二銭銅貨

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山椒大夫

2007-01-19 | 邦画
山椒大夫  ☆☆☆
1954.03.31 大映、白黒、普通サイズ
監督:溝口健二、脚本:依田義賢、八尋不二、原作:森鴎外
出演:田中絹代、花柳喜章、香川京子、進藤英太郎、浪花千栄子

安寿と厨子王の物語。

寒くて淋しげな、海の姿を背景に、
海岸から出発する2艘の舟、
むりやりに出発させられる田中絹代一行。
海に放り込まれる浪花千栄子。
別れ別れの親子。
無理やりな人々。理不尽な世の中。
正義が行われず、悪がはびこる。
不浄の海、腐った空気、汚れた社会。
抵抗するものは無く、それがあってもただ抹殺されるだけ。

深い山の中の清明な湖の冷たい感覚は、
ただ、ただ、正しいものを受け入れてくれるという感覚。
清らかなる聖地。
そこに活路があるのだろうとは、
純粋な心持の香川京子の汚れ無き思い。
水面に浮かぶ同心円、
泡のように消える汚れ無き心の願い。

俯瞰的に眺める佐渡の海の波と砂浜。
海藻だか何だかを干しているらしき1人の老人。
傍らに建つ掘っ立て小屋。
その向こうの小さな畑の中で、
何かで土を叩きながら、
体を揺らせながら、
小さな声で
「あんじゅー、ずしおー」と、歌をつぶやく老婆。
冷たい潮の風にさらされている。

この老婆と若者が抱き合い、いたわり合う姿を、
俯瞰的な佐渡の海、潮、砂浜、風、空気、空が、
やさしく包みこんでいます。
人は冷たくても、世は無常でも、それでも、
自然だけが、親だけが、子だけが、優しいです。
06.12.24 NFC
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歌麿をめぐる五人の女

2007-01-17 | 邦画
歌麿をめぐる五人の女 
1946.12.15 松竹、白黒、普通サイズ
監督:溝口健二、脚本:依田義賢、
原作:邦枝完二「歌麿をめぐる女達」
出演:坂東簑助、中村正太郎、田中絹代、飯塚敏子、
   坂東好太郎、大原英子、川崎弘子、草島競子

障子に映る人の影、
手に鋭利な三角形、
憤怒と激情の色と形、
情愛が怨念に変わる瞬間を捕らえた光と影。

気風のいい江戸っ子姉さんの田中絹代。
恋の道は一直線。
まだらっこしくはありません。
一途な気持ちでは、誰にも負けません。
後のことなんか考えない、
江戸っ子気質の娘です。

さて、主役の歌麿ですが、
師匠は絵ばっかり描いてます。
絵のために、絵に美人を写し取るために、
すべてを賭けています。
06.12.24 NFC
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祇園囃子

2007-01-16 | 邦画
祇園囃子  ☆☆
1953.08.12 大映、白黒、普通サイズ
監督:溝口健二、脚本:依田義賢、原作:川口松太郎
出演:木暮実千代、若尾文子、河津清三郎、進藤英太郎、浪花千栄子

鮮やかな舞妓さんの着物に身を引き締めて、
髷に簪、おしろいに紅。
新鮮な黒髪と、
光に反射する簪。
見つめる瞳、
夢見る顔、
もの言わんとする唇。

端整な若尾文子の線の切れの良さは、
曲線的な木暮実千代の柔らかな線と、
戯れながら物語の上を舞って行きます。

現代的な気持ちの若尾文子。
古いしきたりに縛られつつ、
その理不尽に抵抗しようとする木暮実千代。
登場人物の性格的な位置づけは「祇園の姉妹」に似たところもあり、
山田五十鈴のように、若尾文子もまた、
女の気持ちを踏みにじる男たちを強く糾弾し、抵抗します。
やっつけます。

祇園の舞妓の強い美しさの表現が、
白と黒のスタンダードの画面いっぱいに展開します。
06.12.21 NFC
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お遊さま

2007-01-15 | 邦画
お遊さま  ☆☆
1951.06.22 大映、白黒、普通サイズ
監督: 溝口健二、脚本:依田義賢、原作:谷崎潤一郎「芦刈」
出演:田中絹代、乙羽信子、堀雄二、柳永二郎、進藤英太郎

春の始めの暖かな日差しの中の木漏れ日の下で、
赤い大きな傘の日よけと緑の若葉を背景にして、
お茶会の席に座る和服の若き女性2人は、
まっすぐ前を見詰めています。
姉を慕う妹に、自由で奔放な姉の「お遊」さま。

田中絹代は、
いつもの健気さが出てしまうけれど、
田中絹代なりの自由奔放さを出しています。

乙羽信子は、
姉を慕う妹の強い気持ちを、
力強く表現しています。

こまかい春の若葉の色と、
繊細な着物の柄が、
京都の柔らかな雰囲気の中、
白と黒の映像に、
鮮やかに調和しています。
06.12.17 NFC
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西鶴一代女

2007-01-14 | 邦画
西鶴一代女  ☆☆
1952.04.17 児井プロ、新東宝、白黒、普通サイズ
監督:溝口健二、脚本:依田義賢、原作:井原西鶴「好色一代女」
出演:田中絹代、三船敏郎、進藤英太郎、菅井一郎、宇野重吉

田中絹代演ずるお春と、お春をめぐる男たちの運命の物語。
最初に出てくるのが三船敏郎で、
髭を剃り、さっぱりとした月代の好青年。
三船敏郎とは分からない。

人通りの耐えた深夜のローソクのかすかな炎に照らされた、
数多くの羅漢像に過去の男たちの像を重ねて、
世の無常、人の情け、愛の行く道、恋の堕ちる先、
運命のしがらみ、母親の情を思う。
寒い風が吹き、冷気があたりを覆い、
胸が締め付けられる。

明るい日差しと強い影、無常の雰囲気の中の、
破れかけた大門の柱のもとで、
べんべんと弾く三味線の音は、いつかどこかで聴いた音、
その唄を謡う老婆の座り姿の前を通る、さる、殿様の行列に、
弾けたように飛び出す、その老婆。
子を思う真情。
世の無常。

うらぶれたボロ屋を次々と、1人訪ね歩いて門付けをする、
乞食坊主に世間は冷たい。ピシャリと閉まる戸。
暗い夜空の月と雲だけが、
わびしく、さびしく、見ていてくれる。
06.12.17 NFC
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