傘を閉じると雪の塊が落ちた。閉じた傘を自動ドアの外で振ると、外はぼたん雪が羽のように降り続けている。アメ横から線路を挟んだ反対側のドトールでオレンジジュースを頼み、壁際の席に缶を詰め込んだビニール袋を置いた。
Panpanya『グヤバノ・ホリデー』の表題作「グヤバノ・ホリデー」はアメ横から始まる。アメ横の地下街の輸入食品街で「グヤバノ・フルーツ」和名バンレイシを使ったジュースを気に入った著者はそれ以降、アメ横に立ち寄るたびにグヤバノの缶ジュースを買い求めるようになった。けれどもある時ぱったりと入荷が止まり、グヤバノの味から著者は遠ざかる。ドライフルーツや生の果実を探しても日本にはないグヤバノを求めて、著者はグヤバノ・ジュースの産地であるフィリピンに旅をすることとなった。その次第一切を描いた漫画が「グヤバノ・ホリデー」である。
待ち合わせの時間までは一時間近く余裕があったので傘を携えてアメ横を歩いた。まだ雪の粒は塩粒くらいの小ささで、コートをはたくと簡単に落ちた。雪を理由にシャッターを下ろした店もちらほら見受けられた。
地上の店で扱われている輸入食品はドライフルーツが中心で、マンゴーやパパイヤに交じって桑の実やレモン、オレンジが置かれている。スターフルーツは気になったが「グヤバノ・ホリデー」ではジュースがあまりおいしくないと書かれていたので見送った。積もりそうで積もらない雪が散る徳大寺まで歩く。堂内からはお祓いを受けているのか、男性が本尊の前に座り住職らしき紫の法衣をまとい白い頭巾を被った僧が読経を進めていた。その奥の厨子にオレンジ色のLEDで照らされた本尊が二人を見下ろしている。しばらく見ていると読経が終わるとともに、厨子には舞台の幕のような緞子が降りて本尊の姿はすっかり隠れてしまった。少しおかしくなって外に出ると雪は強くなっていた。
もう一度商店街を戻っていると、店が途切れてタイルの敷かれた入り口があった。「輸入食品」と書かれている。傘袋に濡れた傘を入れると、下り階段から生臭い臭いが漂ってきた。階段を降りると、電灯は煌々と点り明るいはずなのに、どこか薄暗く埃っぽい。冷凍された肉の塊や生きているカニがうごめく水槽が無造作に散らばり、壁には簡体字の商品名のロゴの缶や瓶が並び、どこからともなく香辛料が鼻を突く。塊肉を売っていた店の前でバロットが売られていた。
その店があったのは私が入った入り口からは一番奥で、コカ・コーラの自販機とベンチが置かれた休憩所には色の黒い男たちがたむろして煙草を吸っていた。店と入口の間際の棚にジュースの缶が並ぶ。『Gina GUYABANO NECTOR』が漫画のパッケージそのままに置かれていた。隣には『GUAVA』のジュースが紛らわしく置かれているところもそのままだ。180円で三つ買った。背が届かなかったので、一つは店員に頼んで取ってもらった。店員は床の段ボールから缶を取り出し、私へ一つ渡すと残りで私が缶を抜いた穴を埋めていた。味を比べたかったので『GUAVA』のジュースもひと缶買う。その場で飲もうかと考えたが、上から吹き込む寒い風とこちらをじろりとねめつけた男たちの目で取りやめた。
肉の生臭い臭いが移った白いビニール袋を提げて階段を登ると、雪はまた強く降り続けていた。時計を見ると待ち合わせの時間まであと10分を切っていた。ビニール袋でゆっくりと冷える缶をゴロゴロ言わせながら、待ち合わせの店に急いだ。
Panpanya『グヤバノ・ホリデー』の表題作「グヤバノ・ホリデー」はアメ横から始まる。アメ横の地下街の輸入食品街で「グヤバノ・フルーツ」和名バンレイシを使ったジュースを気に入った著者はそれ以降、アメ横に立ち寄るたびにグヤバノの缶ジュースを買い求めるようになった。けれどもある時ぱったりと入荷が止まり、グヤバノの味から著者は遠ざかる。ドライフルーツや生の果実を探しても日本にはないグヤバノを求めて、著者はグヤバノ・ジュースの産地であるフィリピンに旅をすることとなった。その次第一切を描いた漫画が「グヤバノ・ホリデー」である。
待ち合わせの時間までは一時間近く余裕があったので傘を携えてアメ横を歩いた。まだ雪の粒は塩粒くらいの小ささで、コートをはたくと簡単に落ちた。雪を理由にシャッターを下ろした店もちらほら見受けられた。
地上の店で扱われている輸入食品はドライフルーツが中心で、マンゴーやパパイヤに交じって桑の実やレモン、オレンジが置かれている。スターフルーツは気になったが「グヤバノ・ホリデー」ではジュースがあまりおいしくないと書かれていたので見送った。積もりそうで積もらない雪が散る徳大寺まで歩く。堂内からはお祓いを受けているのか、男性が本尊の前に座り住職らしき紫の法衣をまとい白い頭巾を被った僧が読経を進めていた。その奥の厨子にオレンジ色のLEDで照らされた本尊が二人を見下ろしている。しばらく見ていると読経が終わるとともに、厨子には舞台の幕のような緞子が降りて本尊の姿はすっかり隠れてしまった。少しおかしくなって外に出ると雪は強くなっていた。
もう一度商店街を戻っていると、店が途切れてタイルの敷かれた入り口があった。「輸入食品」と書かれている。傘袋に濡れた傘を入れると、下り階段から生臭い臭いが漂ってきた。階段を降りると、電灯は煌々と点り明るいはずなのに、どこか薄暗く埃っぽい。冷凍された肉の塊や生きているカニがうごめく水槽が無造作に散らばり、壁には簡体字の商品名のロゴの缶や瓶が並び、どこからともなく香辛料が鼻を突く。塊肉を売っていた店の前でバロットが売られていた。
その店があったのは私が入った入り口からは一番奥で、コカ・コーラの自販機とベンチが置かれた休憩所には色の黒い男たちがたむろして煙草を吸っていた。店と入口の間際の棚にジュースの缶が並ぶ。『Gina GUYABANO NECTOR』が漫画のパッケージそのままに置かれていた。隣には『GUAVA』のジュースが紛らわしく置かれているところもそのままだ。180円で三つ買った。背が届かなかったので、一つは店員に頼んで取ってもらった。店員は床の段ボールから缶を取り出し、私へ一つ渡すと残りで私が缶を抜いた穴を埋めていた。味を比べたかったので『GUAVA』のジュースもひと缶買う。その場で飲もうかと考えたが、上から吹き込む寒い風とこちらをじろりとねめつけた男たちの目で取りやめた。
肉の生臭い臭いが移った白いビニール袋を提げて階段を登ると、雪はまた強く降り続けていた。時計を見ると待ち合わせの時間まであと10分を切っていた。ビニール袋でゆっくりと冷える缶をゴロゴロ言わせながら、待ち合わせの店に急いだ。