検診の回数が年二回に変わってから長い。物心ついた頃から私の口中を毎年眺めている歯医者も歳を取っているはずだが、浅葱色のマスクと帽子で頭と顔の半分が隠されており年齢は変わらないように見える。仰向けになり仰け反って首を突っ張らせた時に目尻の皺の深さと本数を数えるばかりで、声もマスク越しからでは変わりないように聞こえる。コロナが流行る以前から歯科医はマスクを付け続けている。当たり前の話だが、歯科医の素顔を見たことはない。今日もまた冬の検診から半年が過ぎたので口の中を点検してもらいに外出する。家を出るまでが年々億劫になるが出てしまえば足は軽い。雨がこぼれそうな花曇りの空だった。受付の小母さんの目元も変わらない。予約の二時までは昼休憩であったようで、院内は暗かった。二時丁度に電気が付き、しばらくすると名前を呼ばれた。
椅子が新調されていてたんぽぽ色のマッサージチェアのように親しみある姿をしていたが、腰をかけるといつもの拘束椅子だった。助手が紙エプロンを私の首へ手早く巻く。動き慣れないのか椅子はきしみながら仰向けに私を倒していった。倒れきってライトを見上げていると歯科医が左手から足音を立てずに現れて右手に着席し、工具のような金属の仕事用具を構えて合図するでも無く開けた私の口の中を探り出す。私は唾液が人よりも多いらしく吸引器で吸い上げたりブラシやフロスを使われるたびに唾の霧状の飛沫が顔に飛ぶ。珍しく歯科医が私の顔に唾が飛んだのを見て顔を拭いてくれた。後は鏡を持たされて歯磨き不足を指摘され、利き手の癖で毎度磨き忘れる場所を苦笑交じりに注意されて何事も無く今回の検診は終わった。歯ブラシを買って三千円。
椅子が新調されていてたんぽぽ色のマッサージチェアのように親しみある姿をしていたが、腰をかけるといつもの拘束椅子だった。助手が紙エプロンを私の首へ手早く巻く。動き慣れないのか椅子はきしみながら仰向けに私を倒していった。倒れきってライトを見上げていると歯科医が左手から足音を立てずに現れて右手に着席し、工具のような金属の仕事用具を構えて合図するでも無く開けた私の口の中を探り出す。私は唾液が人よりも多いらしく吸引器で吸い上げたりブラシやフロスを使われるたびに唾の霧状の飛沫が顔に飛ぶ。珍しく歯科医が私の顔に唾が飛んだのを見て顔を拭いてくれた。後は鏡を持たされて歯磨き不足を指摘され、利き手の癖で毎度磨き忘れる場所を苦笑交じりに注意されて何事も無く今回の検診は終わった。歯ブラシを買って三千円。