9月20日 キャッチ!
9月4日に行われた香港立法会選挙。
投票率は過去最高の58%。
定数70のうち
中国政府寄りの親中派が3議席減らして40議席。
70議席のうち30議席は
もともと中国との結びつきが比較的強い各種の業界団体に割り振られているので
親中派が過半数をとることは選挙前から予想されていた。
一方 中国に批判的な勢力は
全体で3議席増やして30議席獲得した。
内わけをみると
従来の民主化政党を中心とする伝統的な民主派が24議席。
一昨年の学生たちによる大規模な抗議活動「雨傘活動」を主導した
当時の学生団体の幹部らがつくった新興の民主勢力らが3議席を獲得。
そして本土派と呼ばれる勢力が3議席を獲得した。
本土派は香港の独立といった急進的な主張をする勢力で
今回の選挙で議席を獲得するかどうかが注目されていた。
親中派は過半数を維持したとはいえ
議席の割合は全体の57%と
1997年の中国返還依頼もっとも少なくなった。
中国政府や香港政府に対する市民の強い不満が示されたと受け止められている。
特に本土派が議席を獲得したことに注目が集まっている。
本土とは中国語で「郷里(ふるさと)」という意味だが
本土派は“自分たちの本土(郷里)は中国でなく香港だと主張”。
雨傘運動は失敗に終わったとして
より強硬な手段に訴えるべきと
中国からの買い物客の排斥運動や警察との衝突事件を起こすなどして
若者中心に一定の支持を集めてきた。
こうした急進的な勢力が議席を獲得した背景には
中国への返還から19年が経つなか
若い世代を取り巻く環境の変化がある。
香港の最高学府 香港大学。
イギリスの教育専門誌による
アジア各国の大学ランキングで今年7位の東京大学を上回る4位につけた。
アジア各国の大学ランキング
①シンガポール国立大学
②シンガポール南洋理工大学
北京大学
④香港大学
⑤清華大学
⑥香港科技大学
⑦東京大学
授業は英語で行われ
ここで学べば世界の大手金融機関や会計事務所に就職できるとして
中国本土の学生の間で年々人気が高まっている。
上海から来た 方貞さん(21)。
中国本土から来る学生には約300人の在籍枠が設けられていて
毎年全土から約1万人が応募。
香港の学生よりはるかに厳しい競争を勝ち抜いて入学を果たす。
小学校のときからインターナショナルスクールに通った方さんは
英語は完璧に習得して
高校では「国際バカロレア」という世界共通の教育プログラムで最高点に近い成績を収めた。
大学の授業では常に最前列に座り積極的に質問。
高校から学んできたドイツ語も流暢である。
今年4年生の方さん。
すでに世界最大手の投資銀行から内定を受けているが
さらに魅力的な仕事を香港で見つけたいと考えている。
(香港大学会計学部 方貞さん)
「香港では大卒であれば投資銀行などに就職するチャンスは多く
私は投資家の資産管理に興味があり
選択肢はまだあるはずです。」
香港の8大学全体で中国本土の学生の在籍率は
学部では制限があり10%近くだが
大学院など研究過程では制限が無いため60%にのぼり
地元の学生たちを圧倒している。
(香港の大学生)
「中国本土の学生は香港の学生より熱心に勉強します。」
「競争がないといったらウソですが
金融業界では本土の学生の方が重宝されます。」
去年大学を卒業した 劉頴匡さん(22)は
中国本土の若者たちにチャンスを奪われていると感じている。
劉さんは高校では共通試験で香港トップクラスだった。
作詞家を夢見て大学院進学を考えたが
中国本土の学生たちとの厳しい競争にさらされて断念。
代わりに中国語の教員の道も考えたが
そこでも中国本土からの人材に行く手を阻まれたという。
今は月給17万円ほどの事務スタッフとして働いている。
(劉頴匡さん)
「勉強すれば明るい未来があると親に言われましたが
大卒でも必ず仕事があるとは限らないと知りました。」
劉さんにさらに重くのしかかるのが住宅の問題である。
中国本土からの巨額の投資マネーの流入で
香港不動産価格が高騰。
家賃14万円の広さ30平方メートルほどの部屋を友人4人で借りている。
劉さんは市民が苦しんでいるのに香港政府は中国政府の言いなりだと感じ
政治のトップは自分たちで自由に選びたいと
雨傘運動に参加。
しかし運動は
中国政府の意向を受けた香港政府によって強制的に排除された。
中国政府が民主化への要求を力で抑え込もうとしていると感じた劉さんは
香港市民の生活や価値観を守るため
より強硬な手段に訴えるべきという本土派に共感するようになったと言う。
(劉頴匡さん)
「人生をゲームに例えると
今は負けしか見えない状態です。
ゲームのルールをゼロから変えるしかありません。」
こうした若者たちの状況を人一倍懸念する人がいる。
1997年の返還前後に
香港当局のナンバー2の役職を務めたアンソン・チャンさん。
当時は香港がこのような政治的問題を抱えるようになるとは想像もしなかったと言う。
チャンさんは
独立を求める声は一部に過ぎないとする一方
若者たちが急進的になる背景にこそ目を向けるべきだと指摘する。
(香港 元政務官 アンソン・チャンさん)
「若者が懸命に働いて貯蓄しても
将来マイホームが持てません。
生活習慣・文化・価値観が着実に浸食されている場所は香港だけです。」
そして香港と中国が安定した関係を保っていくためには
中国政府が香港の高度な自治を守るべきだと話す。
(香港 元政務官 アンソン・チャンさん)
「経済や軍事面だけでなく市民の待遇においても
国に強くなってほしいです。
1国2制度の原点に立ち返るべきです。」