二銭銅貨

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魔弾の射手/東京文化会館(二期会)2018

2018-07-28 | オペラ
魔弾の射手/東京文化会館(二期会)2018

作曲:ウェーバー 、指揮:アレホ・ペレス
演出:ペーター・コンヴィチュニー
美術、衣裳:ガブリエーレ・ケルブル
演奏: 読売日本交響楽団
出演:
マックス:小貫岩夫、カスパール:加藤宏隆
アガーテ:北村さおり、エンヒェン:熊田アルベルト彩乃
オットカール侯爵:藪内俊弥、クーノー:伊藤純
隠者:小鉄和広、キリアン:杉浦隆大
ザミエル:大和悠河、ナオミ・ザイラー(ヴィオラの場面)

ウェーバーはモーツアルトが亡くなった時5歳くらいで、モーツァルトの妻のコンスタンツェのいとこ。彼の音楽はワーグナーとモーツアルトの間に位置する音楽と言われている。モーツァルトの音楽にはあまり感じられないけれど、ウェーバーやワーグナーにはヨーロッパ中央の森林や山岳の音楽が感じられる。南欧とは違う音楽だ。

青い空と白い雲、冠雪した山岳、まっすぐに伸びた針葉樹の深い緑、光と影、闇と光明。雨、風、暴風、雷鳴、嵐。厳しく変化にとんだ自然が音楽になっている。

演奏は美しく、特に木管と弦楽器はウェーバーの旋律を歌う歌手たちの声によく合わさって、しっくりとしていた。元気良い演奏の金管は多用されていて、角笛や動物の声を表現しているように感じた。美しい。

演出は禁じ手満載の破壊的な雰囲気のもの。前半は天井にひしゃげた四角形の大きな穴があいている暗めの部屋で、この天井が魔弾をつくる場面では大きく縦方向に回転する。魔弾を作る場面ではそこにTVとか機械仕掛けのフクロウとかが置かれ、前面には牢屋のような格子が置かれる。魔弾の製作個数に合わせて、おどろおどしさが徐々に激しくなっていく。クライマックスではいろいろ爆発して、最後に客席にまぶしい照明が当てられる。スゲー。

アガーテとエンヒェンの重唱がすごく良かった。アンサンブルが美しくうっとりする。感極まった下手最前列のおじさんがブラボーの大拍手。つられて会場の観客も大拍手。おじさんはさらに白いバラの花束を舞台に投げ入れた。このおじさん、実は隠者役の小鉄さん。

後半のセットは縦に長い何もない空間で、奥行方向と両サイドに壁がある。後半冒頭のアガーテのアリアの前半部分は後ろ向きで歌われる。後ろ向きだと音量がだいぶ小さくなるのが普通だけれど、アガーテの真ん前に高さ2mほどのついたてが設置されていたせいなのか、特に音が小さくなったとは感じなかった。

最後の合唱では隠者が何か金色の名刺かカードを全員に渡し、その後全員ひざまづいてそのカードを客席に向かって掲げる構成だった。ちょうど神に感謝するような場面だったので、あたかもそれは歌謡曲じゃあないけれど、「お客様は神様だ」の雰囲気になっていた。

舞台の最後はマックスがアガーテと結ばれるのではなく、マックスはだれか赤いドレスの女といい仲になっていた。えー...。どういうこと?これだと、このままカバレリア・ルスティカーナのようなドロドロのオペラが続いてしまうぞ。

小貫は端正な声と芝居。加藤はきりっとキレの良い強いバリトン。北村は美しい声の透き通った感じのソプラノ。熊田はメゾっぽい低い音が目立つソプラノ。強い声と迫力で劇場全体に声が満ちていた。いいソプラノ。伊藤は余裕のバスで落ち着いた芝居もよかった。芝居全体に安定感をもたらしていた。小鉄もどっしりとしたバスで安定しているが、こちらは迫力のある声と喰えない芝居が特徴。

歌唱無しのザミエル役を宝塚男役出身の大和が演じた。一部、ビオラでエンヒェンと重奏する場面をザイラーが演じた。全体にマイム主体でセリフは少ないが、かなり頻繁に衣裳を変えて出て来るのでほとんど出ずっぱりの印象。堂々とした芝居とマイムで目立っていた。宝塚ファンらしき強力な声援もあって、おそらくはオペラ全体が宝塚っぽい雰囲気に包まれていたのではないかと思う。

1999年、ハンブルク州立歌劇場のプロダクション

18.07.22 東京文化会館
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2つのロメオとジュリエット/新国立劇場オペラ研修所試演会2018

2018-07-21 | オペラ
2つのロメオとジュリエット/新国立劇場オペラ研修所試演会2018

グノー、「ロメオとジュリエット」抜粋
ベッリーニ、「カプレーティ家とモンテッキ家」抜粋

指揮:河原忠之、演出:粟國淳
ピアノ:石野真穂、岩渕慶子、髙田絢子、原田園美

ロメオとジュリエット:
ロメオ:増田貴寛、ジュリエット:斉藤真歩
ティバルト:水野優、ローランス神父:伊良波良真
メルキューシオ:野町知弘、ステファノ:竹村真実
ジェルトリュード:藤井麻美、パリス:仲田尋一
グレゴーリオ:井上大聞

カプレーティ家とモンテッキ家:
ロメーオ:一條翠葉、ジュリエッタ:和田悠花
テバルド:水野優、ロレンツォ:伊良波良真
カペッリオ:仲田尋一

かなり濃く暗めの色調の迷彩っぽい模様の板塀と、同じ模様の四角い門柱2個からなるセットで質素。最近見たオペラでは、このような塀や壁が良く登場するような気がする。分断、格差、対立、ポピュリズムが吹き荒れる国際情勢を反映しているのかもしれない。ロミオとジュリエッタの話もまさに分断、対立、抗争、ポピュリズムの悲劇にほかならない。

2つのオペラのラストはほとんど同じように構成されていた。2人は死の前に合うことができて、ジュリエッタが後を追う。今回の抜粋版では両方ともここで終わった。なお、カプレーティとモンテッキの抜粋でないバージョンでは最後に両家の和解の場面がある。グノーの方は死ぬ所で終わりだったように思う。シェイクスピアの戯曲では別々に死んで最期は会えなかったと思う。最期のセリフが「O, happy dagger, This is thy sheath. There rust, and let me die」。sheathは鞘。There rustは錆びた短剣。このセリフはオペラにはしにくそう。舞台劇とオペラの違いが感じられる名セリフ。シェークスピアでは、その後が両家の後悔と反省になっていて、ゼフィレッリの映画版ではそこが葬列の場面になっていた。バレエではジュリエッタは美しく死んでいく。

イタリア語ではジュリエッタ、英語ではジュリエット、仏語はジュリッテらしい。ロミオも各国でイントネーションが違うようだ。

登場人物が多く歌手全員の特徴は覚えていない。藤井麻美は低い声が安定しているメゾ。一條翠葉も低い声が安定していてタイトで迫力がある。和田悠花は真面目で一途な感じのソプラノで声がピュアで美しい。声量もあった。斉藤真歩は強いソプラノ。増田貴寛は声量があるテノール。全員声量があって、小劇場では響きすぎるぐらいに感じた。

ピアノはそれぞれのオペラに2人づつ。前半は迫力のある演奏。後半は美しく高速に展開していく演奏で、それぞれに曲の持ち味が違った。


18.07.01 新国立劇場、小劇場
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