二銭銅貨

星の数: ☆良い ☆☆すごく良い ☆☆☆激しく良い ☆☆☆☆超激しく良い ☆☆☆☆☆ありえない

ハムレット/MET09-10舞台撮影

2010-04-25 | オペラ
ハムレット/MET09-10舞台撮影

作曲:アンブロワーズ・トマ
演出:パトリース・コリエ、モーシュ・ライザー
指揮:ルイ・ラングレ
出演:サイモン・キーリンサイド、マルリース・ペテルセン
   ジェニファー・ラーモア、ジェイムズ・モリス

渋い色合いのセットと渋い演出。演劇的な演出。オペラのあらすじは原作とは異なるものの、ハムレットの精神的彷徨にフォーカスしている点は同じ。サイモン・キーリンサイドがハムレットで、これも演劇性の強い芝居だった。マルリース・ペテルセンがオフィーリアで、急にデセイの代役で出たとのこと。急ごしらえに割りは問題無くそつなくこなしていた。強靭な感じのソプラノで、狂乱の場のコロラトーラも強く太い印象だった。狂乱の場の散らかされた白い花が印象的で、濃い紺の背景色に良く映える。そしてその最期の場面はミレイのオフィーリア風で美しかった。

ジェニファー・ラーモアは女王で、これはディズニー風のメイクで芝居も歌も良く、このオペラ全体の土台になっていた。強力な歌声でオーケストラやパートナーの歌手とのアンサンブルが良いと思った。ジェイムズ・モリスが王で、歌がしっかりしているだけでなく、王の心の苦しみの表現もうまかった。

舞台は比較的シンプルでセットを移動させながら場面を転換し、幕間を連続させて緊張感が途切れないように工夫していた。休みのある幕間は1回だけだった。

ハムレットは、もともと狂気の話。人の狂気、人類社会の狂気、狂気の引き起こす悲劇について考察した話である。

狂気とは何であろうか?通常は健常者と狂人は区別されるけれども、あまり病的でない狂気まで含めて考えれば、人は多かれ少なかれ生まれつき狂っている。その狂いをなんとか、かんとか、マネジメントして社会生活を送っているのが人間であるように思える。

狂気は悪いことのように思われているけれども、実はその狂いが社会の進歩にとっては重要なんじゃないかと思う。狂気が現代社会に今もって生き残っているのはそれが人類社会にとって必要だからなのではないだろうか?そうだとすれば、狂気というものは人の背負った宿命だとも言えて、古代よりそのアイテムが文学的な研究課題になっている理由はそのためなんじゃないかと思う。

10.04.16 東劇
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロミオとジュリエット(ゼフィレッリ)

2010-04-14 | 洋画
ロミオとジュリエット(ゼフィレッリ) ☆☆
Romeo and Juliet
1968 イタリア、カラー、横長サイズ
監督・脚本:フランコ・ゼフィレッリ、
脚本:フランコ・ブルザーティ、原作:シェークスピア
出演:レナード・ホワイティング、オリヴィア・ハッセー
ジョン・マッケナリー、マイケル・ヨーク、ミロ・オシー

咲きかけの桜の蕾の薄紅、
闇夜におそらくは一瞬、花開いたのかも知れないけれど、
それは一瞬の事だから誰にも分からない。
どちらにしてもその蕾の命は短く美しく、
はかなく潔く、
そのまま散ってしまう。

夕刻の2列の葬列はゆっくり進む。
濃い青の悲惨な空気に包まれて、
2人の死骸はまだ生きているかのようだった。
幾分ざらついたキメの粗い、
その濃紺のフィルムの表情がとても哀しそうだ。

物語ではモンタギューとキャピュレットは仲直りしたことになっている。けれども本当にそうなんだろうか?いまだに悲劇は起こり続け、いさかいは継続し、天罰が下り続けているように思える。創作上の人物とは言え、ロミオとジュリエットの犠牲はほとんど何の役にも立たず、ただただ我々を悲しませる芸術の成立に役立っただけのように思える。

