4月29日 読売新聞「編集手帳」
薔薇は春、
芽を吹いてぐんぐん茎を伸ばす。
正岡子規に名歌がある。
<くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる>
赤い色の二尺ほど伸びた薔薇の芽は、
まだそのトゲがやわらかく、
そこに春雨がしっとりと降りかかる…
この意訳を読んでピンとこない方がおいでだろう。
<二尺>である。
メートル法に改めると約60センチ。
最近<社会的距離>という“新語”を聞くたび、
子規の歌を思い浮かべている。
子供たちが学校で使う机の幅も60センチほどである。
社会的距離に従って2メートルあいだを空けるとすれば、
教室の面積が足りなくなるだろうと。
感染症の拡大に伴う臨時休校の長期化から、
「入学・新学期の開始時期を9月へ変更すべきだ」との声が聞かれるようになった。
杞憂(きゆう)
近々教室に元通りに机を並べられる状況ではないことを考えると、
真剣に議論を始めることが必要だろう。
教育のみならず、
社会全体への影響は計り知れない。
このところ、
カレンダーに目をやるのがいささか怖い。
気がつけば、
子供たちに勢いよく芽を吹いてもらうはずの4月があすで終わる。