4月22日 国際報道2019
ウクライナ南部のクリミア併合や東部での紛争をめぐって
ロシアとの対決姿勢を前面に押し出してきた現職のポロシェンコ大統領。
これに挑んだのが
ロシアに反発しながらも武力よりは対話を重視する方針を示す
新人でタレントのゼレンスキー氏(41)である。
政治経験のないゼレンスキー氏。
自らの投票用紙をメディアに見せたことが法律に違反するとしてさっそく警察から事情聴取を受けるという一幕もあった。
4月21日に決選投票が行われたウクライナの大統領選挙。
中央選挙管理委員会により開票率が96%の時点で
得票率はゼレンスキー氏が73,1%と
ポロシェンコ大統領の24,5%を大きく上回り
初当選した。
支持者の前に姿を現したゼレンスキー氏は
(ゼレンスキー氏)
「皆さんの期待をけっして裏切らないと約束する。」
アメリカのトランプ大統領やフランスのマクロン大統領など
欧米各国の首脳は相次いでゼレンスキー氏に電話をかけ勝利を祝福した。
一方 敗北を認めたポロシェンコ大統領は
自身が目指してきた“ヨーロッパとの統合”をゼレンスキー氏に託した。
(ポロシェンコ大統領)
「ウクライナの国益のため
そしてEUやNATOに近づくため
新しい大統領に協力する。」
ゼレンスキー氏の支持者も驚くほどの地滑り的な勝利だった。
ゼレンスキー氏が立候補を表明したのは去年の大晦日で
5か月にも満たない短い選挙運動で大統領の椅子にのぼりつめたことになる。
その背景にあったのは今のウクライナを覆う重苦しい閉塞感だった。
キエフの独立広場は
ウクライナがロシアの影響力から逃れようと
2004年にはオレンジ革命
2015年には100人超の死者が出る政変を起こしている。
多数の死者を出しようやく新欧米政権を生み出したのにもかかわらず
国民の暮らしは一向に良くならなかった。
実際いまでも汚職はやまず経済は低迷し
クリミアは併合され
さらに東部では紛争が続いている。
不甲斐ない政治エリートに対して有権者が「NO」を突きつけた結果といえる。
現職を大差で破りウクライナの大統領に就任することになったゼレンスキー氏。
ウクライナでは知らない人はいないほどの人気タレントである。
ゼレンスキー氏の人気を後押ししたのがテレビドラマ「国民のしもべ」。
私が1週間 大統領になればすべてが変わる
ゼレンスキー氏が演じる高校教師が突然大統領に転身するというストーリー。
選挙のPR動画では
腐敗にまみれ不毛な議論を繰り返す政治家たちを一掃し
戦時改革を断行する強いリーダー像を国民に植え付けた。
政治経験のないゼレンスキー氏。
その手腕が問われるのがロシアとの関係改善である。
ポロシェンコ大統領と同じく反ロシアの立場をとるものの
話し合いを通じて両国の関係を改善すべきだと訴えてきた。
(ゼレンスキー氏)
「ロシアとの協議はシンプルに
互いの要望や条件を紙に書いて
“我々の条件はこれだ”と提示すれば真ん中あたりで折り合える。」
こうしたゼレンスキー氏の考えを支持する有権者の1人
首都キエフに暮らすイーゴリ・ラゴビッチさん(44)。
かつては東部の町で雑貨店を経営し家族と平穏に暮らしていた。
しかし東部では2015年のウクライナし危機以降
ウクライナ軍と親ロシアの間で戦闘が続き
今も増勢は緊迫したままである。
身の危険を感じたラゴビッチさんは
5年前 妻と長女を連れてキエフに移り住んだ。
(ラゴビッチさん)
「知り合いも戦闘で亡くなりました。
以前は事業も順調で海外旅行も年3回行っていましたが
すべてを捨ててここに避難してきました。」
ラゴビッチさんはいま企業の運転手として生計を立てているが
収入は9割も減少したという。
ゼレンスキー氏が大統領になればロシアとの話し合いで東部の戦闘も収束し
故郷に平和を取り戻せるのではないかと
ラゴビッチさんやその家族は期待を寄せている。
「ゼレンスキー氏に投票するわ。
彼なら若くて優秀な人材を登用するはず。
ゼレンスキー氏こそ国民の代表者よ。
きっとこの戦闘を終わらせてくれると信じているわ。」
1日も早く故郷に戻りたい。
ラゴビッチさんは思いを強める出来事があった。
故郷に建てた自宅が気になり様子を見に行った時のこと。
(ラゴビッチさん)
「お前ら!
俺の家で何してんだ!
上官を読んで来い!」
戦闘の最前線に近かった自宅はウクライナ軍の兵士の拠点として勝手に使われ荒らされていたのである。
(ラゴビッチさん)
「多くは望みません。
ただ早く戦闘が終わってほしい。
自分の家に帰りたいだけです。」