えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

:『顔のない女』 高橋葉介 2011年

2011年01月19日 | コラム
:顔のない女 2011年 高橋葉介 早川書房
・くちべにの行方

 この口もとはどこかで見たことがある。
 ペン先で引き上げられた口角の孤の途中から下唇に続く線に包まれるように、小粒の歯を見せる口元は191ページ、獲物がつかまることを確信した猫のような不敵さとちゃめっけのある笑顔そのものを形作っていた。

 2011年の年明けに出た、高橋葉介の『顔のない女』の主人公“顔のない女”は、殺し屋専門の殺し屋として、ある組織の殺し屋達を次々に葬ってゆく女である。その表情を読み取ることが許されるのは、帽子のつばから覗く口元だけだ。かの女のように口元だけの女性では「口裂け姫」に登場する母親の、よく似た笑顔の唇を思い出す。彼女は口以外に顔のパーツが描かれていない。だが顔がないのは唇をより強調するためであり、“顔のない女”が目を隠されているのとは違う。むしろその唇の口紅は徐々になくなり、代わりにくるくると変わる口全体の輪郭が明らかになるのだ。

 話が進むにつれてだんだんと口紅は薄くなり、第4話「キラー・ピエロ」の扉絵では細かくふるえるたよりなげな線の口元ながら、襟元のゆらぎや重く乾いた墨でふちどられる指先よりもくっきりと線を引かれているため、あざやかに口の表情が目に飛び込んでくる。1989年の「イケニエ」に登場する狂女の黒い唇が、たった4コマの間に唇のひとつひとつで艶めかしさだけを藻のようにまとわりつかせるのに、“顔のない女”はあっさりと自分の性格を読者に与えてゆく。それは表情が口紅ではなく口元で形作られているためで、それゆえ口紅が薄くなるにつれて“顔のない女”には確かな姿が与えられてゆくのだ。
 
 ぱっちりと見開けば可愛らしく、細く流せば不必要に艶っぽくなる極端な瞳を伏せたことで、“顔のない女”は少女のようにすっきりとひきしまる口とあごの線、そして彼女たちにはないさばけた雰囲気を手に入れた。ただ、その線は今までの女性たちの前では繊細に過ぎる。だから顔がないのかもしれない。(799文字)
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:『顔のない女』雑感

2011年01月18日 | 読書
※順番が逆だろうとお思いかも知れませんが、上の文章ありきでこれを書く都合上、レイアウトの順序として日付をずらします。ご容赦ください。

たぶん自分のべとべとした線から脱却するために、今のかすれたような黒や塗るところを決めて筆でしっかり塗ってしまう墨の使い方になったのではないかなあ、と想像していますが、ここしばらくはお話も技巧的に作っているのかなあとも思います。

この「顔のない女」で残念に思ったことは過去作「影男」「クレイジーピエロ」のパロディが露骨であったこと、そしてその過去作以上に本作品自体が面白いものとは思えなかったことです。オチのつけかた、人物の姿、不思議な力の描写、どれも過去作ほどにはそのキャラクターの怖さや残虐さを感じません。それは、二つの作品の魅力の核が「影男」は時間の推移、「クレイジーピエロ」はからだの動作にかかっているためで、時間をかけてゆるやかに浸食してゆく「影男」、身軽にはねまわり敵を斃しつづける「クレイジーピエロ」のある種の爽快さが一枚絵に閉じ込められてしまうことで、話はテンポ良く進むけれど肝心の敵役のすごさが伝わりにくい難点が大きくなってしまったように見えるのです。

昨今のこの人の作品のつくりかたに、「夜姫さま」のあとがきで言及されている「紙芝居」の一連『「動く」→「’決め’のポーズもしくは’見せ場’の静止画」→「動く」』の繰り返しが大きく影を落していることを感じます。
それは、以前の作品が映画のように小さめのコマで物事の推移を追いかけてゆくことに対して、絵に重きを与えて見せてゆくやり方です。そのため、大ゴマを使い描かれた絵には効果線がほとんどありません。
たとえば「鷹姫さま」のように、セリフがまったくなかったり、あるいは「姫さま」シリーズ全体のように動きが少なく、場面がいきなり切り替わることで何も損なわれなければ十分に面白いと思います。

ただ、本作のように、他の作家ならばもっと動きを交えて描くようなシーン、キャラクターがバタバタ動き回ることが想像できる話だと、あえてその手法で書く必要があったのか考える余地はあるのではないでしょうか。


そういう意味では動きの見せ方がどんどん鮮やかになってゆく諸星大二郎とは対照的な進化をしている漫画家なのかも知れません。
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はつ・・・・

2011年01月01日 | 雑記
あけましておめでとうございます。

初詣に行って、親族にご挨拶をして(このところ)いつもどおりの
正月です。

今年もやはりどうなるかわからないのですが、まずはブログにてご挨拶。

ことしもよろしくお願いいたします。
コメント (2)
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