・「8月のソーダ水」 コマツシンヤ作 太田出版 2013年5月
:夏の陽光の青
「いい風!」
凪の海と水平線の雲を、右手にバイオリンケースを提げた少女はふと立ち止まり眺めている。
薄い紺の主線が白と青を鮮やかに、柔らかな線は指先ひとつおろそかにせず白亜の街と少女を描く。
少女の広げた左手は、たしかに風を受けていた。
コマツシンヤの二冊目の本『8月のソーダ水』は連作「8月のソーダ水」、
四コマ漫画集「うわのそらが丘」の二作を収めたカラーの短編集だ。
一冊目『睡沌気候』収録のデビュー作「睡沌気候」から、作品には作者の好むものが想像へ忠実にちりばめられている。
連作「8月のソーダ水」でも主人公はもちろん、背景を成す海へ続く階段と坂を擁した街、
サボテンや看板、路面電車、入道雲と、コマの一つ一つが絵になるほどものが詰め込まれている。
そこに息苦しさはない。整頓された部屋のように、あるべき場所へ色と線を選り抜いた上、
話の中で人とものとが自然に関わりを持つためだ。
物語の主人公は話のすべてに登場する少女「海辺リサ」ではなく、彼女の持つガラスのバイオリンであったり、
灯台であったり、瓶に詰めた海のもの達だ。
コマツシンヤは物や街を登場人物に扱わせることで物を活かしている。
一話ごとにリサはひとつ何かと出会い、それに触れ、一日を過ごす。
ラムネを飲んでビー玉を貰い、波打ち際で拾った貝と一緒に瓶詰にしたり、
たまたま弾いたバイオリンの音で灯台が「起きて」しまい、そのまま散歩に付き合ったり。
ついには梯子を掛けられそうな程月がリサの住む街へ近づき、海が街をすっぽりと覆ってしまう。
月が去る直前、浅葱色の月はL字型のコマの頂点に陣取り、張力で引き寄せられた海水の塊が海と空の間一面に浮かぶ。
L字型の底辺にあたる横長のコマは、月の引力に粟立つ海面を手前に大きく、右手奥に白亜の岬を描き、
その海と岬の丁度中間に宇宙船のような楕円形の船上に立って月を見上げるリサ達がいる。
海と空、昼の月が集う青の総まとめを機に話は静かに終わりを告げる。(809字)
※私信・・・反省としてこちらへ載せます。
:夏の陽光の青
「いい風!」
凪の海と水平線の雲を、右手にバイオリンケースを提げた少女はふと立ち止まり眺めている。
薄い紺の主線が白と青を鮮やかに、柔らかな線は指先ひとつおろそかにせず白亜の街と少女を描く。
少女の広げた左手は、たしかに風を受けていた。
コマツシンヤの二冊目の本『8月のソーダ水』は連作「8月のソーダ水」、
四コマ漫画集「うわのそらが丘」の二作を収めたカラーの短編集だ。
一冊目『睡沌気候』収録のデビュー作「睡沌気候」から、作品には作者の好むものが想像へ忠実にちりばめられている。
連作「8月のソーダ水」でも主人公はもちろん、背景を成す海へ続く階段と坂を擁した街、
サボテンや看板、路面電車、入道雲と、コマの一つ一つが絵になるほどものが詰め込まれている。
そこに息苦しさはない。整頓された部屋のように、あるべき場所へ色と線を選り抜いた上、
話の中で人とものとが自然に関わりを持つためだ。
物語の主人公は話のすべてに登場する少女「海辺リサ」ではなく、彼女の持つガラスのバイオリンであったり、
灯台であったり、瓶に詰めた海のもの達だ。
コマツシンヤは物や街を登場人物に扱わせることで物を活かしている。
一話ごとにリサはひとつ何かと出会い、それに触れ、一日を過ごす。
ラムネを飲んでビー玉を貰い、波打ち際で拾った貝と一緒に瓶詰にしたり、
たまたま弾いたバイオリンの音で灯台が「起きて」しまい、そのまま散歩に付き合ったり。
ついには梯子を掛けられそうな程月がリサの住む街へ近づき、海が街をすっぽりと覆ってしまう。
月が去る直前、浅葱色の月はL字型のコマの頂点に陣取り、張力で引き寄せられた海水の塊が海と空の間一面に浮かぶ。
L字型の底辺にあたる横長のコマは、月の引力に粟立つ海面を手前に大きく、右手奥に白亜の岬を描き、
その海と岬の丁度中間に宇宙船のような楕円形の船上に立って月を見上げるリサ達がいる。
海と空、昼の月が集う青の総まとめを機に話は静かに終わりを告げる。(809字)
※私信・・・反省としてこちらへ載せます。