二銭銅貨

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甘い生活

2012-01-19 | 洋画
甘い生活 ☆☆
La Dolce Vita
1960 イタリア、白黒、横長サイズ
監督・脚本:フェデリコ・フェリーニ
脚本:エンニオ・フライアーノ、トゥリオ・ピネリ、
   ブルネロ・ロンディ
出演:マルチェロ・マストロヤンニ、アニタ・エクバーグ
   アヌーク・エーメ、イヴォンヌ・フルノー
   レックス・バーカー

青空に、
ヘリがはばたき、
轟音の中、
白銀に輝くキリストの像が、
吊るされて、
人々の頭上を睥睨し、
飛行している。

コックピットにはマルチェッロ。
それにカメラマンとパイロット。
マルチェッロはドンジョバンニの再来か。
まさか騎士長の像を吊るしているというわけでもなかろう。
地上には水着の若い女性たち。
マルチェッロは執拗に声をかける。
爆音で聞こえない。
電話番号を聞いているのだ。
空からのナンパは現代的だ。

最後は網にかかった海岸のエイの死体。
なんだこれは...、
あるいは騎士長の像なのか、
図体がでかくて、
目が怖い。

海岸に流れ出る小川の流れの向こうから、
素朴な美しい田舎娘が声をかけてくる。手を振る。
それでも、波の音がうるさくて良く聴こえない。
小娘は自分が前に海の家のような所で出会った娘だと、
教えようとするけれどマルチェッロには分からない。
手出し無用だ。
彼女の名はマルチェッロのカタログに載ることが無い。
彼女は寛容な慈愛に満ちた表情で、
静かにマルチェッロを見送る。

不道徳すぎるマルチェッロだけれど、何故か、
あの抜けるような青空みたいな爽快な気分がするのは、
なんだろう。
ニーノ・ロータの音楽の故なのだろうか。
彼はとっても憂鬱そうだったし、
けだるそうだったのに。
たとえその爽快さがニセものであったとしても、
元気はすこし出る。

退廃とか堕落。
人生も社会も、多かれ少なかれ少しは腐っている。
愛とか信仰とかジャーナリズムとか、
やっぱり多少は腐っている。
そんなものかも知れない。
それでも、それだからこそ、
人生や社会には甘い部分も多いし、
旨味もある。
糖分も多い。
糖質が無ければエネルギーは出ないし、
力も出ない。
元気も出ない。
禁欲的なマルチェッロの友人の
無理心中が印象的だった。

12.01.14 シネコン映画館(午前十時の映画祭)
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君と別れて

2012-01-18 | 成瀬映画
君と別れて ☆☆
1933.04.01、松竹キネマ(蒲田)、白黒、無声、普通サイズ
監督・脚本:成瀬巳喜男
出演:吉川満子、磯野秋雄、水久保澄子

素朴なメロドラマ。
病床の水久保澄子の大きな瞳が美しい。
吉川満子はやや疲れた雰囲気、
磯野秋雄はもさっとした感じ。
突貫小僧が元気。

ピアノの生演奏(柳下美恵)付き。映画の中に、レコードをかけて芸者がショールを羽織って踊るシーンがあり、そこではカルメンの闘牛士の歌の部分を変奏して用いていた。

12.01.13 神保町シアター
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夜ごとの夢

2012-01-17 | 成瀬映画
夜ごとの夢  ☆☆
1933.06.08、松竹キネマ(蒲田)、白黒、無声、普通サイズ
監督・原作:成瀬巳喜男、脚本:池田忠雄
出演:栗島すみ子、斎藤達雄、新井淳、吉川満子

夫に家を出ていかれて、
1人で子育てしている栗島すみ子は、
しっかりものの女給さん。
そこへ出戻る、
だらしのない夫は斎藤達雄。

斎藤達雄は、
首を前に突き出して、
猫背で、
なんともだらしなくて弱々しい。
気持ちの優しい男なんだけれども、
就職難の厳しい世の中を耐えて行くだけの力が無い。
なんとも物悲しい。

ピアノの生演奏(天池穂高)付き。落ち着いた、めりはりのある演奏だった。

12.01.08 神保町シアター
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腰弁頑張れ

2012-01-15 | 成瀬映画
腰弁頑張れ  ☆☆
1931.08.08、松竹キネマ(蒲田)、白黒、無声、普通サイズ
監督・脚本:成瀬巳喜男
出演:山口勇

穴のあいた靴、
無精ひげの濃い顔、
人の良さそうな真面目な表情。
厳しい時代を一所懸命に生きているお父さん。
家族。
腰弁頑張れ。

ピアノの生演奏(天池穂高)付き。

12.01.08 神保町シアター
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2012-01-14 | 洋画
道 ☆☆☆☆
La Strada
1954 イタリア、白黒、普通サイズ
監督・脚本:フェデリコ・フェリーニ、脚本:トゥリオ・ピネリ
出演:ジュリエッタ・マシーナ、アンソニー・クイン
   リチャード・ベイスハート
音楽:ニーノ・ロータ

ビュービュー吹く風は冷たくて厳しい。
大地を殴りつけるようだ。
田舎の海岸の波も荒々しい。
その何もない海岸の方を向いて、
一人の少女がこちらに背を向けて、
みすぼらしい身なりで立っている。

背に長い藁のような束。
まだ未来の定まらない、
素朴で野生の草花のような。
ジェルソミーナ、
と遠くで呼ぶ声がする。

聖職者のような黒の服装の3人の楽隊。
田舎道を歩いてくる。
手にそれぞれの楽器、フルート、クラリネット、ラッパ。
楽しそうなその音楽に連れられて、
立ち上がり、踊りながら、
3人に付いて行くジェルソミーナ。
やがて彼女は街へ入り、
教会の行列を見に来ている多くの群衆の中に巻き込まれる。

夜、天使は舞い降りて、
地上40メートルの綱の上に椅子を置き、腰を掛け、
スパゲッティーを食べようとする。
風が一陣吹いて食べ損なうが、
彼はさらに地上に舞い降りて、
ジェルソミーナに合う。
彼女を救うために。

別の夜、「私は何の役にも立たない人間だ」と言って、
落ち込んでいる彼女に、その天使は優しく話しかける。
「世の中には役に立たないものなんて無い、
この転がっている石も何かに役立っている。
ザンパーノはあなたを必要としている。」
という趣旨の事を言う。
彼女はそれですっかり自信を付けて、そして、
できればザンパーノを救いたいと思う。
犬のような、野獣のような、何も分かっていない、
ザンパーノを救いたいと願う。

また別の夜、海岸の波うち際で、
顔をザブッと洗うザンパーノはすっかり酔っ払っている。
波うち際から少し離れた所まで戻ると、
よろよろと砂浜に崩れ落ちる。
座ったまま、ゆっくりと夜の空を見上げ、あたりを見回す。
ジェルソミーナの声が聞こえるかい?
えっ?どうなの。
夜空は何も答えてくれない。
夜の波は何も教えてくれない。
夜風も、黙ったまま。

そして彼はそのまま砂に突っ伏して、
慟哭し始める。

かの天使はジェルソミーナを救えたのだろうか?
そして、
ジェルソミーナはザンパーノを救えたのだろうか?
そう、両方ともちゃんと救われたと、
そう思う。

12.01.07 シネコン映画館(午前十時の映画祭)、過去にVTR,TVで数回
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