二銭銅貨

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ピーア・デ・トロメイ/昭和音大10

2010-10-18 | オペラ
ピーア・デ・トロメイ/昭和音大10

作曲:ドニゼッティ、演出:マルコ・ガンディーニ
指揮:松下京介、演奏:昭和音楽大学管弦楽団
出演:ピーア:庄司奈穂子、ネッロ(夫):水野洋助
   ギーノ(ネッロのいとこ):駿河大人、
   ロドリーゴ(ピーアの弟):山智世

薄い金属性の網目からなる鉄板状の板を幾枚も並べて吊るした壁、1本の柱、薄いカーテン、ごつごつした切り石を並べたような表面の床などからなる簡素な舞台美術であったが、これらを細かく移動して、また照明の変化を付けることで、様々な局面を効果的に上手に表現していた。飽きない舞台だった。衣装はクラシカルなもので、本物っぽく良くできていた。コンテンポラリな美術と良く合っていて違和感が無かった。色合いは薄茶からオレンジ系統のものと、グレー系統のものに統一されていて、落ち着いた感じであった。演出は凝ったものではなく、アリア中心の素朴なスタイルのものだった。大学オペラなので、あまり凝った芝居にはしなかったのだろう。

駿河大人は声が良く響くテノールでベルカントっぽくて良かった。タイトル・ロールの庄司奈穂子は強いソプラノで尻上がりに透明度が上がって、徐々に調子が上がっていったようだった。水野洋助は安定した強いバリトン。山智世はコントラルトあるいはメゾで強い歌唱であったが、芝居や歌唱が女性的でズボン役の雰囲気はあまり出ていなかった。

会場がそれ程大きくは無い故か、声が良く通ってそれぞれの歌手の声量はあるように感じた。合唱は人数が多くて強力。男声も女性も優しい感じのハーモニーで良くそろっていた。最後の男声には迫力も感じられた。アリア主体のベルカントオペラで演出も素朴、美術も簡素だったのに退屈しなかった。スタッフやキャストに強い熱意があったからかもしれない。

ピーアの死に際して、最後にロドリゴが剣を両手で捧げて地面に置く演出が素晴らしいと思った。定番の演出かも知れないけれども、演出者の反戦の気持ち、ピーアの反戦の気持ちが良く出ていた。この場面ではロドリゴの雰囲気が女性的なのがかえって効果的だった。

3年前の昭和音大での公演が日本初演らしい。ピーアの薄幸と強い反戦気分とを重ね合わせれば、現代的な良いオペラになるのではないかと思った。

10.10.10 テアトロ・ジーリオ・ショウワ
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アラベッラ/新国立劇場10-11

2010-10-17 | オペラ
アラベッラ/新国立劇場10-11

別の表記:アラベラ
作曲:R.シュトラウス、演出:フィリップ・アルロー
指揮:ウルフ・シルマー、演奏:東京フィル
出演:アラベッラ:ミヒャエラ・カウネ
   ズデンカ:アグネーテ・ムンク・ラスムッセン 
   マンドリカ:トーマス・ヨハネス・マイヤー
   マッテオ:オリヴァー・リンゲルハーン
   父:妻屋秀和、母:竹本節子

舞台に輝く青の光。濃い青の光が柱や壁の白を妖しく照らす。理性の色。舞台装置のチリひとつ無いクリーンな印象は純白、清廉潔白の色。濃い赤は恋、熱い恋の薔薇の色。すべてはアラベッラとズデンカの色。

緩やかな曲線を主体とした美術はくっきりと純粋で気持ちよく、印象に残る照明とあいまって、シュトラウスの音楽と良いアンサンブルであった。

シュトラウスの音楽を聞いていると、オーケストラ・ピットが臓腑、舞台が精神を表しているように思える。あるいは前者が潜在意識、後者が顕在意識を表しているかのように感じる。歌が登場人物の気持ち、演奏が潜在的な心理模様。オペラ全体が心理描写で、歌と演奏で心を二通りに塗り分けて、そしてそのアンサブルで人間達の心理を描いている。

衣装は森英恵でどちらかというとシブめのクラシカルなしっかりとした感じのものだった。アラベッラの青のドレスは華やか。後ろの腰につけた大きなピンクの花が帯の結び目のようで愛らしい。一方のズデンカは白の質素なナイトウエアで素朴で可憐。美しい。アラベッラの青のドレスに良く映える。

