書評 BOOKREVIEW
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おぞましい中国のモンゴル、チベット、ウイグルへの民族浄化
中国人が他民族より優れているという理解不能の狂気が中華思想だ
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楊海英『文化大革命とモンゴル人ジェノサイド(上下二巻)』(草思社文庫)
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日本人は中国共産党が行った大量虐殺の真実を知らない。隠されてきたからであり、また日本の親中派メディアと「日中友好人士」たちが、このおぞましい真実からは目を背け、沈黙してきたからだ。
2022年五月にエイドリアン・ゼンツ博士が、第三者が中国公安部の機密資料をハッキングで入手した「新彊公安ファイル」を解析し、収容所に閉じ込められた人々のリスト、写真、そして弾圧側の幹部の指令、発言などを発表した。日本ではNHKと毎日新聞など西側メディアが「信憑性が高い」として一斉に報じた。
中国政府は6000頁からなる公文書ならびに被害報告、その記録を公開せず、研究者でも閲覧できない。こうした機密文書から、封印されてきた殺戮の全貌を検証したのが、本書である。
中国共産党が民主主義を懼れ、活動家を逮捕し、拷問し、洗脳している。そのうえ大量の労働者を沿岸部へ移動し、労働作業に当たらせている。いったい、ウイグルで何が行われているか、強制収容所の実態が、ようやく西側の知るところとなった。
中国は制裁を受けているが、蛙の面になんとか、拷問と処刑、女性レイプ、不妊手術の強要と漢族男性との強制結婚などを「あれは再教育施設である」、「職業訓練所だ」と嘯き、開き直っている。
嘗てチベットで、南モンゴルで同じ殺戮行為が展開された。
このような狂気が『中華思想』として「普通の中国人」の意識にも植え着いている。
1982年12月に『TIME』が、海外留学の中国人が結集し、『自由、民主、人権、法治』を目指しての反体制組織「中国之春」が結成されたと報じた。評者(宮崎)はすぐに連絡先を調べ、83年8月にNYで主宰の王丙章博士ほか数名の活動家と会った。王博士とは、その後も数回、NYとワシントンで会った。熱望され、自由を渇仰した多くの留学生がはせ参じ、世界四十ケ国で支部が出来た。日本でも地下組織が誕生した。これが「中国民主党」への伏線である。
かれらの主張は多岐に亘るが、第一にマルクス主義は中国の伝統とは無縁であるという主張だった。第二に歴史修正主義ではないが、日本の言い分を素直に聞こうとする真摯な態度があった。
1989年6月4日の天安門事件直後、海外へのがれた吾爾開希(ウーアルカイシ)ら学生指導者らは、「中国民主陣線」を結成した。王丙章博士は突如来日し、香港へ飛ぼうとしたが、航空会社が搭乗を拒否した。それから数年後、ベトナムから広西チワン自治区へ潜り込んだのだが、おとり捜査によって逮捕され、無期徒刑となった。王博士はあきらかに拷問され、まともにしゃべることが出来ず、実弟が面会に行ったが、もはや廃人同然だったという。
なぜ、こういうおぞましいことが起きるのか?
楊海英教授は次のよう言う。ここが本書の要諦である。
「二十世紀に入ってからダーウィニズムや共産主義思想が中国に伝わると、たちまち中華思想と合体した。中国人が他民族よりも『進化=進歩』しており、他民族は『立ち後れている』と再解釈すれば、革命の下での殺戮も正当化出来たのである(中略)。人口構成という社会学的な面からみても、中国共産党と中国人は利益共同体に」なっている。文字通り、両者は表裏一体の暴力機関と化しているので、区別するのは無意味である」。(下巻、266p)。
『普通のドイツ人がホロコースト実施に協力した。
中国はチベット、南モンゴルで大規模なホロコーストを繰り返した。いまウイグルで、カザフ人も含めて血の弾圧を展開している。
「東トルキスタンに古くから住んできた諸民族を完全に抹消してから『中国人即ち漢民族の新彊』を創出しようとしている中国共産党の意図が見て取れる。二十一世紀
の現在において、白昼堂々と民族浄化を行っている暴政に対し、世界は何一つ有効な手立てが取れていないところに理不尽がある。(中略)。世界のメディアはこうした蛮行の原因を中国政府や中国共産党に帰そうとするが決してそう単純ではない。中国人という人々の民族性に大きな原因がある。自らを最も優れた人種、自国を天下の中心と妄想する中国人の中華思想はナチスドイツの反ユダヤ人イデオロギーを遙かに凌駕しており、この自民族中心主義こそが最大の原因だ」と楊海英教授がまとめている。
宮崎正弘 評
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「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和四年(2022)6月8日(水曜日)
通巻第7361号 より