テーブルトークロールプレイングゲーム(以下TRPG)を長く遊んでいるプレイヤーの知人と会ったとき、彼は丁度TRPGを遊んできた後だった。知人は10年以上のプレイ歴を持つベテランに足が掛かったプレイヤーで、学校のTRPG仲間と集って遊ぶときはゲームマスター(以下GM)役を務めることが多い。ゲームマスターとはトランプゲームなどにおける「親」、コンピュータゲームにおけるプログラム、つまりその遊びの進行役である。TRPGではそのゲームにおける世界観の設定やルールが他の遊びと同様に予めゲーム制作者により決められており、GMはそのルールを把握した上で他の参加者の調停役や最終決定者の役割を果たす。知人の遊ぶTRPGのルールは『ソード・ワールド2.0』や『アリアンロッド』などハック&スラッシュの要素を備えたゲームが多い。そして知人はゲーム仲間から危険視されている。知人にGMを任せると、ほぼ必ずゲームオーバーになる参加者が出るためだ。
その日も「いつもパーティを散々やっつけているけれど大丈夫なのか」と尋ねると知人は肩をすくめた。
「あいつらは「自分がやりたいこと」に俺が合わせてくれると思ってるんだよ。今回もハクスラなのにヒーラー(回復役)やる奴がいなかったから『いないと困るだろ』って言ったら、『GM、そういうNPC作ってくれますよね』って言いやがった」
勿論というべきなのか知人は参加者の求める都合の良いNPCを作らず、全滅寸前まで追い込んだことを端的に話した。彼のゲームの進め方を聞く限りでは、基本的にゲームバランスをGMとの対話重視で考えており、コンピュータゲームで言えば「村人に話しかける」といったフラグや情報を得る行為を怠るとたちまち窮地に陥る仕組みになっている。TRPGの多くはさいころの出目で行為の成否を判定するものだが、その行為の成否を問うためにはGMにこれから自分が行う行為を宣言する必要がある。そこでプレイヤーとGMの対話が発生し、プレイヤーの質問や要求に対してGMはルールに則りつつゲームを成立させるための判断を行う。この対話の過程がコンピュータゲームに対するTRPGの重要な要素でもあるのだが、彼の言によると昨今のプレイヤーは対話の過程を省きたがる兆候にあるそうで面白くないとのことだ。
「とにかく戦闘をしたがるから最短距離で敵の巣へ誘導してやったのに、戦闘が思い通りいかないと音をあげるんだよ」
「どれくらい敵を出したの」
「プレイヤー数の倍くらい。5人いて生き残ったのは1人だけだったかな」
当人曰く、ゲームの過程でGMへ話しかけて情報を引き出すなり有利な条件へ交渉するなりすれば最悪の条件の回避はできたそうだがプレイヤーはそれをしなかったとのこと。プレイヤーを楽しませるという点を考えると彼のプレイングも少し考える余地はありそうだが、それ以前に対話を拒むプレイヤーたちがTRPGという対話のゲームを選んだ理由を知りたくなった。TRPGは顔を突き合わせた普段の会話と同じく言葉を交わした結果がどこへ飛ぶかわからない不安がある。さらにゲームの進行役であるGMもまたプレイヤーの一人だ。その辺りを考えず、自分が楽しみたい遊びのみを求める姿勢はTRPGというゲームの在り方には向かないのかもしれない。「強い自分をロールプレイしたければテレビゲームやってろ」と投げ捨てるように知人は言って話題を締めた。
その日も「いつもパーティを散々やっつけているけれど大丈夫なのか」と尋ねると知人は肩をすくめた。
「あいつらは「自分がやりたいこと」に俺が合わせてくれると思ってるんだよ。今回もハクスラなのにヒーラー(回復役)やる奴がいなかったから『いないと困るだろ』って言ったら、『GM、そういうNPC作ってくれますよね』って言いやがった」
勿論というべきなのか知人は参加者の求める都合の良いNPCを作らず、全滅寸前まで追い込んだことを端的に話した。彼のゲームの進め方を聞く限りでは、基本的にゲームバランスをGMとの対話重視で考えており、コンピュータゲームで言えば「村人に話しかける」といったフラグや情報を得る行為を怠るとたちまち窮地に陥る仕組みになっている。TRPGの多くはさいころの出目で行為の成否を判定するものだが、その行為の成否を問うためにはGMにこれから自分が行う行為を宣言する必要がある。そこでプレイヤーとGMの対話が発生し、プレイヤーの質問や要求に対してGMはルールに則りつつゲームを成立させるための判断を行う。この対話の過程がコンピュータゲームに対するTRPGの重要な要素でもあるのだが、彼の言によると昨今のプレイヤーは対話の過程を省きたがる兆候にあるそうで面白くないとのことだ。
「とにかく戦闘をしたがるから最短距離で敵の巣へ誘導してやったのに、戦闘が思い通りいかないと音をあげるんだよ」
「どれくらい敵を出したの」
「プレイヤー数の倍くらい。5人いて生き残ったのは1人だけだったかな」
当人曰く、ゲームの過程でGMへ話しかけて情報を引き出すなり有利な条件へ交渉するなりすれば最悪の条件の回避はできたそうだがプレイヤーはそれをしなかったとのこと。プレイヤーを楽しませるという点を考えると彼のプレイングも少し考える余地はありそうだが、それ以前に対話を拒むプレイヤーたちがTRPGという対話のゲームを選んだ理由を知りたくなった。TRPGは顔を突き合わせた普段の会話と同じく言葉を交わした結果がどこへ飛ぶかわからない不安がある。さらにゲームの進行役であるGMもまたプレイヤーの一人だ。その辺りを考えず、自分が楽しみたい遊びのみを求める姿勢はTRPGというゲームの在り方には向かないのかもしれない。「強い自分をロールプレイしたければテレビゲームやってろ」と投げ捨てるように知人は言って話題を締めた。