4月21日 読売新聞「編集手帳」
詩人のまど・みちおさんに、
「もやし」と題する極めて短い作品がある。
<うえを
したへの
おおさわぎ>
3行だけのこの詩はおおよそ、
次のように解釈されている。
もやしは栽培時、
規則正しく上向きに伸びている。
だが出荷されるときは袋に入り、
上を下への大騒ぎに見える――
小欄はお店の棚にその野菜を見かけると、
小学校の教室のにぎやかな風景を浮かべる。
子供たちはどんなにかそこに戻りたいことだろう。
今はみんなで一緒に勉強することもなければ、
合唱することもない。
全国的な休校措置が取られて、
ひと月半が過ぎた。
新型ウイルスの感染者の数に気持ちの揺れる日々が続く。
きょうは何人だった?
まだ減らないんだね。
なかなか朗報の響かない空のもと、
そんな親子の会話が無数に繰り返されているだろう。
「もやし」は漢字で「萌やし」と書く。
たまたま歴史的な感染症の危機に学齢期を迎えたばかりに、
集団に身を置いて草木のように芽吹く時期を、
一日一日と失う子供がいることを胸にきざもう。
上を下への大騒ぎを早くさせてあげたいものである。
先生は少し困りはするけれど。