二銭銅貨

星の数: ☆良い ☆☆すごく良い ☆☆☆激しく良い ☆☆☆☆超激しく良い ☆☆☆☆☆ありえない

赤ひげ

2010-07-24 | 邦画
赤ひげ ☆☆☆
1965.04.03 東宝、黒澤プロダクション、白黒、横長サイズ
監督:黒澤明、脚本:井手雅人、小国英雄、菊島隆三
原作:山本周五郎
出演:三船敏郎、加山雄三、香川京子、根岸明美、二木てるみ

細長い大きな画面、
板の間と板の壁。
重厚な美術の
右隅に、スッと立つ香川香子、
加山雄三は左隅、
その女を見つめて座る。
香川香子のおびえた瞳は純情そうにその男を見据え、
喰い入るように、
引きずり込むように、
眼に光をあふれさす。
ぎらぎらと光るまなこ。
そのまなこには、その光には、
確かに狂気が宿り、
その男を喰い殺そうとしている。
たとえ狂女だとしても、
そんなおびえた純情の立ち姿には、
どんな男も溶かされてしまう。

間歇的な短い音楽の響きに合わせて、
この2人の男女は間歇的に、にじり寄る。
束の間の恋愛は、
恐怖なのか歓喜なのか。
かまきりに喰われてしまいたいと思った刹那に、
加山雄三は一時的に気を失っていたようだ。

長い根岸明美の独白場面。
絶望と孤独。
不信と不安。
恐怖。
長い長い地獄。
悲しみと怒りがいちどきに、洪水のように、
はらわたから強くあふれ出て来る。
眼の光は強烈で、
観客を捉えて離さない。
前かがみに座り、
すべてを吐き出す。
人類の総ての憎悪を吐き出すような、
長い独白。

杉村春子の所から救い出された二木てるみ。
眼の位置に小さくスポットライトがあたり、
その恐怖と憎悪をピンポイントで映し出す。
小さく小刻みな呼吸は、
野良犬のそれで、
人に育てられていない、
野犬、狼の表情が強烈だ。
額の上のにきびの群れが何かの、
野性の印であるかのようで、
瞳の強烈な光は観客に挑みかかるかのようだ。

こんな子供を作る杉村春子の強烈な、
しごき抜くような芝居も刺激的だ。

保本と狂女の両者の接触までは長いワンショット。その他、根岸明美の独白場面など、長いワンショットが多い。

気迫と沈着を見せる三船、若さあふれて意気軒昂な加山の2人も含めて、良い芝居が多い。良い芝居の見本市だ。艶やかで儚い恋愛を淡く、強く見せる桑野みゆきと山崎努の橋の袂の別れのシーンは印象的だ。二木てるみの相手役の調子のいいガキの頭師佳孝もうまい。後の「どですかでん」の主役の子だ。杉村春子は強烈。田中絹代は落ち着いたどこにでも居そうな年寄りの母さん。藤原釜足は死の床の爺さんで、メークがいつもと違うので、これが藤原釜足だとは分からなかった。団令子も細身の娘で狂女の世話をする役だけれども、いつもと違う日本髪なのでそれと分からなかった。加山の相手役が内藤洋子で、奥ゆかしい娘。左卜全はいつも通りで病人役、東野英治郎は長屋のリーダー役、三井弘次は死にそうな山崎努を実は気遣っている酔っ払い、志村喬は両替商の旦那、笠智衆は内藤洋子の父親の医者、柳永二郎は狂女の父親、西村晃は美食家で病気の殿様の家老役。いい俳優、女優がチョイ役でゾロゾロ出て来る。

10.07.17 新文芸座 以前にVTRで1回
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

飢餓海峡

2010-07-20 | 邦画
飢餓海峡 ☆☆☆☆
1965.01.15 東映、白黒、横長サイズ
監督:内田吐夢、脚本:鈴木尚也、原作:水上勉
出演:左幸子、伴淳三郎、三国連太郎、高倉健

長い長い白く泡立つ航跡に、
小さな粟粒は静かに、
ゆっくりと、ゆっくりと、
少しずつ、少しずつ、
その姿を消して行く。
大空にはカモメが何羽か、
世の無常の何なのかを、
知ってか、知らずか、
忙しそうに立ち回り、飛び回り、
その海面の下には、
犬飼多吉の無念が、悔しさが、
犬飼多吉と一緒に、
ゆっくりと静かに沈んで行く。
かすかに微笑む、
杉戸やえに投げられた花束と、
一緒に沈んで行けるのは、
せめてもの、はなむけ。
この変則的な心中へのはなむけなのだろう。
航跡の泡たちも、
空のカモメたちも、
この2人を優しく包み込んでいるように見える。
それにあの弓坂刑事の執念も、
同じように、
この2人を優しく包み込んでいるように見える。

