日暮しの種 

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その答えは友よ 風に舞っている

2016-10-16 08:15:00 | 編集手帳

10月15日 編集手帳

 

 ある出版社が文学全集の刊行を企画した。
松本清張作品の扱いが議題にのぼったとき、
編集委員の一人である三島由紀夫は言ったという。
「清張作品を入れるなら、
 私は編集委員を降りるし、
 わが作品の収録も断る」と。

純文学と大衆文学の壁をめぐる昭和30年代の文壇こぼれ話である。
時は移り、
もっと高い壁の消える時代らしい。
米国の歌手ボブ・ディランさん(75)がノーベル文学賞に選ばれた。
清張論争など、
今は昔の物語だろう。

英語の不得手な小欄にはその歌詞が文学か否かは見当もつかないが、
地上の数限りない人々の人生を伴走した偉大な芸術に違いない。
壁を乗り越えたスウェーデン・アカデミーの勇気に敬意を抱く。

歌人の島田修三さんに一首がある。
〈さかしまに歳月ゆかなボブ・デイラン聴き呆(ほう)けてた俺とは何だ〉
(歌集『晴朗悲歌集』)。
歳月を逆さまにたどりたい、と。
下宿の三畳間。
夜更けの公園。
学生街の喫茶店…。
「あの頃の私とは何だったのか?」という問いを胸に抱いて、
きのうは遠い日の自分を訪ねる心の旅に出かけた人もあったろう。

♪ その答えは友よ、
  風に舞っている。


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「殺人狂」は加害者だ 肉親を理不尽に殺された遺族ではない

2016-10-16 07:45:00 | 編集手帳

10月12日 編集手帳

 

 菊池寛の句を思い出す。
〈故人老いず生者老いゆく恨(うらみ)かな〉。
青春を知らず、
恋を知らず、
遺影のなかで子供たちはいまもあどけない表情のままだろう。
大阪教育大付属池田小学校で8人の児童が凶刃の犠牲になった事件から15年がすぎた。

犯人の男に死刑判決が言い渡されたとき、
遺族は「“8人の天使たち”の親の想(おも)い」と題する共同談話を発表している。
一日も早い死刑執行を願う、
と。
その人にいわせれば、
これも“ばかども”の談話になるらしい。

「殺したがるばかどもと戦ってください」。
死刑制度に関するシンポジウムに瀬戸内寂聴さんがビデオメッセージを寄せ、
死刑廃止論者を激励したという。

殺したがるばかならば、
殺人狂だろう。
肉親を理不尽にも殺された遺族が加害者に命で償ってもらいたいと願ったとして、
どうして殺人狂呼ばわりされねばならないのか。
死刑廃止に傾ける熱情には敬意を表するが、
心ない発言といわざるを得ない。

「あなたのお父さんやお母さんは、
 ばかです。
 死刑でひとを殺したがるばかどもです」。
心が痛まぬのなら、
遺影の目をみつめて語りかけてほしいと思う。

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