読書と読書の合間に読むには手頃な本だった。気軽に周囲に勧めやすい本でもある。アンディ・ウィアーの二冊目の邦訳となる『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の筋書きを書いてしまうのは難しい。この本の魅力を成しているのはスピード感だ。気づくと宇宙船の中で主人公は目覚める。自分の名前を始め何も覚えていない。傍らには同じようなベッドに横たわる二つの死体があった。まず気づくのは自分の体が思う通りに動かないことで、彼は最初の問題を解決するために頭から指令を出す。そうするとロボットアームが来て自分の面倒を見てくれることを発見する。今度はロボットアームに自分の望みを叶えてもらうために何かしなければならない。といった調子で主人公は事細かな希望を望むたびに問題へ突き当り、コンピュータゲームのように次から次へと脳を絞って手を動かして今自分が置かれている状況を理解し、宇宙船に自分が乗り込んだ目的を果たすために活動する。主人公が孤独に活動する現在の時間軸に対して、彼が物事を思い出すごとに思い出される過去の記憶が交差することで読者も息抜きができるように構成されており読みやすい。
とにかく展開の速さを肝要とする小説のため、何かひとつ書くと楽しみが失われてしまうのではないかとおっかなびっくりにならざるを得ない。次に何が起こるかは予測しやすいこともあれば予測しづらいこともあるものの、一つ一つを丁寧に書いていくととても現在の紙数では間に合わないほど濃厚になれる素材を惜しみなく宇宙空間へ放り投げるように使い潰すさまが爽快だ。過去に主人公が宇宙船に乗る原因となったあれこれや、それにまつわる政治的・環境的な大問題と国を跨いだ技術の取り合いといった争いなども主人公に関わる程度に触れられているが主人公を食ってしまうほどの大事になる前に消化されてしまう。そのため大味に見えるかもしれない。だが問題の根や未来に向けての不安といった押さえるべきところが押さえられているので物語の味を薄めてしまうことはない。記憶喪失の主人公とともに読者の前へ宇宙が開けていく映像的な文章の成す技だと思う。
科学を知っても知らずとも話にのめり込ませていく引力の強い文章と、人間関係を始めとした面倒事(キャラクターを書き込もうとする欲をよく押さえられたと思う)を軽快な包丁のように切り落として進む物語の弾みに自分を委ねられるマッサージ機のような本だった。誰の体にも無難に合う。
とにかく展開の速さを肝要とする小説のため、何かひとつ書くと楽しみが失われてしまうのではないかとおっかなびっくりにならざるを得ない。次に何が起こるかは予測しやすいこともあれば予測しづらいこともあるものの、一つ一つを丁寧に書いていくととても現在の紙数では間に合わないほど濃厚になれる素材を惜しみなく宇宙空間へ放り投げるように使い潰すさまが爽快だ。過去に主人公が宇宙船に乗る原因となったあれこれや、それにまつわる政治的・環境的な大問題と国を跨いだ技術の取り合いといった争いなども主人公に関わる程度に触れられているが主人公を食ってしまうほどの大事になる前に消化されてしまう。そのため大味に見えるかもしれない。だが問題の根や未来に向けての不安といった押さえるべきところが押さえられているので物語の味を薄めてしまうことはない。記憶喪失の主人公とともに読者の前へ宇宙が開けていく映像的な文章の成す技だと思う。
科学を知っても知らずとも話にのめり込ませていく引力の強い文章と、人間関係を始めとした面倒事(キャラクターを書き込もうとする欲をよく押さえられたと思う)を軽快な包丁のように切り落として進む物語の弾みに自分を委ねられるマッサージ機のような本だった。誰の体にも無難に合う。