世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

月の音

2011-11-01 13:11:35 | 詩集・貝の琴

月光を砂に混ぜて
小さなぼーるをつくります
わたしのいるところは
波のように砂丘の連なる
白い砂漠の中の
大きな岩のそばです

岩は はるかな昔には
たぶん生きていたと思われる
大きな獣の形をしています
とがった肋骨の石の中を寝床にし
わたしはいつごろからか
ずっとここにいるのです

月はまるでピンで止めたように
天空にただ一つあります
だれかが器用に魔法を使って
ミルクをやわらかに丸めて
つくりあげた丸いお菓子のようです 

星はありません
光は月以外になく空は桔梗色をしています
聞こえるのははるか空を吹く風の音と
月が砂漠に落とすかすかな光の音だけです
雨音を銀色のシロフォンの音に例えれば
月の音は すきとおった水晶の琴音です

しん しんと 砂に音を立てて光が落ちてきます
わたしは獣の肋骨の中で
静かにそれを聞いています
ここにいるとずっとまえに母だった人の
胎内にいるような気がします
わたしはたいそう幸せでした
あたりまえの小さな子でしたが
外の世界でわたしが生まれるのを
母が心待ちにしていることがわかっていたからです
だれかの子になるというのは とても幸せです

どうして なぜ ここにいるのかは
もうすっかり忘れてしまいました
ただ 月の音の中にときどき
妙な音をたてるものがあって
それが何やらことばに聞こえるのです
だれかが わたしの名を呼んでいるような気がするのです
自分の名前などとっくに忘れてしまったのに

砂漠は一面乳色で
まるでやわらかな布をしいてあるようです
わたしは何か大事なことを忘れているようだ
桔梗色の空を見ながら 思いだそうとしても
月ばかりが明るく すべてをぬぐい去ってしまいます

今少し待てと 誰かが言っているようです
思い出してはいけない
空に星が一つもないのは
星がわたしに秘密を明かしてしまうからだそうです

落ちてくる月光を拾って
つくったぼーるは すぐに崩れてしまって
もうありません わたしは
それがおかしくて
ふ ふ ふ とわらいます
知らないと思っているでしょうけど
わたしは知っています
わたしが狂っていることを
そしてそれはすべてわたしのためのことだと

ぼーるを作り直すため
月光を拾い 月光を拾いながら
突然何かを抱きしめたい衝動にかられ
わたしはもっていた月の光を砂漠にまき散らし
からからと虚空に向かって笑いながら
叫ぶのです

おかあさん!

おかあさん おかあさん
わたしはいつうまれるのですか?






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