8月1日 国際報道2018
世界中で人気のスウェーデンの児童書
「長くつ下のピッピ」。
売り上げ総数はこの70年余で6,600万部にのぼる。
その作者で
「子どもの本の女王」と呼ばれる
アストリッド・リンドグレーン(1907~2002)。
子どもが持つ可能性を信じ
それを否定する子どもへの暴力に反対し続けてきた。
東京藤美術館の“長靴下のピッピの世界展”。
日本とスウェーデンの外交関係が樹立され150年になるのを記念して
日本初公開となる作品が数多く展示された。
物語の主人公ピッピは世界一強い9歳の女の子。
両親はいないが
“ごたごた荘”と呼ばれる家に馬とサルと一緒に暮らしている。
勇気があって力持ちのピッピは
いじめっ子を懲らしめたり
火事から子どもを助けたりして
街の人気者になる。
その姿は世界の読者を魅了してきた。
(来場者)
「ピッピが少しおっちょこちょいなところとか明るいところが印象に残っています。」
「ふつうはできないことをしてくれるので
子どもの時は楽しく見ていました。」
ヨーロッパが戦火に見舞われた1940年代に
ピッピの物語を描き始めたアストリッド・リンドグレーン。
その作品を出版される前に
10歳の娘に手作りの本としてプレゼントした。
混乱する世界で勇気をもって自立して生きてほしい。
娘へのメッセージをピッピにたくしたのである。
展覧会に合わせて来日したリンドグレーンの孫 マリンさん。
子どもの心を忘れない祖母の姿が印象に残っていると言う。
(リンドグレーンの孫 マリンさん)
「それまで子ども向けの本は
親に従うべきという前提で書かれていました。
でも祖母は子どもを“小さき者”とは見ていませんでした。
大人と同じ重要な存在と考えていたのです。」
リンドグレーンが数々の作品に込めたメッセージ。
それは
子どもの主体性を信じ
育むことだった。
人間が持つ強さと優しさに
子どもは自ら気づく力があると信じていたのである。
本の中にこんなシーンがある。
自慢の力で泥棒を懲らしめたピッピ。
泥棒たちは恐ろしくなって泣き出してしまう。
するとピッピはふたりに「食べ物でも買ってちょうだい」と金貨を1枚ずつあげるのである。
ピッピはやさしいのです
すごく強い人は
すごくやさしくなくちゃ・・・ね
(リンドグレーンの孫 マリンさん)
「祖母はピッピを通して
“力を振りかざさないこと”の大切さを伝えました。
大人の世界ではそれが争いを引き起こすからです。
子どもの人間性を尊重すべきだと
祖母は早くから理解していました。」
その生涯を通して
子どもの主体性と尊厳を重んじたリンドグレーン。
逆に強く反発したのが
それを認めず子どもに暴力をふるうことだった。
1970年代
スウェーデンでは義理の父親の暴力で女の子が死亡した事件などで
虐待や体罰についての議論が激しくなっていた。
そうしたなかドイツの団体から平和賞を贈られたリンドグレーン。
授賞式で「暴力は絶対だめ!」と題したスピーチを行い
子どもへの虐待を強く非難したのである。
(アストリッド・リンドグレーン)
「もちろん子どもたちは親を尊敬すべきですが
本当のところは
親もまた自分の子どもを尊敬すべきです。
子どもたちに対して親としては当然の有利な立場を濫用すべきではありません。
すべての親子が互いに愛情に満ちた敬意を持てるようにと願っています。」
スピーチは大きな反響を呼び
翌年スウェーデンが
子どもへの体罰や精神的な虐待にあたる行為を
世界で初めて法的に禁止するきっかけになった。
しかしリンドグレーンの死後も暴力や虐待を受ける子どもが増え続けている。
WHO世界保健機関によると
その数は世界でおよそ10億人にのぼるとされている。
孫のマリンさんたちはリンドグレーンの意思を引き継ぎ
アフリカで孤児のために家をつくるなど
子どもを守る活動を続けている。
マリンさんは祖母のある言葉をいつも心にとめていると言う。
(リンドグレーンの孫 マリンさん)
「“子どもたちに愛をもっともっと注いでください
そうすれば思慮分別は子どもの中から芽生えます”
祖母の考えはシンプルで誰もが実践できることです。」
子どもの可能性を信じ続けたリンドグレーン。
世界中の子どもたちが未来を切り開く姿をピッピに重ね合わせた。
あたしはみつけ屋さんよ
世界のいろんなところに
いろんなものがいっぱいかくれているから
だれかがみつけてあげなくちゃ
それがみつけ屋さんのしごとなの