二銭銅貨

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絵本猿飛佐助

2006-03-31 | 読書ノート
絵本猿飛佐助/林芙美子

講談社、大衆文学館(文庫)

林芙美子が子供の頃の愛読書だった猿飛佐助の物語を、戦後、自分で書いた小説。忍者ものなので、忍術がいっぱい出てくるかと思うと、そうでは無くて、佐助はめっぽう運動神経の良い、運動能力に優れた若者という設定。できるだけリアルな感じにしたかったんでしょう。

「絵本猿飛佐助」の題名は、吉川英治の「私本太平記」とか「新書太閤記」とか、そういうネーミングのパロディかと思う。中身は全然「絵本」ぽくなく、ちゃんとした時代小説になっています。林芙美子らしく、自然に無理なくさっぱりと、リアリティを大切にして書かれていて、司馬遼太郎の時代小説と同じくらいに楽しく感じました。

戦後、間もなくの作品なので、反戦の気持ちが色濃く記述されています。戦前の軍国の世の中を反省、批判する気持ちです。佐助は誰も殺しません。

物語は、西遊記のようなダイナミックな事件が次々起きる雰囲気で進んで行きますが、筆者の健康上の理由で、あまり事件の起こらぬまま中断したような形で終わっています。このまま続いたらどんなになっていただろうかと思います。西遊記のようにダイナミックな童話的事件がどんどん続いて行ったのか、それとも、大菩薩峠のように、天国、地獄をも巻き込むような超哲学的な大作になっていったのだろうか。この頃の林芙美子には、こんな時代小説を書く力があったんですね。

猿飛佐助は林芙美子ですね(解説には夫の手塚緑敏でもあるとあった)。放浪記の芙美子は猿飛佐助だったんだ。うーむ、なる程。それで、少しは合点が行ったような気もします。
06.03.29
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ブルグ劇場

2006-03-30 | 洋画
ブルグ劇場  ☆☆
Vienna Burgtheater Burgtheater
1936 ドイツ、白黒、普通サイズ
監督:ヴィリ・フォルスト、
脚本:ヴィリ・フォルスト、ヨッヘン・フート
出演:ヴェルナー・クラウス、ホルテンセ・ラキイ、
   オルガ・チェホーワ、ヴィリー・アイヒベルガー、
   ハンス・モーザー

ブルグ劇場のおじさん人気俳優。
役者に生きて、芸に生きて、舞台一筋、芝居一筋。
人生の全部をそれに捧げて来ました。
芝居が総てです。舞台が命です。

ある日、教会で若い娘に恋をします。
盲目の恋、妄想の恋、幻覚の恋。

こんな人生で良いのだろうか?こんな生活で良いのだろうか?
舞台だけしか無く、芝居だけしか無い。
それだけの人生。
もう若くは無い。
もう若者では無い。
年寄。
経験が有るとは言っても、スピードもパワーも有りません。
無力。

でも、次の日、舞台に立てば、
若さが甦ります。赤く、青く、強い炎のように、
若さが燃え上がります。
芝居が人生です。舞台が生命です。

構図が重厚です。映像、音響、衣装、美術、照明、演出、
すべてが重厚です。
主演のヴェルナー・クラウスも見事です。
演じている名優より、名優だと感じました。拍手。拍手。
06.03.26 NFC
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マヅルカ

2006-03-28 | 洋画
マヅルカ  ☆☆
Mazurka
1935 ドイツ、白黒、普通サイズ
監督:ヴィリ・フォルスト、脚本:ハンス・ラモー
出演:ポーラ・ネグリ、アルブレヒト・シェーンハルス、
   インゲボルク・テーク

マヅルカはポーランドの民族舞踊。

ダイナミックなカメラの動き、チャレンジングな構図。
実験的な映像。それでいて、しっかりした作り。
物語の回想シーンも当時としては斬新だったらしい。

冒頭は、かなりのスピードで走行する
自動車の中から運転手の目線で前方を映すシーン。
これは今ではカーチェイスで良く見られるシーンだけれども、
当時としては、これはすごかったんじゃないかと思う。