オリヴィア・ハッセーは際限なく美しく桜の蕾のようだ。いたいけない少女なのに色香がにじみ出ていて、レナード・ホワイティングのロミオが一目惚れするのも無理は無い。ジョン・マッケナリーのマキューシオが面白い。人生の無常感をシモネタや滑稽なセリフで表現して、ヤケクソな感じがシェークスピアだ。ミロ・オシーのロレンス神父も印象深い。神父と魔術師が混ざったような感じの表現が良かった。あさはかな魔術師の策略の失敗はこの物語の基底の1つでもある。ロミオのかたきのティボルトはマイケル・ヨークで、その堂々とした若々しい眼光の鋭さが良かった。

おそらく原典のセリフを多用した演出で、現代のものではないセリフに、うまく役者の動きをシンクロさせて違和感が無いようにしていた。その手法はオペラの演出に似ている。その一方でリアリズムを追求した野心的な面もあり、特に2つある決闘の場面は手持ちカメラのようなダイナミックな撮影で迫力に満ちていた。衣装の贅沢さも印象的で、ロミオとジュリエットが出会う舞踏会のシーンは豪華だった。

音楽はニーノ・ロータ。甘すぎだけど良いメロディーで有名。

10.04.03 シネコン映画館(午前十時の映画祭)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

回転不足について

2010-04-04 | フィギュア・スケート
回転不足について

浅田は今度の大会では3個のアクセルのうち2個が回転不足のダウングレードとなった。これはビデオを見返してみてもスローで見ても分からない。どうもコマ送りで見ないと分からないらしい。今はコマ送りできる装置がないので、どうしようもない。ジャンプの滞空時間を0.7秒、回転数を1260度、フレームを30フレーム/秒として、およそ1コマ60度である。回転不足なんてコマ送りでも判断がむずかしそうだ。それをジャッジ達は選手がキス&クライでそわそわ待っている間に判断するのだから、たいしたものだと思う。しかもジャンプ全部をチェックするのだ。ランディングだけで無く、踏み切りもだ。ジャッジの仕事も過酷なんだなと思う。

ダウングレードは減点の幅が大きい。単にダウングレードするだけでなくGOEも悪くなる。ダウングレードしているのだからGOEは高くなっていいと思うのだけれども、GOEだけは元の回転数として判断されるのか、あるいは回りすぎとされるのかダブルパンチで減点されるのでダメージが大きい。転んだほうがよっぽどましかも知れない。回転不足はダメージが大きいのに見ていてもはっきり分からない減点要素である。技術点が想定外に低い場合にはこのトラブルを疑う必要がある。おおむね5点前後のマイナスになるようだ。

浅田は以前よりも体格が変わって、ジャンプが若干、苦しくなっているのかも知れない。スコア的には今回飛ばなかったルッツやサルコーをトウやダブルアクセルの代わりに加えることで3点くらい基礎点を上げられる、と言うより個人的にはルッツとサルコーが無いのが寂しい。一方、同じくスコア的にはジャンプのGOEを上げるのが重要で、これを1~2ポイント上げることで総合的に10~20ポイント上げることができる。実はキムとの差はここにある。GOEはどうもクリーンな着氷がものを言うらしく、そのためにはもっと高く強く飛ぶ事が課題になるだろう。なお、基礎点は後半の1.1倍を無視すると浅田に方が2.4ポイント高い。一方で、今後もトリプル・アクセルを維持することは大変で、他のジャンプのブラッシュアップとそれとが両立しなくなる可能性もある。両方できれば、本当に素晴らしいことだと思う。
 
フリーでのジャンプの種類比較
種類 スコア 浅田 キム
3A   8.2   2   0
3Lz  6.0   0   2
3F   5.5   2   1
3Lo  5.0   1   0
3S   4.5   0   1
3T   4.0   1   2
2A   3.5   1   3
2Lo  1.5   3   1
2T   1.3   1   1
合計     45.7  43.3

ルールの制限:1st7個、2nd4個、トリプルは2個までが2種類、ダブルアクセルは3個まで。略称はアクセル(A)、ルッツ(Lz)、フリップ(F)、ループ(Lo)、サルコー(S)、トウループ(T)、数字は回転数。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2010世界選手権

2010-04-03 | フィギュア・スケート
2010世界選手権

2006年のトリノオリンピックのシーズンに恩田美栄が「道」を滑ったことがある。その時に、イタリアで「道」を滑る、そのスケーティングを見てみたいと思った。けれども、残念ながらそうはならず、そうは問屋が卸してくれない。それが4年後に男子で実現するとは、思いもよらないことだった。しかも1位、これが日本のフィギュア史に残る快挙なんだから、これ以上の結末は望めない。とりあえず、イタリアのスケートリンクをジェルソミーナの歌で一杯にできたことは本当にうれしかった。

高橋はクワッド・フリップにチャレンジした。転ばないで立てたのが凄い。両足着地でかつ回転不足でダウングレードだけれども、それでも凄い。これは、うっかり飛べちゃうと当分誰にも敗れない記録になってしまうかも知れないジャンプなので大変だ。来年も挑戦するのだろうか?

