4月14日 読売新聞「編集手帳」
よそよそしい、
よそ様…などという時の「よそ」は「余所」と書く。
万葉集に見られないため、
中世以降の当て字と考えられている。
昔どこかに、
よそよそしいとは人と人との間に<所を余す>ことだと考えた人がいたのかもしれない。
なかなかのセンスである。
現代の言葉でも、
例え方が同じになる。
<距離を置く>と聞いて、
よそよそしいとの意を受け取らない人はないだろう。
これまではややさみしい使われ方しかなかったが、
今や一変していよう。
新型ウイルスの拡大を、
抑え込むためのキーワードにもなっている。
ターミナル駅のホームに通勤客が所を余しつつ、
距離を置きつつ、
気を配りながら立って電車の到着を待つ光景をテレビで見た。
スーパーのレジのように仕切り線が足元にあるわけではないのに、
である。
人と接触する機会を8割減らす――ともすれば、
そんなことが本当にできるのかと弱気も生じる目標だが、
困難に立ち向かおうと大勢の人が呼吸を合わせていることは確かだろう。
<距離を置く>とはひととき、
みなが力を合わせ災難を乗り切る意があった…と、
後の世の辞書に載せよう。