「姉さん、手本やってみせましょうか」
背の低い金髪に染めた若い男の店員へ苦笑いで首を振り、寺町通りの広い通りに紛れ込むように小さな店構えのゲームセンターを後にした。ぎっしりとクレーンゲームの筐体が並ぶ店内は暗く、すれ違う通路は互いに肩をすくめながら通らなければならないほど狭かった。入り口前では私の背丈ほどの、店内に設置されているものよりは一回り小柄な筐体に中学生くらいの女の子たちが山積みにされた掌ほどのぬいぐるみを取ろうと台にしがみついていた。眼鏡をかけたひょろ長い男が、愛想よく安っぽいざらついた手触りの、切符ほどの「一回無料券」と書かれた紙切れを渡して「どうぞ」と声をかける。そんな光景はたぶん東京へ戻ってもどこかで見かけるものだろうが、店内の様子は表の楽しげで開放的な雰囲気とはどうにも離れていた。
一歩足を踏み入れると薄暗い。天井の蛍光灯よりも筐体から洩れる光の方が明るいほど店内の明かりは少なかった。壁を埋め尽くすように背の高い筐体が延々と、向かいの入り口へ続く通路にも敷き詰められている。入り口の可愛いぬいぐるみの詰まったクレーンゲームの気安さにつられて店に入ると電子音が響き誰一人口も利かず液晶画面へ黙々と向かってボタンを押していた東京の店とはまた違った異様さだった。筐体の明かりに照らされて商品が見える。縁日のくじ引きの屋台のように乱雑に、フィギュアを始めマグカップやバスタオルなどの景品が箱の天井一杯に積み上げられている。それを背景に手前には、箱の上に縁の広いよくUFOの特撮にでも使われそうな底の浅いコンクリートのようなグレーの灰皿がぴったりとした紙皿に包まれて置かれていた。
筐体のガラスに貼られた説明書きを読むと、クレーンを動かして灰皿を落とせば箱の中に飾られている中で好きな景品を一つ手に入れられるという仕掛けとのこと。見渡すとそれぞれの筐体には少しずつ違った景品が入っており、近くでは大学生と思われる二、三人が仲間の一人を見守るように台を囲んでいた。あるものは野球帽、あるものはサングラスと台ごとに落とさなければならないものも違っている。華やかな景品とは対照的に、景品よりも光を浴びている灰皿や野球帽達は本来なじみ深いだろうものだけれども、ゲームの仕掛けとして置かれている姿はどうにも地味で居心地が悪そうに思えた。一旦店を出て、そう離れていない隣のゲームセンターに入り込む。そこでもやはりサングラスや灰皿が並んでいた。元の店に戻る。
灰皿でもサングラスでも野球帽でも、そう簡単には取らせてくれるはずもないだろう。貰った無料券を近くにいた私よりも背の低い店員に渡し、ライトを浴びる灰皿の幅に比べて大仰な長さの腕を持つクレーンを動かした。爪の先が灰皿の縁へかかるように狙いを定めてボタンを二回適当に押す。狙い通りに片方の爪の先が灰皿の縁をひっかけた。灰皿が持ち上がり、底が浮き上がる。しかし予想通り持ち上がったはものの爪が外れた途端、がたりと元の位置に戻ってしまった。広がったアームは灰皿の直径よりも狭く、灰皿を直接持ち上げることはできない。丁度の位置へ当たらなければどうしようもない。チケットを渡した店員がすっと近づいて見本を見せようと持ちかけたが、諦めて店を出ることにした。
外へ出ると商店街のアーケードよりも高く、入り口も堂々と広く明るい照明の大きなゲームセンターがあった。東京と同じ仕掛けのクレーンゲームがデパートのように並び、親子連れや壮年のカップルの二人連れ達が誰にはばかることなくのんびりとゲームを楽しんでいた。
背の低い金髪に染めた若い男の店員へ苦笑いで首を振り、寺町通りの広い通りに紛れ込むように小さな店構えのゲームセンターを後にした。ぎっしりとクレーンゲームの筐体が並ぶ店内は暗く、すれ違う通路は互いに肩をすくめながら通らなければならないほど狭かった。入り口前では私の背丈ほどの、店内に設置されているものよりは一回り小柄な筐体に中学生くらいの女の子たちが山積みにされた掌ほどのぬいぐるみを取ろうと台にしがみついていた。眼鏡をかけたひょろ長い男が、愛想よく安っぽいざらついた手触りの、切符ほどの「一回無料券」と書かれた紙切れを渡して「どうぞ」と声をかける。そんな光景はたぶん東京へ戻ってもどこかで見かけるものだろうが、店内の様子は表の楽しげで開放的な雰囲気とはどうにも離れていた。
一歩足を踏み入れると薄暗い。天井の蛍光灯よりも筐体から洩れる光の方が明るいほど店内の明かりは少なかった。壁を埋め尽くすように背の高い筐体が延々と、向かいの入り口へ続く通路にも敷き詰められている。入り口の可愛いぬいぐるみの詰まったクレーンゲームの気安さにつられて店に入ると電子音が響き誰一人口も利かず液晶画面へ黙々と向かってボタンを押していた東京の店とはまた違った異様さだった。筐体の明かりに照らされて商品が見える。縁日のくじ引きの屋台のように乱雑に、フィギュアを始めマグカップやバスタオルなどの景品が箱の天井一杯に積み上げられている。それを背景に手前には、箱の上に縁の広いよくUFOの特撮にでも使われそうな底の浅いコンクリートのようなグレーの灰皿がぴったりとした紙皿に包まれて置かれていた。
筐体のガラスに貼られた説明書きを読むと、クレーンを動かして灰皿を落とせば箱の中に飾られている中で好きな景品を一つ手に入れられるという仕掛けとのこと。見渡すとそれぞれの筐体には少しずつ違った景品が入っており、近くでは大学生と思われる二、三人が仲間の一人を見守るように台を囲んでいた。あるものは野球帽、あるものはサングラスと台ごとに落とさなければならないものも違っている。華やかな景品とは対照的に、景品よりも光を浴びている灰皿や野球帽達は本来なじみ深いだろうものだけれども、ゲームの仕掛けとして置かれている姿はどうにも地味で居心地が悪そうに思えた。一旦店を出て、そう離れていない隣のゲームセンターに入り込む。そこでもやはりサングラスや灰皿が並んでいた。元の店に戻る。
灰皿でもサングラスでも野球帽でも、そう簡単には取らせてくれるはずもないだろう。貰った無料券を近くにいた私よりも背の低い店員に渡し、ライトを浴びる灰皿の幅に比べて大仰な長さの腕を持つクレーンを動かした。爪の先が灰皿の縁へかかるように狙いを定めてボタンを二回適当に押す。狙い通りに片方の爪の先が灰皿の縁をひっかけた。灰皿が持ち上がり、底が浮き上がる。しかし予想通り持ち上がったはものの爪が外れた途端、がたりと元の位置に戻ってしまった。広がったアームは灰皿の直径よりも狭く、灰皿を直接持ち上げることはできない。丁度の位置へ当たらなければどうしようもない。チケットを渡した店員がすっと近づいて見本を見せようと持ちかけたが、諦めて店を出ることにした。
外へ出ると商店街のアーケードよりも高く、入り口も堂々と広く明るい照明の大きなゲームセンターがあった。東京と同じ仕掛けのクレーンゲームがデパートのように並び、親子連れや壮年のカップルの二人連れ達が誰にはばかることなくのんびりとゲームを楽しんでいた。