他の本が何冊も鞄の底に溜まっているにもかかわらず本を手に取る気分がない時に図書館へ寄り、借りて、何度も読んだ筋を飛ばし飛ばしつまみ読みする。表題作をはじめ七つの短編が収められた横溝正史『七つの仮面』は探偵の金田一耕助が主人公、あるいは狂言廻しを務める作品集のひとつだ。短編の量ならば角川文庫の『金田一耕助の冒険』のほうが十一篇と多いのだが、図書館には置いていないので『七つの仮面』を手に取ることのほうが多い。どちらも女が主軸となる事件で、女が登場したらだいたい被害者か犯人というとてもわかりやすい設定だ。スターシステムのように犯人役の女、被害者役の女、ミスリードの女とみごとに決められた役回りは歌舞伎の型を眺める落ち着いた予定調和がある。
『七つの仮面』の収録作は他の作品と比べると何となく地味である。奇抜な道具立てに対してそこで起きたことを綴る筆調は淡い。猫に囲まれた死体や矢の刺さった死体は派手だが複雑な仕掛けを解きほぐしてゆく調子はなく、場面場面を「さて」で区切る講談のようだ。その中で女の殺人犯の独白を通した語り口の表題作『七つの仮面』が華をそっと添えている。
目を通せば通すほど『七つの仮面』はえげつない。「じゃま者は殺せ」とためらいなく人を墓場に送り込む女は横溝正史の作品中で数えればきりがないが、一周回って潔さすら感じる殺しっぷりや欲深さを隠さない女達に対して『七つの仮面』の主人公美沙は最後の最後まで自分を飾り続ける。「あたし、ちっとも己惚れなんかしないし、」と書いた数行後に「両手を血でけがされた呪わしい罪の女……恐ろしい殺人犯人の烙印をおされたこのあたし」と書いてのける態度はりっぱな己惚れである。この己惚れは『七つの仮面』の話そのものだ。己の首を己惚れで徐々に締め付けてゆく主人公はそれを自覚しながら責の全てを他人に押し付けて、とうとう己惚れの仮面を脱ぐことなく物語の幕を下ろす。死にたくないと抵抗し逃げ続けるしぶとさよりも諦めの潔さを演出する八方美人の主人公の同情の押し付けは手管が分かりやすい分、気楽に読みやすいのかもしれない。
『七つの仮面』の収録作は他の作品と比べると何となく地味である。奇抜な道具立てに対してそこで起きたことを綴る筆調は淡い。猫に囲まれた死体や矢の刺さった死体は派手だが複雑な仕掛けを解きほぐしてゆく調子はなく、場面場面を「さて」で区切る講談のようだ。その中で女の殺人犯の独白を通した語り口の表題作『七つの仮面』が華をそっと添えている。
目を通せば通すほど『七つの仮面』はえげつない。「じゃま者は殺せ」とためらいなく人を墓場に送り込む女は横溝正史の作品中で数えればきりがないが、一周回って潔さすら感じる殺しっぷりや欲深さを隠さない女達に対して『七つの仮面』の主人公美沙は最後の最後まで自分を飾り続ける。「あたし、ちっとも己惚れなんかしないし、」と書いた数行後に「両手を血でけがされた呪わしい罪の女……恐ろしい殺人犯人の烙印をおされたこのあたし」と書いてのける態度はりっぱな己惚れである。この己惚れは『七つの仮面』の話そのものだ。己の首を己惚れで徐々に締め付けてゆく主人公はそれを自覚しながら責の全てを他人に押し付けて、とうとう己惚れの仮面を脱ぐことなく物語の幕を下ろす。死にたくないと抵抗し逃げ続けるしぶとさよりも諦めの潔さを演出する八方美人の主人公の同情の押し付けは手管が分かりやすい分、気楽に読みやすいのかもしれない。