9月28日 キャッチ!
シドニー中心部のドッグレース会場、
この日はドッグレースが行われている。
レースに出るのは狩猟犬のグレイハウンド。
1周500mのコースを8頭前後でウサギのぬいぐるみを追いかけてその速さを競う。
1日10レースほど行われるドッグレースは
競馬のようなギャンブルの1つとして国民から根強い人気を集めている。
(観客)
「競馬と違って事前の知識がなくても楽しめるのがいいね。」
「犬が走るのを見るのは面白いよ。
大きな賭けはしないけど
夜が楽しいね。」
今年7月 ニューサウスウェールズ州は
“来年6月いっぱいでドッグレースを全面的に廃止する”と突然発表した。
(ニューサウスウェールズ州 マイク・ベアード州首相)
「もちろん決断は簡単ではなく
軽々しくはない。」
問題の発覚は去年2月に放送されたオーストラリアABCの番組がきっかけである。
一部のトレーナーがウサギなど実際の動物を使って犬を訓練していたというのである。
実際のウサギなどを使ったのは犬の狩猟本能を呼び起こすためだとしている。
訓練のために実際の動物を殺すことは法律で禁じられているが
報告書では
トレーナー全体の1~2割がこうした訓練を行ったとしている。
またレース犬の半数以上が
ケガでレースに出場できなくなると殺処分されていると報告している。
こうした処分は業界用語で“消耗品”と呼ばれていたという。
(州政府CM)
年間4,074頭のレース犬が処分される
一般犬の寿命は9年
レース犬はわずか18か月
ドッグレースの廃止は動物愛護の観点から決定したと州政府は強調している。
(ニューサウスウェールズ州 マイク・ベアード州首相)
「こうした実態を突きつけられると
唯一の人道的措置がドッグレース廃止です。」
市場規模250億円の突然の廃止は
ニューサウスウェールズの34の町に大きな衝撃を与えている。
シドニーから車で5時間
人口5万人の町 ダボもその1つである。
廃止決定から2か月
レース犬のオーナーはみな動揺を隠せない。
(レース犬 オーナー)
「廃止発表を最初は冗談かと思った。
飼育施設に約450万円もかけて悔しい。」
レース場には
近くに住むお年寄りや小さい子どもを連れた家族の姿が数多く見られる。
娯楽が少ない地方都市では
ドッグレースは地域の社交場として親しまれている。
この町のドッグレースの市場規模は約2億円。
影響を受ける人はレースのの主催者やオーナーたちだけにとどまらない。
カンガルーの肉を使ったペットフードを製造する会社。
製品の80%以上がグレイハウンド向けである。
社長のブライアン・ティンクさんは廃止の決定を受け
途方に暮れている。
(ペットフード製造会社 ブライアン・ティンク社長)
「一流のレース犬に製品を供給して32年になるよ。
それが突然仕事がなくなるってあまりにひどいよ。」
地元のドッグレースクラブの代表 シェイン・スティフさん。
「州政府は町への影響を考慮せず一方的に廃止を決めた」と主張している。
スティフさんの家系は4代続くレース犬のトレーナー。
現在は10haの土地で約100頭飼育している。
ドッグレースは仕事というよりライフスタイルそのままだと語る。
(ドッグレースクラブ シェイン・スティフ代表)
「ドッグレースが大好きさ。
仕事や生活すべて奪われることをみんな理解できないよ。」
なんとか決定を覆そうと
スティフさんが所属するドッグレース団体は
決定の無効を求める裁判を起こしている。
(ドッグレースクラブ シェイン・スティフさん)
「裁判に希望はある。
まだ何か月もあるし最後まであきらめずに闘いたい。」
ドッグレースをめぐっては同じような指摘はこれまでに何度もされてきた。
業界は「今度こそ不正をなくすよう努力する」と言っていたが
改善されなかったため
州政府としてはもう許せないといった立場である。
州政府によると
ドッグレースが現在でも続いているのはオーストラリア以外では7つの国と地域しかなく
アメリカでは5つの地域に減少してきている。
世界的には廃止の方向に向かっているとして
決定は正当だとしている。
殺処分については年間4,000頭と驚くべき数字だが
オーナーたちによると
犬が病気やけがで回復の見込みがない場合
あくまでも最後の手段として安楽死の方法をとることがあるということである。
オーナーたちは
「4,000頭という数字は事実とは異なる。
州政府が根拠としたデータは信頼できない。」と言う。
ニューサウスウェールズ州のドッグレース産業では1万人以上が働いていると言われる。
ダボをはじめとする地方都市ではそれだけの人を吸収できる産業はない。
州政府は関係者の再就職を支援するとしているが
具体的な策は示されていない。
犬の処遇も問題となってくる。
オーナーのもとでは少なくとも6,000頭以上がいると言われる。
レースを行わないという条件で引き続き飼い続けることは出来るが
飼育を放棄する人が出てくる恐れがある。
こうしたなか注目されているのが
NPOが行っている新たな飼い主を探すイベントである。
レースに使われるグレイハウンドは比較的飼いやすいところが人気だという。
(イベント主催者 ロリ・マッカーンさん)
「グレイハウンドはとてもおとなしく
あまり運動させなくてもいいんですよ。」
最近では日本など外国に引き渡す例も出てきているそうである。
オーストラリアではすべての地域でドッグレースが行われているが
ニューサウスウェールズ州の状況を静観している。
オーナーの中には100頭単位で育てている人もいれば
仕事をリタイヤした高齢者が趣味間隔で数頭だけ育てて
レースに出して楽しんでいるというケースも少なくない。
廃止の決定は地方に暮らす人たちの趣味・生活にも大きな影響を及ぼしている。