二銭銅貨

星の数: ☆良い ☆☆すごく良い ☆☆☆激しく良い ☆☆☆☆超激しく良い ☆☆☆☆☆ありえない

妻よ薔薇のやうに

2009-08-10 | 成瀬映画
妻よ薔薇のやうに ☆☆
1935.08.15 PCL、白黒、普通サイズ
監督・脚本:成瀬巳喜男、原作:中野実「二人妻」
出演:千葉早智子、大川平八郎、丸山定夫、英百合子、伊藤智子
   堀越節子

二人妻と言うのは東京の正妻と、
田舎ずまいの妾のこと。
おとうさんは妾のほうが居心地がいいらしく、
信州の田舎に住んでいて、
東京にはまったく帰って来ない。

千葉早智子は東京の正妻の娘で、
くったくが無くて明るい現代娘。
堀越節子は田舎の妾の娘で、
ちょっと陰があるけれど、健気で地道な感じ。
ぼーっとした感じの正妻が伊藤智子で、
思いやりがあって律儀な妾が英百合子。
ちょっととらえどころのない父親が丸山定夫で、
千葉早智子の彼氏が大川平八郎。

全体に明るく、軽いタッチだ。

おじさん役の藤原鎌足がヘタな義太夫をうなる場面がある。稽古本を数冊持って来て、その一番上に「壷坂霊験記」。これを語っていたようだ。壷坂は有名な演目で、若い盲目の按摩と妻の夫婦愛の物語。これをこの映画の夫婦愛についてのテーマに重ねているのだろう。

壷坂は明治時代の三味線の名人だった団平の作曲で、もともとあった浄瑠璃に団平の妻のお千賀が輔筆したもの。この夫婦の物語を芸道ものとして映画化したのが溝口健二の「浪速女」(1940)。田中絹代がお千賀をやっている。今はフィルムが消失していて見ることができない。

この映画のおとうさん役の丸山定夫は終戦まぎわに移動演劇隊で巡業中に広島で被爆して死亡した「さくら隊」のリーダ。新藤兼人のセミドキュメンタリー「さくら隊散る」に出てくる。通称ガンさん。無くなったのは16日だったようなので8月6日は命日ではありませんが、その日にも神保町シアターではこの映画の上映があった。

09.08.01 神保町シアター
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夫婦

2009-08-02 | 成瀬映画
夫婦 ☆☆
1953.01.22 東宝、白黒、普通サイズ
監督:成瀬巳喜男、脚本:井手俊郎 水木洋子
出演:上原謙、杉葉子、三国連太郎、木匠マユリ、豊島美智子

あい変わらず口数が少なくて、
前後左右のはっきりしない、
しっかりしない、
ご亭主が上原謙。
かいがいしく、しっかりものの妻が杉葉子。
これに最近、妻を無くしたばかりの三国連太郎が、
なにか書生気分のだらしなさと一途さでからむ。まとわりつく。
何かとボーっとした感じの上原謙だが、
それでも嫉妬の嵐、
怒りの渦が、
心中にワサワサワサワサと湧き起こる。
巻き起こる。

ベンチに腰をおろした杉葉子は、
せっぱつまって沈痛な心持ち。
子を産むかどうするか?
どうしても産婦人科には行けない。
経済的に不可能だからとて、
どうしてもこの子は産みたい育てたい。
経済的に不可能だからと、
そばにボソッと立つ上原謙の顔には困惑の表情。
サワサワと風にうるさく騒ぐ公園の木々の枝、葉。
冷たく強い風。
貧乏な夫婦

「帰ろう」と上原謙。
「えっ」と驚きの目で上原謙を見上げる杉葉子のクローズアップ。
柔らかい、
白と黒の画像の中に、
連れ添って帰る姿のこの夫婦。

杉葉子の妹役が岡田茉莉子で元気良くてパッと明るい。
映画が引き締まる。

09.07.25 神保町シアター
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まごころ

2009-08-01 | 成瀬映画
まごころ ☆☆
1939.08.10 東宝、白黒、普通サイズ
監督・脚本:成瀬巳喜男、原作:石坂洋次郎
出演:加藤照子、悦ちゃん、入江たか子、高田稔

