のオスカー・ワイルドは語ったという。
〈現実が芸術を模倣する〉。
戦闘機の機種選定を巡る政界と商社の癒着を描いた『不毛地帯』を連載中にロッキード疑惑が浮上するなど、
ワイルドの言葉そのままの先見性に満ちた作品群を残した。
夢中でページをめくらせた財前五郎教授や万俵まんぴょう大介頭取が咲かせる“悪の華”の、なんと妖しかったことか…。
山崎さんが88歳で亡くなった。
かつて山崎さんが書いた色紙に〈暖簾のれんは商人の命〉とある。
作家にとっても命であったろう。
誰の真似まねではなく、
誰にも真似できない孤高の暖簾を、
細腕で守り抜いた人である。