9月15日 キャッチ!
製造業を中心に模倣行為が後を絶たない中国。
中国産の模倣品は国内にとどまらず世界に広がっていて
日本でも去年
税関で差し止められた偽ブランド品などの差し止め件数約3万件のうち
中国から持ち込まれたものは9割を超えた。
中国広東省の深圳。
製造業が集中し“世界の工場”として中国経済の成長を支えてきた一方
模倣に手を出す工場も多く
“模倣品の都”とも呼ばれてきた。
この街の電気街では2000年ごろから様々な模倣品が売られるようになり
今も人気ブランドのものとそっくりの携帯電話が店頭に並んでいる。
(店員)
「550元(約8,500円)です。
模倣品は種類が豊富で安くできますよ。」
しかし近年こうした模倣品を扱う店舗は
本物志向の消費者の増加や
政府の取り締まり強化の影響で減ってきているといわれている。
市場の変化を受けて
模倣品を製造してきた企業の間では自主開発をする動きが活発になってきている。
深圳で従業員120人の工場を経営する呉燁彬さん。
8年前に会社を起ち上げ
コンピューター関連の電気製品を製造してきた。
呉さんがかつて製造していたのは
アメリカのアップル社の製品を真似たパソコンやタブレット端末。
深圳で模倣品を作る人の間ではよく知られた存在だったが
違法性を問われたことは無かった。
(工場経営者 呉燁彬さん)
「当時は人気商品を模倣し安く売れば市場を開拓できました。」
しかし模倣品が次第に売れなくなったのに加え
知人が当局に摘発されたことがきっかけとなり
模倣を辞めることにしたという。
そして会社の主力商品として苦労の末に独自開発したのが
長さ10cmほどの超小型パソコン。
テレビなどのモニターと接続すればどこでもパソコンとして利用できる。
模倣の経験で培った電子回路の基盤を作る技術を生かした製品である。
約2年で20万台近くを売り上げ
会社を支えるヒット商品になった。
呉さんは今は次の商品の開発に取り組んでいるが
模倣から自主開発へ移行することは簡単ではないという。
(工場経営 呉燁彬さん)
「移行できる企業は少なく
私たちも苦労しました。
模倣品から自主開発へ移行できない大部分の企業は
工場を閉鎖しています。」
深圳では
自主開発に苦労する工場と若手の企業家たちを結び付け
新製品の開発に打投げようという動きも出てきている。
事業を起ち上げる企業家のためにさまざまな支援を行っている会社。
特に力を入れているのは
あらゆる部品の生産に対応できる豊富なネットワークの中から
起業家に工場を紹介するサービス。
地元の企業と連携した新製品の開発を促している。
(起業家の支援会社 李諾夫 社長)
「新製品の開発がここでは3日足らずでできます。
部品生産のネットワークは無視できません。
模倣の経験で高い技術力もあります。」
この会社の一角を借りて事業を行う 趙俊さん。
以前はデザイナーをしていたが
自ら家電製品を生産するために起業した。
趙さんが開発パートナーとしているのは
かつて大手メーカーの製品を真似た電気製品を製造していた工場。
1年半の共同開発を経て
今年3月から販売を始めたのが「砂時計型の照明」である。
携帯電話をリモコン代わりにして
色や音楽などを操作できるオシャレな製品に仕上げた。
(起業家 趙俊さん)
「ものづくりとは無縁でしたが
部品生産のネットワークや技術支援によって
アイデアを現実のものに出来ました。」
これまでの販売実績は800台ほどと思いどうりにはいっていないが
共同で作り出した製品に工場側も確かな手ごたえを感じているようである。
(メーカー経営者 高小軍さん)
「彼のデザインに衝撃を受け考えも変わりました。
模倣するだけでなく変わらなければ
絶対に生き残れません。」
中国の社会全体の模倣をめぐる状況は
販売や生産にかかわる業者であったり
購入する消費者であったり
取り締まりをする中国当局であったり
ゆっくりとではあるが様々なところで変化が出てきている。
特に大都市ではその傾向が強く
上海でもこの夏
堂々と販売を行っていた模倣品市場の閉鎖が決まった。
模倣品ビジネスに詳しい関係者の多くも
「摘発のリスクの割には以前ほど儲からなくなる」
「割に合わないビジネスになってきているのではないか」と話す。
こうした環境の変化を受けて
一部の工場などが生き残りをかけて
自主開発に舵を切っている。
中国当局は取り締まりの強化に加えて
北京や上海などでは
私的財産の関する訴訟を専門に扱う裁判所が設立されるなど
制度面での整備も進められている。
背景には
国際社会からの批判をかわす狙いとともに
国内の経済成長を維持する上で対策の強化に迫られているのである。
いま中国政府は経済の減速が鮮明になる中で
安定的な経済成功を維持したいと
民間企業による技術革新イノベーションの推進を掲げている。
しかし私的財産が十分に保護される環境が確立されなければ
新しい商品や技術の開発に取り組む民間企業は育たない、と
専門家は話す。
(上海交通大学 董正英副教授)
「企業の知的財産を保護するために過大なコストが必要になれば
研究開発やイノベーションに投資する企業がなくなってしまう。」
社会のあちこちに広がっている中国の模倣品の問題は簡単には解決できない。
今も販売を続ける業者の中には
取り締まりを逃れようと
主要な取引をインターネット通販や海外への輸出に移す動きも広まっている。
また中国当局の取り締まりについても
国内の地域ごとに温度差があり
私的財産保護の意識の低い地域では
被害を歌えても迅速には対応してもらえないという企業関係者の声も聞かれる。
中国全体で模倣品をめぐる状況が本当に改善されたといえるようになるまでは
取り締まりの強化はもちろん
私的財産の保護に対する社会全体の意識の向上など
息の長い取り組みが求められる。