『ぼくは君たちを憎まないことにした』
アントワーヌ・レリス:著
ポプラ社
昨年(2015年)11月のパリで同時多発テロ事件の後。
事件で妻を失ったジャーナリストの男性がFacebook上に発表した「ぼくは君たちを憎まないことにした」というテロリストに対するメッセージは、インターネットの世界だけでなく、テレビ・新聞など各種のメディアで取り上げられ、世界中で共有されました。
この本は、そのメッセージを発表した男性、「書く」ということを仕事にしている一人の男性が、「書く」ことで自分の悲しみと変わらない事実に向き合っていく2週間の日々を、ありのままに切り取ったドキュメントです。
妻であり母である女性を失った父子の世界は、大きく大きく変わってしまいます。
ただ、まだ幼い1歳の子の毎日は、世界的な大事件の後も変わらずに続いていきます。
最愛の人を失った悲しみを抱えつつ、「父親」としては普段どおりの日常を「母親」の分もこなして、そして被害者の家族として遺体を引き取り、葬儀を行う……。
まるで詩のような美しい文章、その中の恐ろしい事実。これが作り話でなく現実だなんて。
信じられないような悲劇の中、父子の日々は悲しくも優しく温かく、父の心は生まれてまだ17ヶ月の幼子に支えられているようにも見えます。
テロ事件によって失われた一つの命が、どれだけ素敵で魅力的で愛された存在であったのか。
著者の想い・愛があふれて、読んでいる私も苦しくなるほどです。
そして、最愛の人を奪った犯人への「君たちを憎まないことにした」というメッセージの高潔さと多くの人々からの賞賛や同情・励ましの言葉は、次第に著者を苦しめていきます。
高潔なメッセージを世界に発信した人物に期待されていることを裏切ることの怖さ。
他の人が批判するようなことをする権利はあるのか。そんな人間らしい葛藤も綴られています。
多くの人々の人生を狂わせた犯人が、この本を読むことがあるでしょうか。
家族の大切さ、命の尊さが、彼らに届くことがあるでしょうか。
アントワーヌ・レリス:著
ポプラ社
昨年(2015年)11月のパリで同時多発テロ事件の後。
事件で妻を失ったジャーナリストの男性がFacebook上に発表した「ぼくは君たちを憎まないことにした」というテロリストに対するメッセージは、インターネットの世界だけでなく、テレビ・新聞など各種のメディアで取り上げられ、世界中で共有されました。
この本は、そのメッセージを発表した男性、「書く」ということを仕事にしている一人の男性が、「書く」ことで自分の悲しみと変わらない事実に向き合っていく2週間の日々を、ありのままに切り取ったドキュメントです。
妻であり母である女性を失った父子の世界は、大きく大きく変わってしまいます。
ただ、まだ幼い1歳の子の毎日は、世界的な大事件の後も変わらずに続いていきます。
最愛の人を失った悲しみを抱えつつ、「父親」としては普段どおりの日常を「母親」の分もこなして、そして被害者の家族として遺体を引き取り、葬儀を行う……。
まるで詩のような美しい文章、その中の恐ろしい事実。これが作り話でなく現実だなんて。
信じられないような悲劇の中、父子の日々は悲しくも優しく温かく、父の心は生まれてまだ17ヶ月の幼子に支えられているようにも見えます。
テロ事件によって失われた一つの命が、どれだけ素敵で魅力的で愛された存在であったのか。
著者の想い・愛があふれて、読んでいる私も苦しくなるほどです。
そして、最愛の人を奪った犯人への「君たちを憎まないことにした」というメッセージの高潔さと多くの人々からの賞賛や同情・励ましの言葉は、次第に著者を苦しめていきます。
高潔なメッセージを世界に発信した人物に期待されていることを裏切ることの怖さ。
他の人が批判するようなことをする権利はあるのか。そんな人間らしい葛藤も綴られています。
多くの人々の人生を狂わせた犯人が、この本を読むことがあるでしょうか。
家族の大切さ、命の尊さが、彼らに届くことがあるでしょうか。