二銭銅貨

星の数: ☆良い ☆☆すごく良い ☆☆☆激しく良い ☆☆☆☆超激しく良い ☆☆☆☆☆ありえない

猟銃

2008-06-18 | 邦画
猟銃 ☆☆
1961.01.03 松竹、カラー、横長サイズ
監督:五所平之助、脚本:八住利雄、原作:井上靖
出演:山本富士子、岡田茉莉子、佐分利信、佐田啓二、馬淵晴子

全体にねじれた心理が錯綜する物語。
こんなにも人の心はねじり曲がっているのかと思う。
ねじれていて辻褄が合わないから心が苦しく、
そしてその苦しさに、
耐える姿が美しくもある。
純粋で美しい心だから妥協を許せず、
それだからこそ、
ねじれてしまうのだ。
もっと、率直に、緩めて生きれば楽なのに。

苦しい思いが底辺にあって、複雑な表情の山本富士子。
怒りと憎悪に苦しみ、鬼の形相を微笑みの下に隠す岡田茉莉子。
何くわぬ顔で悪の所業を隠し通す佐分利信。
自分の悪の所業に苦しみながらも女の気持ちが分からない佐田啓二。
大人たちのぐるぐるした危険な状況の崖っぷちに立つ娘の馬淵晴子は、
健気で明るく健全な心でいる。

ほんのちょっとだけど、
乙羽信子が少し狂った母親役で出てくる。
やせ細った腕の痛々しさが目に焼きつく。
狂ったこの物語の冒頭を印象付ける。

物語の前半の紅葉を背景とした散歩のシーン、雪の降り積もる森の中、海の夕焼けなど、自然を写した背景のショットが美しい。これらの風景と美しい衣装の数々は、ねじくれてはいても美しい人々の心と悲しさの背景になっている。

08.06.14 神保町シアター
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「通夜の客」より わが愛

2008-06-17 | 邦画
「通夜の客」より わが愛 ☆☆
1960.01.03 松竹、カラー、横長サイズ
監督:五所平之助、脚本:八住利雄、原作:井上靖「通夜の客」
出演:有馬稲子、佐分利信、丹阿弥谷津子、乙羽信子

中国地方の山の中、
小さな村を取り囲む山々と自然。
純粋な空気、
偉大なる風景。
けがれの無い村人たち。

春、夏、秋、冬、
季節の中で暮らす、
中年のおじさんの佐分利信と、
若い娘の有馬稲子。

年寄りと若い娘の純愛ラブロマンスは
「昼下がりの情事」でもそうだけど
リアリティが無いだけに
清潔感のあるロマンスになる。
おとぎ話だ。

突然の雷雨の中、
清らかなキヨ子は雨に打たれながら、
新津の声が聞こえたように思えた。
「ありがとう、キヨ、
長い間ありがとう」と。
雨にうたれながら、
報われた思いがして涙も雨も一緒だ。
形見のナイフを愛おしそうにさするキヨ子の手。

雨もあがって、からりと晴れる野の山々と空、田舎の道。
優しい自然の風景。

モチーフが最近文楽で演じられた「狐と笛吹き」に似ていると思った。「鶴の恩返し」風の話。ただ、このストーリーには恩の部分がない。しいて言えば、佐分利信がまだ少女だった有馬稲子に言った「大人になったら浮気しようね」という言葉がそれに相当するのかも知れない。狐火の出るシーンがあって、ちょっとそんな感じのする話です。おとぎ話のような。

08.06.14 神保町シアター
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地獄門

2008-06-16 | 邦画
地獄門 ☆☆
1953.10.31 大映、カラー、普通サイズ
監督・脚本:衣笠貞之助、原作:菊池寛
出演:長谷川一夫、京マチ子、山形勲

極彩色の画面。
くっきりとした重厚な色使い。
濃い色の、
豪華な衣装、
美術、
照明。

平治の乱のさなかに燃えあがる恋の炎。
いきり立つ長谷川一夫の若い魂の炎上。
その愛をしっかり受けとめたい京マチ子だけれども、
優しい夫への人情もある、
世間への義理もある。

荒れ狂う世の中。
荒れすさむ地獄門。
かなしげな琵琶の音。
濃紺の闇の無表情。

優しい表情の中に狂気の激情を表現する長谷川一夫。
静かで冷静な気風の中に気丈で強い精神を見せる京マチ子。
まじめで善人の夫役が山形勲。

悔いる長谷川一夫。
無念な山形勲。
無残な京マチ子。

08.06.14 NFC
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驟雨

2008-06-15 | 成瀬映画
驟雨 ☆☆
1956.01.14 東宝、白黒、普通サイズ
監督:成瀬巳喜男、脚本:水木洋子、原作:岸田国士
出演:原節子、佐野周二、小林桂樹、根岸明美、香川京子

貧乏暮らしの夫婦。
原節子と佐野周二。
となりに引っ越して来た夫婦が小林桂樹と根岸明美。
小林桂樹は、
ほんのお印にと蕎麦の切符を持って来る。

小林桂樹は妙に原節子のことが気になる。
佐野周二は明らかに根岸明美のことが気になる。
うーん、まずい雰囲気。

佐野周二は妻の気持ちがイマイチ理解できない。
原節子も夫の本当の苦境が分からない。
この夫婦の行き違いを貧乏が増幅する。
世間の厳しさ、冷たさも過酷な増幅器だ。

余計な世話好き、人のいい小林桂樹。
ざっくばらんな根岸明美。
こちらは気のいい夫婦。

なんだかんだいって、
原節子と佐野周二の夫婦の方は、
喧嘩しているかのように、
二人で激しく紙風船を付き合っていますが、
なんだか仲が良さそうです。

ま、いろいろあるけれど、
何とかしのいで、頑張っていきましょうってことですか、
みんな健気です。

映画の中では犬が重要な役割で出てきますけど、
結局、夫婦喧嘩は犬も喰わないって、そういうことです。

香川京子の方は純情でうぶな、
清潔感強すぎの新婚、姪役で最初に出ています。

08.06.07 新文芸座

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杏っ子

2008-06-12 | 成瀬映画
杏っ子 ☆☆
1958.05.13 東宝、白黒、普通サイズ
監督・脚本:成瀬巳喜男、脚本:田中澄江、原作:室生犀星
出演:香川京子、山村聡、木村功、夏川静江

ピアノを弾く香川京子。
あふれるピアノ曲。
純粋な音、
誠実な音。

ゆったりとした田舎の山々、
おいしげる木の緑、
流れる雲、
ゆるい日差し、
のんびりした空気。
落ち着いた構図、
田舎の風景。

田舎道をゆっくり並んで行く2つの自転車。
落ち着いた人々の生活。

ゆったりとした父さんの山村聡。
やさしい母さんの夏川静江。
無邪気な娘の香川京子。
人のいい息子の太刀川洋一。
一途で、ちょっと暗い陰の木村功。
その母はのんびりして、
ちょっと鼻にかかった声の中北千枝子。

ゆっくりした前半。
厳しくつらいのが後半。

自分に甘く、わけもわからず、
気持ちを制御できず、
世間も知らず、自分も知らず、
窮地に迷い込み、
はまる、
木村功。

辛抱強く、我慢強く、
誠実に、
一所懸命頑張る、
香川京子。

運命の空回り。
気持ちの行き違い。
アンバランスな成り行き。
行き場の無い生活。

長い道、イバラの道、でも、
頑張って、
一人で、
ずっと歩いて行くのは、
杏っ子、
香川京子。

08.06.07 新文芸座

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