07歌舞伎座7月/NINAGAWA十二夜/歌舞伎
出演:菊之助、菊五郎、時蔵、錦之助、亀治郎、翫雀
シェークスピアの十二夜を、歌舞伎版に翻案した新しくて楽しい恋の喜劇。
舞台が開くと一面ハーフミラーで観客が映る。1、2、3階の客席はほぼ満席で、こんなにも多くの人が来ている、山盛りの見物人。出だしの場面は桜色、満開のしだれ桜が鏡に映る豊かな風情、桜に染まるその舞台にハラハラ落ちる花弁のもとで、チェンバロを弾く異人さんと、合唱する異人の子供たちの高域の音が主要な不思議な世界。歌舞伎とは思えない現代的なスタートは、いたるところに張られた鏡の白銀と黒の印象。そこに、錦之助と松也が花道より登場する。
二役の早替わりを何度もやる菊之助が乗る大船は、大きな布の波に揺られ揺られて今にも沈没寸前。波にさらわれる菊之助、霧、いかずち、大雨、大風、暴風雨。北斎の神奈川のような背景画。
憂い深き紳士的な貴族、品の良い錦之助。やり手で小悪党だけど、憎めないしっかりものの腰元の亀治郎はきっぱりとしていて、ハギレが良い。道化師のようにアホーものの役を、潤滑油たっぷりと、くるくる回している翫雀は滑らかで心地良い。恋におちても、しっかりしているお姉さんの時蔵は、年上の女性の恋の悩みを渋くしぶとく表現します。菊五郎は二役で、1つは狂言回し、司会者のような役回り。もう1つは、強欲でいばり屋の悪い男。人の心の腐った部分。実はここがこの演劇の芯なのかと思う。菊之助は端整な若者と可憐な乙女。女なのに男を演じる女を男なのに演じる菊之助は、男なのに、女なのに何故か男を演じて、つい、女が微妙に出てしまう女の表情表現をしつこく追及していきます。簡単な芝居では無いように思えた。
美術、衣装が美しく端整で、バランスも良く、また斬新なものも多い。菊五郎がニセ手紙を拾うシーンで出てくる円錐の上を切った形の白い物体にユラユラ動くイメージを投射させて、ブッシュっぽく見せている場面が印象的であった。ここだけ現代的な幾何学的なセットになるので、舞台を通してのアクセントとも言えて、特に強く印象付けられた。美術、セットに見とれて、芝居を忘れてしまう事もしばしばであった。
07.07.22 歌舞伎座