戦前の映画。
2人の小学生の交友の物語。
1人の家は貧乏で、
もう1人の方はお金持ち。
お金持ちの娘が悦ちゃんで、
貧乏な方が加藤照子。
悦ちゃんのお父さんが高田稔で、
加藤照子のお母さんが入江たか子。
この2人には浅からぬ因縁があるらしいという設定。

映画が出来たのは戦中末期の暗い世相の時だったと思うだけれど、
明るくさっぱりした印象は原作が石坂洋次郎だったからだろうか。
大人の世界のどろどろを背景にして、
子供の世界は純真でまっすぐという話。
その純真さとまっすぐさを2人の子役が良く表現していた。

怪我した足をひきずりひきずりしながら、
大きな人形を抱いて、
一所懸命に歩く悦ちゃんの姿と、
大きな木の傍らに佇んで、
悦ちゃんのことに思いを凝らしている加藤照子の姿。
この2人の友情のまっすぐが、
この題名の「まごころ」なのかと思った。

09.07.20 神保町シアター
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乙女ごころ三人娘

2009-07-29 | 成瀬映画
乙女ごころ三人娘 ☆☆
1935.03.01 PCL、白黒、普通サイズ
監督・脚本:成瀬巳喜男、原作:川端康成 『浅草の姉妹』
出演:堤真佐子、細川ちか子、梅園竜子、大川平八郎、滝沢脩

堤真佐子がとっても健気だ。
思いやりの深い優しい少女だ。
情の篤い話で
たわいもない話だけれども、
こういう自己犠牲の話は、
どんなものでも気持ちのいいものです。

その姉の細川ちか子はぬめっとした大人の女で、
全体に子供っぽいこの映画の精神年齢を引き上げている。

回想シーンが多く、
幾分前衛的で斬新な構図のあるこの映画は、
製作にあたって相当な力が入っていたように思われる。
成瀬監督、初のトーキーだそうだ。

全体に音楽が多く、三味線の音や当時の浅草のレビューの音楽、梅園竜子が鼻歌で口ずさむ「会議は踊る」の主題歌「ただひとたび」など。三味線の音に合わせて桶屋が木ハンマーで桶をたたいてリズムを取るなどの場面もあって、音を入れられることの楽しさが良く出ている。

埠頭に座って木村屋のあんぱんをほうばる日本髪姿の堤真佐子に、写真を撮りたいという男性が現れて、堤真佐子が必死にポーズをとる。穴のあいた足袋をかくしたり。一所懸命。おかげさまで写真を撮り終わり、男性が歩み去ると、どんな具合だったかと手鏡で自分の顔を見る。と、そこに、唇の脇にパンのカスがひとつ、ひっついて残っている。あれまあ、しまった。あれまあ、どうしよう。どうしよう。でもまあ、いいか。と、ここの所はサイレントでパントマイムな演出。

当時の浅草松屋の屋上がロケで使われていて、屋上に設置された空中ゴンドラリフトが背景に見える。

09.07.11 神保町シアター
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女人哀愁

2009-07-28 | 成瀬映画
女人哀愁 ☆☆
1937.01.21 PCL、白黒、普通サイズ
監督・原作:成瀬巳喜男、脚本:田中千禾夫
出演:入江たか子、北沢彪、堤真佐子、沢蘭子、水上玲子、佐伯秀夫
大川平八郎

舅、姑、小姑3人と、
揃いも揃った所に嫁に来た入江たか子。
夫は冷たいし。
家族からは女中のように使われるし。
まるでお城に行く前のシンデレラのようだ。

わがまま娘の沢蘭子と甲斐性なしの大川平八郎の
ぐずぐずした
ぐだぐだのエピソードが面白い。
芝居が良い。
くされ縁の、情の深さ。
よれよれで、くたくたで、
どうにもならないけれども、
結局は離れられない。
のがれられない、
男女の深い仲。
深遠が、そのまんまストレートに、
軽く表現されている。

女性の自立についての強いメッセージがこの映画の主題で、
最後に入江たか子の演説っぽいセリフで締めくくられる。

09.09.11 神保町シアター
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