4月23日 NHKBS1「国際報道2020」
ブラジルは貧富の格差が激しい国の1つである。
貧しい人々が新型コロナウィルスの影響でより多くの危険にさらされる
“命の格差”もあらわになってきている。
リオデジャネイロ。
人口の2割にあたる140万人が暮らすファベーラ(貧民街)。
いま感染の急速な広がりが懸念されている。
ファベーラの観光ガイドをしているコズミさん(30)。
貧富の格差が“命の格差”につながっている。
その現実を伝えたいと
自らの携帯電話で細かく記録している。
(ファベーラの現状を記録 コズミさん)
「貧困層の人は息苦しさや発熱の症状があっても
病院で検査を受けることも容易ではありません。
でも富裕層にはそんなことは絶対に起きません。
この国がいかに不公平なのかを示しています。」
もともとファベーラは3密(密閉・密集・密接)が極めて多い場所である。
「見ての通り1軒1軒が近く密集しています。
路地もとても狭いです。」
もし誰かが感染してしまえば隔離が難しく
一気に広まる恐れがある。
(住民)
「家は狭いです。
4人で暮らしていますがトイレと寝室と居間だけです。
みんな帰宅するとずっと家にいます。」
感染防止に不可欠な手洗いさえ満足にできない。
(住民)
「2か月以上断水していて
服や食器を洗うことすらできません。」
「行政の人たちは視察に来ても見るだけで何もしない。
ウィルスのせいで大変な状況なのに。」
一方 感染の拡大は富裕層と貧困層の間に新たな対立を生み出していた。
富裕層の家で明度として働いてきたミシェレさん。
感染の恐怖におびえていた。
(家政婦 ミシェレさん)
「保健所に行っても入れてくれないだろうし
検査を受けたくても受けられません。
私が裕福だったらこうはならなかったはずです。」
ミシェレさんが不安を感じるのは
富裕層の雇い主からメイドたちに感染する事例が相次いでいるからだという。
国民の全ての所得の半分近くを上位1割の富裕層が占めるブラジル。
リオデジャネイロで感染が拡大したのは
ヨーロッパ旅行から戻ってきた
海外沿いの高級住宅地の住民たちの感染がきっかけだった。
感染者の分布を地図に示すと
富裕層が多く住む地域から広がったことがわかる。
当初 感染者の多くを海外旅行から帰国した人々が占めていたため
ブラジルでは“金持ちの病気”と呼ばれた。
ところがこの街で初めての死者となったのは
イタリアからの旅行帰りの雇い主から感染したとされる貧困層のメイドの女性だった。
雇い主は検査で陽性と診断され自宅で療養していた。
しかし女性はその事実を伝えられないまま働き続けた。
その後体調が悪化し
感染が確認された直後に亡くなったのである。
(家政婦 ミシェレさん)
「ファベーラは誰からも見捨てられた場所です。
パンデミックのような事態が起これば
なおさらそうなります。」
(ファベーラの現状を記録 コズミさん)
「雇い主の感染を知らされず働かされるなんて不公平です。
一番助けを必要とする人たちが
金持ちに不当な扱いを受けているのです。」
この日コズミさんの家の近くで新たな犠牲者が出た。
感染が疑われた1人暮らしの男性が自宅で死亡したのである。
(近所の住民)
「いつもひどく咳き込む音が聞こえていて
心配していました。
男性は“気分が悪いから救急車を呼んでほしい”と訴えてきました。
でも救急車の到着が遅れ
心臓発作で亡くなってしまいました。」
「行政に対して怒りを感じています。
遺体を運ぶ車もまだ来ていません。
昨日からずっと自宅に放置されたままです。
新型コロナウィルスで亡くなったからでしょう。」
ファベーラに20年以上通い
コズミさんたちへの支援活動を続けてきた下郷さとみさん。
感染の拡大によって
ブラジル社会が長年抱えてきた格差の問題が改めて浮き彫りになったという。
(長年ファベーラで支援活動 下郷さとみさん)
「激しい格差が放置されてきたブラジル社会のひずみが
いまファベーラをさらに苦しめています。
貧困層の多くは工場や建設現場 サービス業など
外へ出て働かなくてはならない。
こうしたところにも命の格差が露呈していると思います。」
コロナウィルスが浮き彫りにした厳しい現実。
それを変えていく必要があると
下郷さんは考えている。
(長年ファベーラで支援活動 下郷さとみさん)
「彼らの声に耳を傾けてこなかった社会がある。
彼らの声に耳を傾ける
ともに社会を作っていく。
そういう動きが必要ではないか。」