アラベッラのカウネは濃い感じの強いソプラノ、ズデンカのラスムッセンは美しく純潔な印象のソプラノ。最初の二重唱が良い。トーマスはドスのきいたバリトン、リンゲルハーンはおとなしい感じのテノール。

天羽明恵は赤白の縦縞を貴重としたピエロっぽい衣装で、落ち着いた美術・衣装の中での紅一点、メリハリのある衣装で過激。歌も短いながら高音だらけ、芝居も動きまくりで滑稽なもの、やりすぎてはいけないし結構難しい役だったが頑張っていて良かった。

父役の妻屋は滑稽さのいる重要な役。こちらも頑張っていた。ちょっと仁ではない所を、芝居も歌も主役にひけをとらぬようしっかりやっていた。母役の竹本は安定した良いメゾで自信たっぷな感じの歌と芝居だった。この父母役は良かったと思う。

ズデンカちゃんが可愛らしく面白い。楽しいオペラだ。

10.10.08 新国立劇場
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10地方公演10月/仮名手本忠臣蔵、釣女/文楽

2010-10-16 | 歌舞伎・文楽
10地方公演10月/仮名手本忠臣蔵、釣女/文楽

昼の部

開演前の解説:幸助

仮名手本忠臣蔵
5段目(二つ玉の段)
6段目(身売りの段、早野勘平腹切の段)

「与市兵衛が女房」を遣う勘壽のばあさんが良い。勘平の髻(もとどり:髪を頭上で束ねたところ、たぶさ)を掴んで、ぐいと引き寄せ小判の包みをもって頭を打擲(ちょうちゃく)する。容赦が無く涙ぐましい。じっとそれをこらえて耐える勘平は、顔色が無い。婆さんのかなきり声が場内を切り裂く。

それにしても慌てものの婆さん、もうちょっと落ち着けと言いたくなる。早まったり早野勘平ではなくて、早まったり与市兵衛が女房と言うところ。でも、このシチュエーションで早まるなという方が無理かも知れない。とにかくこの婆さんが劇中で一番可哀相な役回りだ。怒りの涙、悲しみの涙、どんだけ涙があっても足りない役だ。

勘平が玉女。いくぶん猫背で、うつむき加減なのが玉女の人形の特徴だが、こうした悩める男子役は良く合っている。じっと静止して動かず、状況の厳しさにじっと耐えている様子は、まじめで必死な勘平が良く表れている。凛々しかった。

玉佳の一文字屋才兵衛も憎たらしいところをちょっと出して、きりきりとした活気があり、愉快で良かった。途中、玉佳が舞台下駄を踏みはずしたらしい部分があったが大過はなかった。

最後の段は清治の三味線。強くはぎれが良く、美しい。気持ちが良い。

釣女(つりおんな)

勘十郎の醜女(しこめ)がめっぽう元気が良くて快活。かわいらしいおかめだった。一方の太郎冠者が清十郎で、こちらもコミカルな動きを活発にして遣っていた。遣い手が清十郎なので、まじめコミカルといった感じだったけれども、勘十郎と清十郎の格闘は良いアンサブルで楽しかった。殿様が幸助、美女が一輔。

国立劇場と違って、幾分ざわついた会場だったけれども、それなりに素朴な観客の気分が楽しかった。

10.10.02 相模原市民会館
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セビリアの理髪師/1972映画

2010-10-03 | オペラ
セビリアの理髪師/1972映画
1972 ドイツ
作曲:ロッシーニ、演出:ジャン・ピエール・ポネル
指揮:クラウディオ・アバド
出演:伯爵:ルイジ・アルバ、ロッジーナ:テレサ・ベルガンサ
   フィガロ:ヘルマン・プライ、バルトロ:エンツォ・ダーラ
   バジーリオ:パオロ・モンタルソロ

青い薄いドレスのようなナイトウェアのテレサ・ベルガンサの、深い美しい強いメゾ。アリアの una voce poco fa はベッドの上で枕に抱きついているところから始まる。強くて透明感のある歌と演出。ヘルマン・プライのフィガロは深くて大きい。ワーグナーとロッシーニが混じったような印象。ルイジ・アルバのリンドーロは優しくて美しい。バルトロ役やバジーリオ役も含めて、みんなロッシーニの高速なメロディー、装飾の歌い方が上手だった。

10.09.25 銀座ブロッサムホール(東京楽画会)
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