織田はショートで3個のジャンプが全部失敗してフリーに参加できず。小塚はショートが良く4位だったが、フリーでクワッドとトリプルアクセル2個を失敗して結局10位となった。

女子は浅田真央が優勝。キムは不調で相当ミスったが、ベースが高いレベルにあるのでそれでも2位。長洲はショートで1位だったが、フリーはジャンプのミスが重なって結局7位。インタビューでは「早く帰りたい」と涙目で語って相当のショックだったようだ。安藤はスピードが無いながらも完璧。特にほとんど総てのジャンプがクリーンだった。フリーは3位。ショートはジャンプのミスがあって11位だったので総合4位。鈴木はショートのミスが大きく20位だったが、フリーは非常に元気良く、ジャンプにミスがあったもののフリーは7位で総合11位。お元気お姉さんだ。ペアでは川口・スミルノフ組が3位。スロークワッドサルコーとスローループで転んで本当に悔しそうだった。エキシビションでもスロージャンプを転んで、終わった後でも若干悔しそうな表情だった。

エキシビションでは浅田のカプリースにスピードがあってキレが良く、舞も良くて最高だった。扇子の動きにキレがあって日本舞踊を見ているようだった。ショウの最後には高橋と浅田のスロー・スリージャンプが披露されて楽しかった。

オリンピックの年なので辞退や欠場が多く、男子の1、2、4、6位が出ていなかった。一方、女子は3位が出てないだけだった。

世界選手権が男女優勝。世界ジュニアも男女優勝。オリンピックが2位と3位。こんなに贅沢していいんだろうか?バチがあたるんじゃなかろうかとやや不安になる。

世界ジュニアはペアで高橋成美/マーヴィン・トラン組(日本代表)が2位、シングル女子で村上佳菜子、男子で羽生結弦(ゆづる)が1位。

2010.3.22-28 トリノ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ラ・ボエーム/神奈川県民ホール2010

2010-04-02 | オペラ
ラ・ボエーム/神奈川県民ホール2010

2010年上演
作曲:プッチーニ、演出:アンドレアス・ホモキ
指揮:沼尻竜典、演奏:神奈川フィル
出演:浜田理恵、志田雄啓、中嶋彰子、宮本益光

甘い薄いピンクのワンピースのミミ、巨大なクリスマスツリーの深い緑、黒い壁、白い粒々の雪。開幕前から幕はあいていて天から雪が間断なく降り積もっている。小さい粒々の雪は劇中でも要所要所で降ってきて、それはあたかも天が泣いているように、白い涙がクルクル落ちてくるように見える。純白の白は恋愛至上主義の白だ。

都会の冷たい風に吹き煽られる人々の心はささくれだっていて、冷酷で容赦の無い空気の中で、芸術家の4人やムゼッタやミミの心は友情に深く支えられている。そういう中での恋愛劇はプッチーニのボエームの読み替え版、現代の物語で本来のボエームとは全く違う。最後にロドルフォも含めた皆が立ち去る中、1人残ってミミに付き添うのがムゼッタなのだ。哀しくてやるせない。寂寥。友情はとても強調されているようだけれども、プッチーニの愛はどこへ行ってしまったんだろう。微塵も無いかのようだった。

それでも音楽はプッチーニだから、ミミのピンクのドレスとクリスマスツリーの深い緑と雪の白に、決して消し去ることのないプッチーニの恋愛至上主義の糖質がずっと味覚として残るようであった。ビターな演出だから、余計にその甘さが感じられるのかも知れない。

浜田理恵のミミは落ち着いて安定しているしっかりとしたソプラノ。中嶋彰子のムゼッタはエネルギッシュでパワーのあるソプラノで芝居も良い。宮本益光のマルチェッロは元気良く動き回り、志田雄啓のロドルフォはおっとりした印象。

10.03.27 神奈川県民ホール
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする