5月12日 NHKBS1「国際報道2020」
5月5日に開幕した韓国のプロ野球。
しかし試合の雰囲気はいつもとずいぶん違う。
審判はマスクをして手袋を着用。
ボールボーイもマスク姿である。
ホームランのあと喜びを分かち合う定番のシーンでも選手たちの出迎えはない。
ハイタッチはもちろん禁止である。
そしてなにより球場にファンの姿がない。
当面は無観客試合が続く。
(LGツインズ キム・ヒョンス選手)
「開幕し
野球ができてうれしい。
無意識に出てしまう行動もあるので
しっかりと対処していきたい。」
シーズン開幕にあたりKBO韓国野球委員会は
専門家の指導のもとウィルスの感染を防ぐマニュアルを作った。
44ページに及ぶマニュアルには
球団関係者・スタッフなどがとるべき対応が細かく記されている。
たとえば球場での動線である。
選手たちは休場の入り口からロッカールームへ
そしてベンチまでのルートが細かく決められている。
関係者の動線を分けることで接触を最小限に抑えるのが狙いである。
感染が疑われる人が出た場合の対応も明記されている。
球場近くでPCR検査が受けられる場所のリスト。
感染が確認された場合
濃厚接触者を含め隔離する。
関連施設は少なくとも2日間は封鎖。
シーズンの進行に支障をきたす場合には中断を検討するとしている。
(KBO韓国野球委員会 リュ・デファン事務総長)
「ある程度 安定してきたが
今後どうなるかわからないので準備しなければならない。
もし選手が感染した場合
最低でも3週間程度は試合を中断しなければならない。」
試合の臨場感を少しでも感じたい。
球場の外には熱心なファンの姿も見られる。
(ファン)
「無観客だが
開幕して気分がいい。
家族もファン。
子どもの日に合わせた開幕なので一緒に応援しに来た。」
球場近くの飲食店でも・・・。
(ファン)
「もう我慢できない!
心はすでに球場にいる。
一日も早く球場に行って観戦したい。」
無観客試合は球団の経営面に暗い影を落としている。
昨シーズンの入場料収入はリーグ全体で約75億円。
観客を入れられない期間が長引くほど
経営の打撃は大きくなる。
こうしたなか韓国のプロ野球リーグは
アメリカのスポーツ専門チャンネルと契約。
まだ大リーグが始まっていないアメリカでの放送に活路を見出そうとしている。
オンラインイベントなどを通じて
新たなファンの獲得も目指し
収入の確保につなげようと模索を続けている。
(KBO韓国野球委員会 リュ・デファン事務総長)
「売り上げは30~40%減ることになる。
減収を最小化し
他の収益を創出できるよう球団とともに努力している。」
一方 台湾では5月8日から観客を入れての試合が再開した。
チアリーダーに合わせて観客も一緒に踊る台湾流の応援が戻ってきた。
観客には新たにマスクの着用が義務付けられた。
台湾では4月 まず無観客の形で試合が開幕。
そして5月
“渡航歴がない人の感染ゼロ”が20日以上続き
感染の抑え込みができているとして
次のステップに進んだ。
(感染対策を指揮する 陳衛生福利部長)
「プロ野球は8日から観客を入れるとしているが
1,000人を最初の一歩とする。」
その後 球場では急ピッチで準備が進められた。
(富邦球団 社長)
「チアリーダーと1列目の客の距離をとり
今回は2列空けています。」
観客同士の距離をとるため
シールが貼ってある場所にしか座れないようにした。
左右に2席ずつ
前後は1列ずつ空けてある。
通路にもソーシャルディスタンシングを呼びかけるシールが。
自治体の感染対策を指揮する幹部も球場を細かくチェック。
感染対策の抜け穴を作ってはいけないと
運営側を引き締めた。
(地元自治体幹部)
「やってほしいことは
トイレのペーパータオルと手の消毒用アルコールを増やすこと。
今回見たところだと
この2点について必ず先にやってもらいたい。
万全に準備してほしい。」
観客を迎え入れる初日。
入り口では検温に加え
感染が確認された場合に連絡が取れるよう
渡航歴や健康状態の申告
それに本人確認も求められた。
食べ物の販売は禁止に。
たとえ家族や友人とでも離れて座る。
しかし試合が始まるとスタンドは熱気を帯びて総立ちに。
ファンたちは興奮冷めやらない様子だった。
(ファン)
「家ではめちゃくちゃに叫ぶことができないでしょ?
球場だったらどれだけ大声出しても誰も気にしない。
とてもストレス解消になる。」
「この日を首を長くして待っていた。
感染防止に取り組む人たちに感謝する。」
注目すべきは
感染しないための対策だけではなく
感染者が出た場合を想定した対策にも同じぐらい力を入れて
影響を最小限に抑えるための手順を決めていることである。
韓国プロ野球のマニュアルの一部ではー
選手に発熱などの症状が発生した場合
まずは選手本人のみを隔離する。
そして選手から球団
野球委員会に報告をする。
その間に検査を実施する。
検査の結果
陰性なら隔離を解除する。
陽性の場合
濃厚接触者を特定し14日間自宅などで隔離しなければならない。
濃厚接触者の範囲が広く“リーグ進行に支障あり”と判断された場合
リーグの中断を検討する。
台湾が
観客の座席を全て指定席とし
感染者が出た場合にも追跡できるようにしているというのも同じ考えで
野球を再開した場合
日常生活を送る場合に比べて感染のリスクが高まるという危機感がある。
選手たちは
グラウンド上でのプレーだけではなく
試合前後のミーティングや
食事をともにしたり
報道陣への取材対応
ロッカールームでの体のケアやシャワー
移動も共にする
一種の生活共同体である。
感染者が出ることを見越して
感染拡大を防ぐことの対策を講じておくことが
新型コロナウィルスの中でスポーツをすることと言える。