9月18日 編集手帳
歌人の高野公彦さんが大震災の年に詠んでいる。
〈福島に澄む秋の来(こ)よおほぞらに赤卒(せきそつ)群れて飛ぶ秋の来よ〉
赤卒を辞書でひけば「赤とんぼ」の別名とある。
よく知られる童謡への連想から、
群れを見上げる幼子と、
その子を背に負う子守の少女を、
歌の情景に重ねる方もあるかも知れない。
原発事故のあと、
6度目となる福島の秋である。
時を経て、
だいぶ澄んだということなのか、
避難指示を解除する動きが現地の市町村で進む。
昨日も富岡町で長期宿泊が始まった。
避難中の住民がもとの家で試験的に暮らす。
近い将来の帰還に備える手続きだという。
一帯の秋空に舞う赤とんぼを幾人の子が見上げることになるのだろう。
ある自治体が避難指示の解除を前に住民の意向を調べたところ、
古里に戻って学校に通うと決めている子供は1人しかいないという結果が出た。
しばらく前の紙面で読んだ話が重い。
若い世代がいてこそ地域の先行きが見通せる。
少子化と向き合う国の誰が知るところであろうが、
ここでは減るのを止めるのではなく、
ゼロから呼び戻さねばならない。
秋の声に〈来よ〉の響きを聞く。