4月10日 NHKBS1「国際報道2020」
新型コロナウィルスの感染が続くヨーロッパ。
EUの各国は次々と国境を封鎖するなど
共同体としての結束が大きく揺らぐ事態となっている。
そうしたヨーロッパに医療支援を始めマスクなどの医療物資を積極的に送っているのが中国である。
世界で最も死者数が多いイタリアを支援するため医療従事者などを派遣したが
これはEUよりも早かった。
こうしたいわば“マスク外交”はバルカン半島の国々にも及んでいる。
感染者が急増するなか
中国は医療物資を送るだけでなく医療専門家チームを派遣している。
人道的な支援ではあるが
現地では
中国の巨大経済圏構想“一帯一路”に絡めた思惑も透けて見える。
バルカン半島にあるセルビア。
3月21日 首都ベオグラードに到着したのは
中国からマスクなど医療物資や医療チームを乗せたチャーター便だった。
自ら空港まで出迎えたセルビアのブチッチ大統領は
中国に対し
最大級の謝辞を表した。
(セルビア ブチッチ大統領)
「困った時に助け合うのが真の友人だ。
中国からの支援を忘れることはないだろう。」
(セルビア駐在 陳中国大使)
「中国とセルビアは苦難を共にする兄弟。
鉄の友情で結ばれています。
ともに新型コロナウィルスと戦うなかで
両国の人々は固い絆を作り出しています。」
新型コロナウィルスの感染者が急増するセルビア。
EUからの支援を期待したが
各国は自分たちを守ることに精一杯で
むしろEUの盟主であるドイツやフランスは当初マスクの輸出を制限した。
これに対し
ブチッチ大統領は
「ヨーロッパの連帯など存在しない おとぎ話だった」と激しく非難した。
そこに支援の手を差し伸べたのが中国である。
ウェルビアノ政府系大衆紙は
“新型コロナウィルスはEUを殺し中国がリーダーになった”
と伝えている。
バルカン半島でマスク外交を展開する中国。
その理由は巨大経済圏 一帯一路にある。
バルカン半島はヨーロッパへの入り口にあたり
輸送の要衝に位置している。
拠点となる港がある隣国のモンテネグロ。
人口わずか65万ほどの小さな国である。
地元で“世紀のプロジェクト“と言われる高速道路の建設。
港と主要都市を結ぶ予定のモンテネグロ初の高速道路で
建国以来最大規模の工事である。
完成すれば全長は165キロに及ぶ。
建設現場で目に入るのは中国語の文字。
建設に携わるのは中国の大手国有企業である。
これまで建設費用が工面できずプロジェクトはなかなか進まなかったが
中国から多額の融資を受け実現した。
(市民)
「さまざまなメリットがある。
高速道路の建設に期待しています。」
「中国からの融資は不可欠で必要なことです。
この国には十分なお金はなかったのだから。」
中国を歓迎する声がある一方で
警戒する声も広がっていた。
“中国への債務は容易に返済できる額ではない”
そう警告するモンテネグロ最大の新聞の編集長 コソビッチさん。
(大手新聞社 編集長 コソビッチさん)
「人口わずか65万の小国に対して
少なくとも1,200億円の建設費が投じられているとみられ
財政的に非常に危険な状況です。
すでに債務はGDPの80%にも達しています。」
こうした不安はバルカン半島諸国で広がっていて
一帯一路を進める中国への不信感にもつながっていた。
そうした中で中国が進めたマスク外交。
モンテネグロにも3月 中国から医療物資が届いた。
不満や警戒を払拭し
一帯一路構想を進めたい思惑もあるとみられる。
(オーストリア グラーツ大学 ビーバー教授)
「EUの機能性の鈍さが露呈する一方
中国はヨーロッパ各国に活発に医療支援を行なった。
コロナ危機で
中国はさらに存在感を高めることになった。」