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電通の社歌の裏側

2016-10-23 07:15:00 | 編集手帳

10月18日 編集手帳

 

 作家仲間で酒を飲んでいて軍歌の話題になった。
軍歌の真髄(しんずい)は…と、
丸谷才一さんが口ずさんだ。
「ヘイタイサンハカワイソウダネ マタネテナクノカヨ」

野坂昭如さんが『新宿海溝』(文芸春秋)で回想している。
厳密にいうと歌ではない。
古参兵のシゴキといじめに泣く新兵の悲しみを、
兵営の消灯ラッパに合わせてつづった文句である。

新兵以下の扱いだろう。
「1週間で10時間しか寝ていない」と友人に訴えていた。
大手広告会社、
電通の新入社員で過労自殺した高橋まつりさん(当時24歳)である。
月の残業が105時間では“寝て泣く”暇もなかったろう。

上司から告げられたという言葉も、
事実とすれば心ない。
「君の残業時間は会社にとって無駄だ」と。
いずれは華麗なイベントを運営したり、
世間を魅了するCMを企画したり、
東京大学を卒業して入社したときは未来の自分に胸を躍らせていたにちがいない。
無念は想像に余る。

電通の社歌は麗しい。
♪ 遥(はる)かな空に虹をかける者
  まなざし高くさきがける力よ
  この惑(ほ)星(し)の美しい未来の為(ため)に。
歌詞の裏側に、
消灯ラッパのむせび泣きを聴く。



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