5月6日 NHKBS1「国際報道2020」
ブラジルのアマゾンには300以上の先住民族が暮らしていて
その人口は100万を超える。
先住民族の人たちは現代社会との接触が少ないので
外部からの病原体に弱いとされている。
過去には一部の民族が絶滅の危機に瀕した歴史がある。
そして今回も
都市部からアマゾンへと新型コロナウィルスが迫っている。
(TV Band 4月10日放送)
「北部ロライマ州で
先住民族「ヤノマミ族」の15歳の少年が
新型コロナウィルスに感染し死亡しました。」
アマゾンの奥地で
1万年以上ものあいだ独自の文化・風習を守り続けているヤノマミ族。
欧米では“最後の石器人”とも呼ばれている。
最大規模の部族であるヤノマミ族で起きた一大事に
先住民族の間には不安が広がっている。
(先住民族の団体トップ)
「我々は人口が少ないです。
もし誰か1人でも感染したらみんなに広がるので
心配しています。」
先住民族がおびえる背景のひとつに
ウィルスに関する情報が遮断されていることがある。
それぞれが異なる文化を持ち
異なる言葉で生活しているためである。
先住民族が守ってきた“近代的な医療環境からかけ離れた暮らし”が
感染拡大につながる可能性も。
新型コロナウィルスの恐怖に打ち勝つため
伝統的な治療を行なっているという。
(先住民族 指導者)
「伝統的な療法にも決まりがあります。
薬草を集めてこね
浸した水を浴びます。」
さらにウィルス感染のリスクは
先住民族の内部の問題だけではない。
立ち入りが制限されている先住民族の保護地域に違法に侵入する人が増加。
外部からウィルスが持ち込まれているのである。
アマゾンに侵入しているのは
金鉱脈などを求めてやって来る違法な採掘業者である。
(先住民族支援のNGO カルド―ソさん)
「監督者がいないことを知っているため
いま侵入者が入ってきています。」
一方でアマゾン川の流域にある町では
新型ウィルスによる死者が急増。
都市部に比べると医療体制が整っていないところが多く
治療も追いつかず
感染者は増える一方である。
そうした感染のリスクが高い街に
小麦や生活用品を手に入れるために出かける先住民族も少なくない。
街への移動に拍車をかけているのが
去年発生した大規模な森林火災である。
ボルソナロ大統領の経済優先の姿勢のもと
開発が進むアマゾン。
野焼きが野放しになるなどして農地を失う人々も相次いだ。
このため自給できる食料が減り
新型ウィルスの感染拡大で各自治体が外出制限をする中でも
生活を維持するためにも頻繁に街へ行かざるを得なくなったのである。
(先住民族の団体トップ)
「街に行き歩き回ることを禁じていますが
村の食べ物が枯渇する懸念もあるのである。」
経済第一主義を掲げるボルソナロ大統領は
先住民族の保護にほとんど興味がない。
本来先住民族が暮らすアマゾン周辺の警備にあたるべき警察や軍も
サンパウロのような都市部の対応に回され
先住民族の保護地域は放置されているような状況である。
こうしたなか懸念されているのは
違法な侵入者の増加である。
今がチャンスとばかりに保護地域に不法に侵入し
先住民族が殺される事件も起きている。
一方 先住民族に手を差し伸べようという動きがNGOの呼びかけで広がっている。
北部ロンドニア州で4月
NGOなどが先住民族向けの食料を調達するために買い出しを行なった。
袋に小分けしていたのは米や小麦 パスタなど
先住民族が自給自足できない食糧である。
資金はすべて寄付で賄われている。
食料を先住民族の保護地域の入り口まで届けることで
「ステイホーム」を実行してもらおうというのである。
購入した食料はいったんNGOの事務所に集められる。
その後 袋などを1つ1つ消毒。
先住民族は外部からの病原体に弱いとされ
少しでも感染リスクを減らさなければならない。
NGOを率いるカルド―ソさんは地元政府と二人三脚で支援にあたっている。
先住民族のリーダーの協力を得て集落の場所や人数を把握。
配送リストを作った。
(先住民族支援のNGO カルド―ソさん)
「ここにいる多くの若者たちの助けがなければ
支援活動はできなかった。」
先住民族の村は
北部ロンドニア州の州都から直線距離で300㎞ほど。
道路は舗装されておらず
川には橋もかかっていない。
船などを乗り継ぐこと5時間。
ようやく村の入り口までたどり着いた。
先住民族の村は感染防止のため入り口で封鎖。
中に入ることはできない。
村を代表する祈祷師・シャーマンに
十分に対策を取っていると通訳を介して説明重ね
食料を渡すことができた。
こうして届けられた食料は村の中で分配された。
(先住民族の団体トップ)
「我々はいま食料と支援を必要としています。
大きな助けになるでしょう。」
これまで外部からの病気の侵入で
何度も危機にさらされてきたブラジルの先住民族。
新型コロナの蔓延防止に向けて
試行錯誤が続いている。
アマゾンの先住民族に対する感染対策が拡充される見込みはない。
民間の善意頼みという厳しい状況である。
ブラジルでは4月までに120人の先住民族の感染が確認されているが
実態はよく分かっていない。
広大なアマゾンに分散して暮らしている先住民族の状況を
政府も把握しきれていないのが実情である。
さらに先住民族の閉鎖性も被害拡大の大きな要因になっている。
支援を行なおうにも
先住民族の知り合いがいないと支援自体を拒否されることも多いという。
こうした状況はアマゾンを抱える南米9か国も同じである。
アマゾンには合計300万人の先住民族が暮らしているが
ほとんど有効な対策はとられていない。
気がついたらアマゾン全域で多くの先住民族が亡くなっていたということになりかねない。