今回の公演に関連して開催される内田有作氏のトークイベントに関する紹介の中で、そのトークイベントで本作の短縮事件の真相について語られるというコメントがあった。短縮事件とは興行上の理由から東映が本作の167分の短縮版を上映し、それに反発した内田監督が東映を退社した事件のこと。ウェッブで調べて見ると、今回の上映も含めて現在一般に見られる完成版は183分、当初、予定されていた最初の版は192分だったらしい。これも公開当時4館で上映されたようだ。内田有作氏は監督次男で本作の進行主任。

10.07.10 銀座シネパトス 06にVTR,それ以前にTVで1~2回
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

椿姫/新国立劇場バレエ09-10

2010-07-19 | バレエ
椿姫/新国立劇場バレエ09-10

振付:牧阿佐美、指揮:エルマノ・フローリオ
曲:エクトール・ベルリオーズ、編曲:エルマノ・フローリオ
演奏:東京フィル
出演:マルグリッド:堀口純、アルマン:山本孝之
   デュバル卿(アルマンの父):森田健太郎、伯爵:輪島拓也
   プリュダンス:厚木三杏、ガストン:冨川祐樹

役名は原作通りだがストーリーはヴェルディの椿姫を踏襲したものだった。オペラを知っていると分かりやすい構成だった。

1幕目と2幕目の冒頭の群舞が印象的。とりどりの渋い色合いの豪華な舞踏会衣装の女性達がリフトでスーッと上にあがり、フワーっと広がるスカートの広がりのユニゾンが良く合っていて、空間的な拡がりを感じる大きな舞踏だった。舞踏会の楽しさ、ワクワクが良く表現されている。

2幕目の舞踏会でのジプシーの踊りの女性側は寺島ひろみでキビキビとした印象。4人の女性が踊るチャルダッシュも元気の良いバリエーションに富んだ踊り。2人の女性と1の男性の組で踊るタランテラも明るく元気良く楽しかった。

舞台装置は控えめだけれども衣装が楽しく、また、照明による情景描写、心理描写は適切に良く出来ていてこれも楽しかった。

主役の堀口純は真面目に一所懸命な感じ、山本孝之は活発で元気良かった。

演出はオペラでの演出を参考にしている故か、安定感があって手堅い感じだった。もの珍しさは無いけれども落ち着いていて良い。

メヌエットという踊りもあって、これやチャルダッシュ、タランテラは踊曲の名称。

10.07.04 新国立劇場
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オルエットの方へ

2010-07-18 | 洋画
オルエットの方へ ☆☆
Du Cote d'Orouet
1970 フランス、カラー、横長サイズ
監督・脚本:ジャック・ロジエ
出演:ジルベール:ベルナール・メネズ
   ジョエル:ダニエル・クロワジ
   カリーン:フランソワーズ・ゲガン
   キャロリーヌ:キャロリーヌ・カルティエ

青い海と青い空、
光の熱さと水の輝き
水着のパステルカラーと、
娘たちの歓声。
ジリジリする日差し、
肌に粘りつく砂、
波。風。
恋愛、
そよ風、
夕闇。

夏のバカンスがこんなだったら楽しいだろうし、
一生忘れられないだろう。
若いうちだけだし、
それは一瞬のことだから、
フィルムに
焼き付けておきたいのだろう。

若い時の夏の日差しの暑さは一生の思い出だ。

ダニエル・クロワジはオフィスで仕事をしている女性で、上司がベルナール・メネズ、フランソワーズ・ゲガンはヨット上手に気に入れられる女性で、キャロリーヌ・カルティエは最後までジョエルと一緒にいた女性。

実際にロケ中の音を拾っていたようで、背景音楽や効果音の代わりに生活音を使っているようだった。音が大きすぎて結構疲れた。

10.06.27 川崎アートセンター
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

メーヌ・オセアン

2010-07-17 | 洋画
メーヌ・オセアン ☆☆
Maine Ocean
1985 フランス、カラー、横長サイズ
監督・脚本:ジャック・ロジエ、脚本:リディア・フェルド
出演:検札長:ベルナール・メネズ、リュシアン:ルイス・レゴ
   プチガ:イヴ・アフォンゾ、女弁護士:リディア・フェルド
   デジャニラ:ロザ・マリア・ゴメス

大きく広がる空、
無限に続く泥んこの河原、
泥の波目模様、
頑張りの足あとを残して、
一所懸命に歩く検札長。
誰も居ない殺風景な中を1人歩く姿は普通では無い。
軌道の上を規則正しく往復している、車両の中のいつもの姿では無い。
その姿がムチャクチャだとしても、
それは自由の姿だ。

サンバのリズムに乗ったムチャクチャな話だけれども、
この映画の底流にはフランス固有の自由への主張、
連帯への呼びかけが感じられる。

実際にロケ中の音を拾っていたようで、背景音楽や効果音の代わりに生活音を使っているようだった。音が大きすぎて結構疲れた。

女弁護士のリディア・フェルドは脚本を担当している。

10.06.27 川崎アートセンター
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする