二銭銅貨

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09歌舞伎座3月/元禄忠臣蔵/歌舞伎

2009-03-31 | 歌舞伎・文楽
09歌舞伎座3月/元禄忠臣蔵/歌舞伎

元禄忠臣蔵(げんろくちゅうしんぐら)

昼の部
江戸城の刃傷(えどじょうのにんじょう)
出演:梅玉、
最後の大評定(さいごのだいひょうじょう)
出演:幸四郎、
御浜御殿綱豊卿(おはまごてんつなとよきょう)
出演:仁左衛門、染五郎

夜の部
南部坂雪の別れ(なんぶざかゆきのわかれ)
出演:團十郎、芝翫
仙石屋敷(せんごくやしき)
出演:仁左衛門、梅玉
大石最後の一日(おおいしさいごのいちにち)
出演:幸四郎、福助、染五郎、歌六

かたい出し物のわりには客が良く入っている。出演の俳優が良い故か、それともこの演目の人気からなのか。仁左衛門と幸四郎の内蔵助は似た感じでともに重々しく深刻な印象。團十郎のは独特の雰囲気でちょっと場の緊迫感とは距離のある感覚で、慌てず騒がずどっしりと大きく出ている印象。御浜御殿綱豊卿の仁左衛門は大人物風にカラカラと良く笑い、おおぶりな芝居。対する染五郎は一所懸命な若いアグレッシブさが良く現れた芝居だった。

仙石屋敷の梅玉は47志のメンバーから、討ち入りの様子をフンフンと熱心に聞きだす役。その熱心さから、討ち入りの忠義に感じっている感動が良く伝わる。

大石最後の一日のおみのは福助で、この男装の女性役をボーイッシュに強い調子のトーンで、すっきりと見せた。この場面の歌六に情があって良い。おみのに対する思いやりの強い気持ちが良く見える。

09.03.15 歌舞伎座
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蝶々夫人/MET08-09舞台撮影

2009-03-30 | オペラ
蝶々夫人/MET08-09舞台撮影

作曲:プッチーニ、演出:アンソニー・ミンゲラ
指揮:パトリック・サマーズ
出演:パトリシア・ラセット、マリア・ジフチャック
   マルチェッロ・ジョルダーニ、ドゥウェイン・クロフト

クリスティーナ・ガリャルド=ドマスが体調不良のため、パトリシア・ラセットが代役。

ちょうど映画のワイドスクリーンと同じ程度の縦横比の長方形が背景にあって、その周囲は総て黒である。この長方形の色が場によって様々に変わる。美しい透明感のある色彩がその場その場の心象風景を印象付けている。上に鏡があったらしく俯瞰的なシーンも見ることができたらしい。

出だしは無音で場内の咳払いのみが聞こえるような状況の中を日本舞踊をモチーフにした二枚の扇子を使うゆっくりとした舞踊をアジア系の女性が踊る。ちょっと紅葉狩りの更科姫ような雰囲気。この踊りの最後に長い布が踊り手の腰に巻かれて、それが左右に2本づつ伸ばされ、背景の長方形一杯一杯にまで伸びる。非常にすっきりとしたシャープな表現で、コンテンポラリで無駄の無いオレンジ色のシーンだ。この冒頭のシーンと最後の場面のシーンが対照している。白無垢の蝶々さんの衣装の真っ赤な長い帯が、横に長く長く伸ばされて、背景の長方形を斜めに切るように配置されて床に置かれる。彼女の純真な、真っ赤な血の色だ。

動的な美術が印象的だった。1幕目後半の暗闇の中に現れる12個の白い提灯はまん丸で、不規則な曲線の骨で作られている。これを黒子たちが持って動かす。蝶々さんとピンカートンの気持ちの動き、情動をダイナミックにこの白い球の群舞で表現していた。動きがダイナミックで3DCGのようだった。

その他、折り紙っぽい鳥の群れの表現や、3幕目前の赤い縦長の提灯の群舞とそれを背景にした人形の少女と米国海軍士官のダンスなど、ダイナミックな背景構成の美術は、物語の主人公の内面的な感情の大きなうねりを良く表現していた。インタビューの中でスズキをやったマリア・ジフチャックが、「演出のアンソニー・ミンゲラが映画のスクリーンの枠に相当するエリアからはみ出ないように演技指導していた」と語っていたが、このダイナミックな背景の演出は、十分にその枠をはみ出していたように感じた。ミンゲラの指示は演劇対象を映像的な枠内に収めることを意図したものであろうけれども、良い演出であれば、撮影対象が映像的な枠内に収まっていたとしても、表現は枠内に留まらず枠外にまであふれ出るものなのだと感じた。

