外の日差しのように笑顔が眩しくて目を細めそうになった。よく眠れておらず碌に家から出なかった横着が祟り全身くたびれた風情の自分の姿を鏡で見られない。いらしてくださったのですね、と声を掛けられるだけで、それがしょうばいのものであってもまだ実体のある人間として扱われていることを実感する。日が落ちるにつれて薄暗くなる家の中で会社から貸与された(支給と書くか貸与と書くかで会社と自分との関係をどう捉えているかがわかる)パソコンを開いて連日沈黙していると、口を開くことすら筋肉が嫌がって引きつる。今日の買い物もマスクの下で口の動きは隠されているものの、声はくぐもる。一方の店員はマスク越しでも声が晴れやかで、襟なしの黒いシャツに黒いジャケットで上半身を引き締めながら下半身は歩くとドレープが揺れる薄い生地のゆったりとしたズボンを履くという難しい組み合わせを着こなしていた。耳元には星の光のような透かし細工のイヤリングが鈴のように揺れてぶら下がり、首から胸にかけて太い金色の首飾りが豪奢に輝いている。黒と金色の組み合わせは合わせやすいだけに、自分が服やジュエリーから浮かないよう従えるのが難しいと思う。といったことを伝えると店員は嬉しそうに目を細めた。
輸入品を扱うその店では来月以降から一気に三割から四割ほどの値上げを行い、値段の振れ幅は数千円から数万円と巷の値上げからは桁が違っている。だから今、駆け込みでお求めになられるお客様が増えていらっしゃるんですよ、ともう一人の男性の店員が言った。彼は店の商品を身につけていない。訊ねてはいないが男性ものの製品を見かけないこの店をなぜ彼が職場として選んだのかは気になるが、細工を凝らした品物を前に姿勢を崩さず敬意を払っているかのように佇んでいるので、少なくともここが大いに気に入った職場であることは間違いなさそうだ。二人共に休日構わず仕事を楽しんでいることがよくわかる。わかるだけに今自分がいる売り場の煌々とした白い明かりと、わだかまる家の暗がりへこれから戻らなければならない現実に気が重くなる。
働くということをこの店に来るたびに自問自答する。金のために働くのは結局ことばを丸めても会社のために働いているということだ、自分を会社に売り渡すことで自分が得られるものは金だけでよいのか、と新人の時に訊ねた私の先輩は今はもう勤め先を離れている。
輸入品を扱うその店では来月以降から一気に三割から四割ほどの値上げを行い、値段の振れ幅は数千円から数万円と巷の値上げからは桁が違っている。だから今、駆け込みでお求めになられるお客様が増えていらっしゃるんですよ、ともう一人の男性の店員が言った。彼は店の商品を身につけていない。訊ねてはいないが男性ものの製品を見かけないこの店をなぜ彼が職場として選んだのかは気になるが、細工を凝らした品物を前に姿勢を崩さず敬意を払っているかのように佇んでいるので、少なくともここが大いに気に入った職場であることは間違いなさそうだ。二人共に休日構わず仕事を楽しんでいることがよくわかる。わかるだけに今自分がいる売り場の煌々とした白い明かりと、わだかまる家の暗がりへこれから戻らなければならない現実に気が重くなる。
働くということをこの店に来るたびに自問自答する。金のために働くのは結局ことばを丸めても会社のために働いているということだ、自分を会社に売り渡すことで自分が得られるものは金だけでよいのか、と新人の時に訊ねた私の先輩は今はもう勤め先を離れている。