朝10時くらいの日比谷の喫茶店は特定の条件を満たしたときの現象に数えてもよいと思った。劇場近くの喫茶店はほぼ満席なので地下鉄出口近くの、一杯700円代という高さで客をしのいでいる喫茶店に入る。まだモーニングセットも終わらない(そもそも休日にも関わらずモーニングセットを売っている時点で店側の狙いは推して知るべし)時刻にアフターファイブのようなお洒落に身を固めた女性が点々と席に座っている。隣に座る女性がしきりにスマートフォンを触り入り口を気にしている。注文したトーストを齧っていると似たような髪型の女性がもう一人「ごめーん」とマントのようにコートを振り回しながら隣の女性の向かいに腰かけつつやってきたウェイターにコーヒーを注文した。
「大丈夫、しょっちゅう来てるし10人とかで来ることもあるから」
隣の女性から同意を求められたウェイターは笑顔を崩さずメニューを捧げてカウンターの奥に消えた。「11時の公演だよね」と喋っている彼女たちの行き先は私と同じく東京宝塚劇場なのだろう。次々と「11時」とあちこちの席から上がる声を背に外を出た。
とにかく貝になれとしつこく言われた劇場の席番は注意の量と引き換えに「いい席」だった。ふとした感想でも誰が聞いているかわからないから、と、あまり理解したくない類の緊張感に苛まれながら席につく。徐々に席が埋まる。妙齢の女性が大半だが男性客もちらほらと見える。どれほどが「誰」なのかはわからないものの、花粉並みに視認出来そうな圧力に私の口は勝手に閉じたまま開演をひたすら待っていた。
「大丈夫、しょっちゅう来てるし10人とかで来ることもあるから」
隣の女性から同意を求められたウェイターは笑顔を崩さずメニューを捧げてカウンターの奥に消えた。「11時の公演だよね」と喋っている彼女たちの行き先は私と同じく東京宝塚劇場なのだろう。次々と「11時」とあちこちの席から上がる声を背に外を出た。
とにかく貝になれとしつこく言われた劇場の席番は注意の量と引き換えに「いい席」だった。ふとした感想でも誰が聞いているかわからないから、と、あまり理解したくない類の緊張感に苛まれながら席につく。徐々に席が埋まる。妙齢の女性が大半だが男性客もちらほらと見える。どれほどが「誰」なのかはわからないものの、花粉並みに視認出来そうな圧力に私の口は勝手に閉じたまま開演をひたすら待っていた。