スズキの芝居は安定感がある。その濃い紺色の衣装の白の絞りの模様と袖口の落ち着いた黄緑が印象的で、この物語と蝶々さんを最後までしっかり支えていたように思う。表情に優しい情感があり、とても良かった。

ピンカートンは損な役だがマルチェッロ・ジョルダーニは誠実にまじめに取り組んでいたと思う。最大のできる限りの思いやりを表現していたと思う。この役は難しい。悪役のようで善良であり、善良のようでいて不良でもある。微妙なバランスを維持しようとしていたようだ。

ドゥウェイン・クロフトの領事役は安定した芝居のバリトンで、優しさや正義感、蝶々さんへの思いやりの深さを良く表現していた。

パトリシア・ラセットの蝶々さんはパワーにあふれ、情感豊か。それでいてつつましい元武家の娘の気概と精神を良く出していた。最後の決然たる表情には、本当のサムライの心が背景にあるかのようで、その手に持つ短剣の切っ先にそれを感じた。

親戚の坊さんのボンゾは弁慶風、金持ちのヤマドリは時代ものの荒事の若サムライ風のようないでたちで、歌舞伎の要素が取り入れられている。人形も出てきて文楽の要素も入っている。幾枚もあって良く動く黒い枠の大きな障子戸や扇子など日本の美術や古典芸能の要素を取り入れて、また美術を担当した中国人の中国的な感覚も入って、もともとの西洋的な土台の上にそうした異国情緒が組み合わって、国籍不明のインターナショナルな新しい表現ができていたように思う。

全体に日本の文化や美術をモチーフにしていながら、大きくモディファイされてインターナショナルな仕上がりになっているこの歌劇を見ると、新しい世界へ旅立つ日本の文化の将来への期待と、そして取り残される古い日本の伝統への侘しさの、相反する2つの思いが湧き起こる。

劇中の蝶々さんの子供は人形で、3人の黒子が遣う。左手と頭、右手と胴、それに足を遣う3人遣いだ。文楽風のやり方のようで、Blind Summit THEATREという団体らしい。文楽で現代劇はできないと言うけれど、こういう風にやればできるし、人と人形の共演の可能性もあると思った。

子供の表情が良く出ている。この子に対する蝶々さんの気持ちも良く出ている。頭も良い。頭の表情に複数の思いを感じることができる。最後の子別れの場はこの子がキーになるし、重要な役だ。この物語には、単なる恋愛悲劇だけでなく、母と子の別れの悲哀も痛切に織り込まれている。浄瑠璃の定番とも言える子別れのテーマがプッチーニの描いた日本の物語の中に組み込まれているのは、この歌劇の1つの日本的な特徴だと思った。

パトリシア・ラセットは武士の娘として決然たる思いで剣を取り、自害して果て、赤い血の色に、蝶々さんの気持ちを鮮烈に残し、そしてこの物語が終わります。

09.03.28 東劇
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ランメルモールのルチア/MET08-09舞台撮影

2009-03-12 | オペラ
ランメルモールのルチア/MET08-09舞台撮影

作曲:ドニゼッティ、演出:メアリー・ジマーマン
指揮:マルコ・アルミリアート
出演:アンナ・ネトレプコ、ピョートル・ベチャワ
 マリウーシュ・クヴィエチェン、イルダール・アブドラザコフ

ヴィラゾンが不調のため、ベチャワが代役。

最後まで、ずーっと迫力のある音楽が続いていて、ゆっくりした所がないのは登場人物の1人であるルチアの兄さんの性格なのか、それともドニゼッティの性格なのだろうか。ずっと緊張しっぱなしの感じで、くたびれた。

でも、1幕目終わり頃のルチアとエドガルドのワルツ風の歌曲はゆったりしていて良い。濃い暗い青みがかった暗闇から、ややセピアっぽい夜明け前を思わせる優しい照明に変わっている。ここが唯一、柔らかで愛らしいパートだと思った。

兄さん役のマリウーシュ・クヴィエチェンはマジで怖い。この兄とルチアの2幕目の兄弟げんかが面白い。ドスの効いた声で、ほえあっている。歌と言うよりおどし合い。迫力がある。兄と妹の喧嘩っていうのは、こういう風だ。上が兄の場合の妹ってのが強くなるのが分かる。ルチアの性格の強さが感じられる。

インタビューで、去年これをやったらしいインタビューワーのデセイも、ネトレプコも、確か、この2幕目が好きだと言っていた。2人とも気が強いんだろうな。

2幕目のラストのルチアは真っ赤な衣装。他の群集はねずみ色系統の色合いで、ルチアが1人だけ目だっている。そのルチアが、幕がサッと落ちる時に1人だけ幕のこちら側に残されて、それでサーッと照明が落ちる。ルチアの孤独感、焦燥感。

