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いまは互いの労をいたわって

2020-05-19 07:00:00 | 編集手帳

4月26日 読売新聞「編集手帳」


真昼、
ビルが林立する街をドローンが飛ぶ。
人や車、
上空から撮影された映像はまるきり動くものが確認できない。

異様で不気味、
映画の一場面にしか見えない。
けれど、
実際の台湾の様子だと聞いて、
初めて見た際にはひどく驚かされた。
アーティスト袁(ユェン)廣鳴(グァンミン)さんの映像作品で、
昨年のあいちトリエンナーレで上映された。
動画投稿サイトでも閲覧できる。

台湾では万安演習という名の防空演習が毎年実施されているそうだ。
日中の30分間、
全ての人々が屋内に退避し、
車両の通行も制限される。
違反には罰金が科せられるらしい。

人けが消えた繁華街、
その異常な現実に慣れつつある昨今である。
30分どころではない。
もう何日も続く静寂の裏に、
どれほど大勢の努力があるのか。
罰則を要とせず、
一人ひとりが自発的に発揮している忍耐力を改めて思う。

人の減り具合を示す数値が成績表のようで、
つい一喜一憂してしまう。
郊外の商店街とかスーパーとか別の場所に流れただけとの見方もある。
ただ、
今は素直に互いの労をいたわり合いたい。
山場という言葉を幾度となく聞かされ、
心が折れそうな今だけは。

 

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