梅の宴に添えられた香り立つような文章から漢字を二つ取り、新しい元号は「令和」となった。発表されてからあっという間にIMEは対応して「れいわ」とキーをたたくと「令和」の字へと簡単に変換される。特需とばかりに万葉集や「万葉秀歌」は版を重ね、近所のささやかな本屋にも注釈付きの万葉集が出版社を問わずに平積みされ、あと数日で入れ替わる今も売れ行きは変わらないようだ。
大きな区切りが発表されるときは何かと物騒がしいが、年末よりも消費税の増税よりも元号の変化はそう「次」を意識させられないのでは、と、周囲を見渡して思う。新聞をめくれば十連休の過ごし方への戸惑いと旅行先の特集が並び、隣の席では飛行機代の高さに頭を悩ませる同僚がいる。国内の往復で七万強だと彼女は嘆いていた。ハワイや韓国のそれなりの旅行プランなら二泊はゆっくりできそうな金額だ。国内である。ここぞとばかりにあちこちの観光地が来ておくれとテレビやインターネットに広告を投げるが、そこに待っているものはあとあと後悔しそうな「ぼったくり」であることは容易に想像できる。
元号はつかわないよ、と、喫茶店のマスターは扉の外でたばこをくゆらせながら言った。こちらの喫茶店はお休みですか、と尋ねると、いつも通りだよ。木曜定休。と、すげない返事が返る。アメリカのたばこの香ばしい煙が店内へゆるやかに漂いはじめた。話題になるだけいいじゃないか、とワイルドターキーのロックを粋にあおってバーの主人は空のグラスを洗い始めた。連休直前の街は空いていて、九時を回っても客は私一人と十五分ほどで去った飛び込みの夫婦ものだけだった。風がつよくなるばかりの寒い夜だった。
年が変わるその時よりも確実に天皇の即位という国としては大きな変化も、足元の民草には持て余す休みと余分な仕事にしか見えないらしい。それでもあと数日に迫った来月に何かを待ちわびているような、春の訪れよりも年の訪れよりも期待する気配を、新しい元号に感じている人はそれなりに多いようだ。
大きな区切りが発表されるときは何かと物騒がしいが、年末よりも消費税の増税よりも元号の変化はそう「次」を意識させられないのでは、と、周囲を見渡して思う。新聞をめくれば十連休の過ごし方への戸惑いと旅行先の特集が並び、隣の席では飛行機代の高さに頭を悩ませる同僚がいる。国内の往復で七万強だと彼女は嘆いていた。ハワイや韓国のそれなりの旅行プランなら二泊はゆっくりできそうな金額だ。国内である。ここぞとばかりにあちこちの観光地が来ておくれとテレビやインターネットに広告を投げるが、そこに待っているものはあとあと後悔しそうな「ぼったくり」であることは容易に想像できる。
元号はつかわないよ、と、喫茶店のマスターは扉の外でたばこをくゆらせながら言った。こちらの喫茶店はお休みですか、と尋ねると、いつも通りだよ。木曜定休。と、すげない返事が返る。アメリカのたばこの香ばしい煙が店内へゆるやかに漂いはじめた。話題になるだけいいじゃないか、とワイルドターキーのロックを粋にあおってバーの主人は空のグラスを洗い始めた。連休直前の街は空いていて、九時を回っても客は私一人と十五分ほどで去った飛び込みの夫婦ものだけだった。風がつよくなるばかりの寒い夜だった。
年が変わるその時よりも確実に天皇の即位という国としては大きな変化も、足元の民草には持て余す休みと余分な仕事にしか見えないらしい。それでもあと数日に迫った来月に何かを待ちわびているような、春の訪れよりも年の訪れよりも期待する気配を、新しい元号に感じている人はそれなりに多いようだ。