3幕目の狂乱の場はルチアの独壇場。狂気の表現。フルートとの二重奏が印象的で、なかなか、これを合わせるは難しそうだと思った。

最後はエドガルドのベチャワがアリアを熱唱しながらこと切れる。幽霊になったネトレプコの手を握り締めながら。

もっとも幽霊になったネトレプコは、ベチャワが剣を腹にあてがってためらっているのを、その剣の握りの先に手をやってグイと押していた。幽霊になっても気の強さが出ている。

1幕目の途中でハープの演奏があり、東洋系の女性の奏者のクローズアップがあった。日本人のハープ奏者で安楽真理子という人がMETに所属しているらしいのでその人かも知れない。

重厚で深みのある美術、落ち着いた色合いの照明が良い。ちょっとお茶目な所もあるが演出も良かった。3幕目の狂乱の場の後に出て来る大きな月は実物の模写のようなデザインで、何か地上でのこの茶番劇をねめつけているようにも感じた。

それにしてもルチアは本当に可哀相だ。

09.03.06 東劇
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沈丁花

2009-03-10 | 邦画
沈丁花  ☆☆
1966.10.01 東宝、カラー、横長サイズ
監督:千葉泰樹、脚本:松山善三、
出演:杉村春子、京マチ子、司葉子、団令子、星由里子、田辺靖雄
   宝田明、仲代達矢、小林桂樹、藤木悠、夏木陽介、加東大介

大きな白いマスクをした歯科者の京マチ子は、
ちょっと眼をウルウルさせながら、
片手に治療器具を持って、
金平先生という弟の通う大学の教授の仲代達矢に向かって、
自分のお見合いの話をするのだが、
金平先生はまるで気にしていない風を装っていて、
他人ごとのような返事をし、
ノラリクラリとしている。
イラッとする京マチ子が
ガツンと治療するものだから、
金平教授は大層歯が痛い。
おー痛い。
こんなやり取りが何回か続く。

2人とも大きな眼だし、
京マチ子はマスクをしていて眼しか出ていないし、
仲代達矢は眼で芝居する人だから、
ここは、ギョロ眼の対決で、
芝居がおもしろい。

オールスター共演のちょっとした喜劇っぽいドラマ。
たくさんの俳優がそれぞれ個性を発揮していて楽しい。

09.03.07 神保町シアター
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くちづけ

2009-03-09 | 成瀬映画
くちづけ  ☆☆
1955.09.21 東宝、白黒、普通サイズ
監督:筧正典(第一話)、鈴木英夫(第二話)、成瀬巳喜男(第三話)
脚本:松山善三、
原作:石坂洋次郎 『くちづけ』『霧の中の少女』『女同士』
出演:青山京子、太刀川洋一、杉葉子(第一話)、中原ひとみ、
司葉子、小泉博、藤原釜足、清川虹子、飯田蝶子(第二話)、
高峰秀子、上原謙、中村メイ子、小林桂樹、八千草薫(第三話)

第1話は大学のキャンパスを中心にした
若い女子大生と男子学生の恋物語。
この2人の会話が中心で物語が進み、
妙に理屈っぽく観念的に恋愛を議論する。
でもやっぱり最後はそんなんじゃないんだ。

多摩川の土手、青い空、浮かぶ奴だこ。
すがすがしい空気に杉葉子と青山京子。

第2話は恋に恋するお年頃の中原ひとみの興味津々。
姉の司葉子と小泉博の恋に興味津々。
小泉博にドキドキの気持ち。

きゃぴきゃぴの中原ひとみ、くりくりの眼。
元気がいい。
清潔感いっぱいの司葉子と小泉博。
田舎おやじの藤原釜足。
怖い母さんの清川虹子、でも結構気の弱いところもある。
元気いっぱいの飯田蝶子のおバアさん。
役者がそろった。

第3話は高峰秀子、開業医の奥様。
コンパクトに展開するシーンの連続の中で、
舞を舞うごとく、
所作や表情が静かにテンポよく変化して、
小気味良く気持ちの流れが作り出される。

中村メイ子は元気良く、
上原謙はボーっとした感じで優しく、
小林桂樹はお人よしな若者の印象で、
高峰秀子の心の揺れの背景を描き出す。

最後に八千草薫が新しい看護婦の役で一寸だけ出て、
すこしサプライズ。

端正で清潔、明るい感じの筧正典。
ダイナミックで元気、豪快な印象の鈴木英夫。
コンパクトで無駄が無く、
人の心や世のひだひだをさっぱりと描く成瀬巳喜男。
全体に石坂洋次郎の明るさと楽しさにあふれた映画だ。

09.03.04 神保町シアター
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