4月18日 国際報道2019
アメリカではいま薬物の蔓延がかつてないほど深刻な事態となっている。
薬物の過剰摂取による死者はここ数年で急激に増えて
2017年には初めて年間7万人を超えた。
その大きな原因がフェンタニルという薬物。
もともとは合法的な医療用の鎮痛剤の一種だが
モルヒネやヘロインの50倍の強さがあると言われている。
高揚感が得られるがその効果は一時的で中毒性も強いとされている。
ここ数年は中国などで密造された違法なフェンタニルがアメリカ国内で安い価格で流通していて
過剰に摂取して死亡する人が急増している。
4月4日 ホワイトハウスで行われたトランプ大統領と中国の劉鶴副首相との会談。
会談の冒頭トランプ大統領が口にしたのは
(アメリカ トランプ大統領)
「中国がフェンタニルの規制強化を発表した。
アメリカにとって素晴らしいことだ。
米国では年間7万7,000人フェンタニルなどで命を落としている。
中国の決定に深く感謝する。」
トランプ大統領も危機感をあらわにするフェンタニルによる薬物中毒。
アメリカ建国の地として知られるフィラデルフィアの郊外。
路上で数多く目にするのが薬物中毒者の姿である。
密売人とみられる人の姿も。
そして道端には薬物を摂取するために使った注射器が散乱。
薬物中毒の人たちを支援している施設では無料で食事が配られ多くの人が集まる。
薬物のために家族や仕事を失い行き場のない人々。
この施設を訪れる人は急増している。
この日も200人ほどが詰めかけていた。
(薬物中毒者)
「朝起きて仕事するには薬がないとだめだ。
食べ物と同じで体が必要としているんだ。」
「フェンタニルは5ドルで買え
簡単に手に入る。」
1日20回以上打つこともあるという49歳の男性。
手だけではなく足にも注射をしている。
「良くないことだとはわかっている。
周りで多くが死んでいる。
でもどうしようもないんだ。」
薬物中毒に陥る人には社会的地位や所得が高かった人も少なくないという。
(薬物中毒支援施設 責任者)
「医師や弁護士
警察官など
インテリの人も多くいます。
しかし薬物にむしばまれ
おかしくなり
どん底の状態になって人生をだめにします。」
なぜフェンタニルがここまで社会に広く蔓延しているのか。
アメリカでは20年前ごろから
中毒性の強い医療用の鎮痛剤が医師により大量に処方されるようになった。
合法的な薬ではあったが薬物依存に陥る人が増えていった。
(フィラデルフィア保健衛生局 トム・ファーリー局長)
「医師たちは必要以上に鎮痛剤を処方し多くの人が薬物に依存するようになりました。」
こうした医療用の鎮痛剤の一つがフェンタニルである。
状況が急速に深刻化したのは
数年前から中国で密造されたフェンタニルがアメリカ国内で違法に流通し始めたことである。
違法なフェンタニルは値段が安く
少量でも高揚感や幸福感が得られるという。
しかし中毒性が高く常用者が爆発的に増えていったのである。
行政の対応も後手に回っているのが現状である。
(フィラデルフィア保健衛生局 トム・ファーリー局長)
「買いたい人が多いので金儲けのための売人が絶えません。
違法市場はアメリカ中に広がり
食い止めるのは不可能です。」
地元にある公共の図書館では薬物に関する講習会が開かれている。
フィラデルフィアで薬物の過剰摂取で死亡した人は年間1,200人余。
10年前の3倍で
今や薬物中毒は市民の身近な問題となっている。
講習会の目的ももはや薬物を使用しないよう呼びかける段階ではない。
教えているのは
身近な人がフェンタニルを過剰摂取して生命の危険に陥ったときの救命方法である。
ショック状態になった中毒者を直ちに救うための講習が行われているのである。
(保険衛生局 担当者)
「“人々は薬物を使用している”との現実を受け止め
まず命を保つことが必要です。」
薬物は本人だけでなく家族の生活にも大きな影響を与えている。
ペンシルべニア州に住むシャナハンさん。
3年余り前に娘を薬物中毒で亡くした。
娘のブリアナさんは18歳のとき交際していたボーイフレンドから勧められ薬物に出を出し依存するようになった。
(シャナハンさん)
「まず感じたのは恐怖
次に怒りを感じました。
いったいなぜこんなことにと。」
シャナハンさんは娘が薬物依存と戦うことを応援していた。
25歳になったブリアナさんはリハビリ施設に通い始めようというその前日に自宅の2階で亡くなっているのが見つかった、
誤ってフェンタニルを過剰に摂取したとみられている。
見つけたのはブリアナさんの長男。
そのとき3歳だった。
(シャナハンさん)
「孫が2回から下りてきて“ママが死んでる”と。
私は一瞬にして体中の血の気が引きました。
悪夢です。
一生忘れることはありません。」
シャナハンさんは2人の孫を引き取った。
孫の父親も薬物中毒だった。
アメリカでは親せきやお父母に育てられる子どもは全体の10%にのぼり増えている。
その原因の一つは親の薬物中毒だと指摘されている。
(シャナハンさん)
「経済面が大変で
精神的にも本当につらいです。
私に何かあったらいったいどうなるのでしょうか。
薬物は娘も私たち家族も壊してしまったのです。」