女性がキスをしている時に、外の世界がどう見えるかを
映像的に表現したシーン。
そんな風に、まぶたを閉じるんだ。
ふーん、そんな雰囲気なんですね。

ダンスを踊っている時に相手がどう見えるかを表現しているシーン。
多分、スクリーン・プロセスを使っているのでしょう。
くるくる回ります。

最後の場面、女性が階段を登っていくがごとき場面。
これもスクリーン・プロセスを使っているらしく、
幻想的で、また、この映画の主題を良く表現しているシーン。

物語の方は、主演のポーラ・ネグリが、太く、強く、賢く、
子供に対する母親の思いと、自己犠牲のはっきりした気持ちを、
放射するように、訴えるように表現して、
この映画の土台をしっかり支えます。
06.03.26 NFC
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成瀬巳喜男 記憶の現場

2006-03-27 | その他映画
成瀬巳喜男 記憶の現場 ( 評価なし)


2005 アルボス、カラー、ビデオ
監督:石田朝也
インタビュー:司葉子、小林桂樹、草笛光子、淡島千景、石井輝男

成瀬監督の仕事に関する記録映画

成瀬映画の出演者、スタッフたちの思い出、色々なエピソードをインタビューを中心に構成した記録映画。

照明の石井長四郎さんについての思い出:石井さんは静かな人では無かったらしいけれど、成瀬組では静かにしていたとの事。たくさんライトを立てて上手な照明だったという話。照明にも技術があったんだ。どこに、どの程度、どの位の光を当てるかという事らしい。映画の映像が、そういった何種類もの光で構成されているのは、すごい事だ。照明を切るとかカットするとかいう専門用語が度々出てきます。光を当てるエリアを制御するってことのようです。映画って、技術のかたまりなんだと、つくづく思いました。

ライトがたくさん林立しているような所で撮影が行われます。カメラや音響関係の装置もあるので、撮影場所を変えるだけでも大変なんだと分かりました。俳優の視線だけで登場人物の動きを表現するという技が成瀬監督の特徴ですが、それによって色々の場所からの撮影が不要になるというのも、その技が使われる理由の1つなんだと思いました。

美術の中古智がすごいというのは聞いたり読んだりしていましたが、どこがすごいか良く分かっていませんでした。特にすごいというのが、ロケとセットの区別が付かないということで、その意味が映像的に理解できました。「流れる」の橋のシーンとかが出て来ますが、確かにすごすぎます。あと、部屋の中は部下にまかせて、自分は窓の外のセットを気にかけていたそうです。窓の外や屋外のセットは遠近感をちゃんと数値的に計算してミニチュアを作って表現していたそうで、そこにこだわりがあったようです。

草笛光子さんの話:放浪記の中で高峰さんにピンタをくれたシーンについて。あとで高峰さんのほっぺたが腫れてしまって氷で冷やしていて、草笛さんに「腫れちゃったわよー」と言った、というような話。成瀬監督に「思いっきりやっていいよ」と言われて、それで思いっきりやっちゃったらしいです。そのせいかどうか、放浪記のそのシーン前後は緊張度が高くピリピリしています。そもそも、この映画での草笛さんと高峰さんのピリピリ感はすごく高くて、それはこの映画の主題を表現する上で非常役立っていたと思います。この話はキネ旬2005年9月上旬号の高峰さんのインタビュー記事にもあったような気がします。
06.03.19 パルテノン多摩
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あらくれ

2006-03-26 | 成瀬映画
あらくれ  ☆☆
1957.05.22 東宝、白黒、普通サイズ
監督:成瀬巳喜男、脚本:水木洋子、原作:徳田秋聲
出演:高峰秀子、森雅之、加東大介、上原謙、三浦光子、仲代達矢

強い、早い、賢い、
あらくれの高峰秀子。いい調子です。

三人の名優の名前。森雅之、上原謙、
それに、その二人に挟まれた加東大介。
とうとう、主役級で高峰秀子と共演できます。
よかったね。
うれしかったね。
いつも、ふられてばかりの役だものね。

でも、高峰秀子はあらくれだから。
強いから。
殴られるし、叩かれるし、打たれるし、噛み付かれるし、
ものは投げられるし、ホースで水はぶっかけられるし、
蹴られるし。
痛い目に会いっぱなしでした。
やっぱ、いい事ないよね。
生キズ絶えないよ。
でも、良かった。

三浦光子もボコボコにされてました。可哀そうに。
だけど、
森雅之とは仲いいんだな。こっちは、くされえんですからね。
上原謙とは仲悪いけど、殴ったりしません。逆に、
蹴飛ばされて階段落ちてました。

すごい映画だ。
06.03.19 パルテノン多摩
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