二銭銅貨

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カルディヤック/新国立劇場オペラ研修所公演2013

2013-03-05 | オペラ
カルディヤック/新国立劇場オペラ研修所公演2013

作曲:パウル・ヒンデミット
演出:三浦安浩、指揮:高橋直史
演奏:トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ
出演:カルディヤック:近藤圭
   娘:今野沙知恵、士官:小堀勇介
   貴婦人:林よう子、騎士:菅野敦、金商人:大塚博章

不穏な色、不気味な影、つぶれた光、闇の人々、怪しい音楽。
血の色の黒、ドス黒い金。
白のドレス。純白。黒のマント。漆黒。
赤の犯罪。地獄の色。
鈍い光がうごめいて、鋭いナイフが光る。
人々の酷薄。人々の不幸。群集の残酷。
わけの分からない印象。わけの分からない物語。
わけの分からない音楽。わけの分からない演出。

カルディヤックの近藤はキリッとした歌で、シャープな感じの歌と芝居。娘の今野は、力いっぱいソプラノを歌って崩れない美しい声。士官の小堀は真面目なテノールの印象で、歌と芝居は情熱的だった。貴婦人の林は安定したソプラノで、強い歌声で情熱的。騎士の菅野も同様に強い歌声だった。金商人の大塚はどっしりとしたバスで安定感があった。

重唱ではカルディヤックと娘の2重唱、士官を含めた3重唱がオーケストラの演奏も含めて良いアンサンブルだった。また最後の宗教曲風の士官と娘の2重唱がとても美しく、透き通るような印象だった。2人ともめいっぱいに歌っているのに美しさが崩れない。

舞台は円形な回り舞台で、広場前の大階段のような部分、貴婦人の部屋、カルディヤックの部屋の3つに分かれている。各幕の最初に、舞台前面の半透明のスクリーンにCARDILLACの文字を写して、その映像が時々フラッシュするような、あるいはずれるような感じになっていて、古い映画のタイトル部分を思わせる。1幕目ではCARDILLACの各文字が動いてMを形作るようになる。フリッツ・ラングの「M」という映画をモチーフにしていたらしい。

演奏はメリハリがあってとても強く早い演奏だった。歌も合唱もそれに答えて強力なアンサンブルになった。エネルギー消費の激しい歌と演奏だったように思えた。合唱は栗友会合唱団。

芸術作品というものは鑑賞者に鑑賞してもらって成立するものである。作者が独占している間はまだ芸術としては存立していない。従って、芸術作品として生まれた直後からそれは作者の手を離れ、鑑賞者のものとなる。その内容は鑑賞者によって自由自在に改ざんされ変更される。新しい見方が誕生することもある。それが作者の喜びとなる変容であることもあり、また作者にとって残酷な変容になることもある。箱入り娘を嫁に出す親の気持ち。時として、それが無残だった場合、門外不出として大衆を排除したくなることもあるだろう。狂気に走れば、すべての鑑賞者、批評家を皆殺しにしたくなる時もあるかも知れない。作者と同時代の鑑賞者や批評家の厳しさは、芸術家のより良い作品を作る原動力になるけれども、一方でまた、その優しさも芸術活動を持続させる力となり得るものである。優しい気持ちで作品に接する鑑賞者が大部分だと思うけれども、それでも、無視されたり蔑まれた芸術家は、すさんだ気持ちになって死んだり狂気に走ったりするのかも知れない。

演出はややシュールな感じで分かりにくかったが、陰惨な雰囲気が良く出た演出だった。3人の透明な霊界からの人物を思わせるような黙役を研修所の歌手が演じていた。頭に布を巻いたような感じに作って、ダークな色彩の衣裳を付けて、ゆっくり動作する役。多分、カルディヤックをつかさどる超自然的な力を意味していたのだろう。

13.03.02 新国立劇場、中劇場
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こうもり/東京文化会館(二期会)2013

2013-03-04 | オペラ
こうもり/東京文化会館(二期会)2013

作曲:ヨハン・シュトラウス、演出:白井晃
指揮:大植英次、演奏:東京都交響楽団
出演:アイゼンシュタイン:萩原潤、ロザリンデ:腰越満美
   アデーレ:幸田浩子、ファルケ:大沼徹
   フランク:泉良平、オルロフスキー:林美智子
   アルフレード:樋口達哉、フロッシュ:櫻井章喜
   イダ:竹内そのか、ブリント:畠山茂

オーケストラピットが底上げされていて指揮者や楽団員が良く見える。舞台のセットも底上げされていて、舞台と楽団が同時に見えるようにしかけられていた。カーテンは左右に美しく装飾的に開けっ放しで、舞台とピットの間は半透明のスクリーンで遮蔽している。舞台は常にオープン。上演が終わると舞台の裏側も照明されて、舞台の天井や向こうの壁が良く見える、そちらにも合唱団に人が立って居た。カーテンコールでは合唱団が客席側に一時、移っていた。舞踏会の場面では指揮者が観客に手拍子を促す場面があって、それに答えて観客の手拍子が強く打ちならされた。全体に、オペラが舞台上の人達だけでなく、楽団、観客、スタッフ、劇場自体、全部が参加して構成されているという考えのようだった。全員参加のお祭りパーティ。カーテンコールでの拍手は、最後には強力な手拍子になって、多くの観客がこの大パーティを楽しんだようだった。

セットは、大きな長方形の枠を作って、その枠内でほとんどの劇が進行するようになっていた。この枠が映画やTVのフレームのようにも漫画のコマのようにも見える。衣裳や美術は太めの線を強調した、ややアールデコっぽい感じの漫画のようなデザインだった。楽しく明るいデザイン。枠の色や照明、美術の色合いは1幕目が黄色か茶系統で落ち着いた柔らかな色合い。ホームを表すものだろうか。2幕目は最初がチャールダーシュの赤。これが舞踏会への場面転換では枠ごと横にシフトしていって下手から表れる青枠の舞台に変わる。この舞踏会の枠は水色または青の世界。最後の色は刑務所の灰。

イカれたイタリア人の樋口は、ずーと歌いっぱなし。セリフもすべてイタリアの歌曲風。舞台への登場も客席側からで、序曲演奏後にブラボーを大声でわめきながらの出現。指揮者に大拍手を送って大騒ぎ。面白いキャラクターで、アドリブっぽい芝居もうまい。ロザリンデの腰越は美しく強力なチャールダーシュがその衣裳の真っ赤と舞台の赤に良くアンサンブルしていた。強く良く伸びて美しいソプラノ。アデーレの幸田は可愛らしく美しく甘いワルツの歌声で劇場を満たして、コロラトゥーラもコロコロと美しく響いた。アイゼンシュタインの萩原はここぞとばかりに右往左往の大活躍でコミカルな芝居を次々と繰り出す。ファルケの大沼は覚めた感じのとぼけた芝居で声は重い感じのバリトン。オルロフスキーの林は宝塚の男性役を思わせる芝居で、カイゼルひげに白い衣裳がよく似合う。ちょっとカッコ良くてちょっと楽しい。セリフの時の声は低め。歌の時は高いので、若干その落差に最初のうちは違和感があった。

序曲は強力で迫力があり、また優しく優雅でもあった。いい序曲で楽しく美しかった。指揮者の大植は大活躍。踊りまくり。

歌詞も日本語上演。歌詞の訳は中山禎一、セリフは白井晃。「雷鳴と電光」は無かったらしい。

13.02.23 東京文化会館
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