二銭銅貨

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10国立劇場11月/国性爺合戦/歌舞伎

2010-11-28 | 歌舞伎・文楽
10国立劇場11月/国性爺合戦/歌舞伎

国性爺合戦(こくせんやかっせん)

大明御殿の場
肥前国平戸の浦の場
千里ヶ竹の場
獅子ヶ城楼門の場
獅子ヶ城甘輝館の場
紅流しの場
元の甘輝館の場

出演:団十郎、藤十郎、梅玉、翫雀、東蔵、左團次

鳴り物に中国風のドラの音とかが入り、衣装、美術も中国風。なおかつ歌舞伎なので、和中折衷の不思議な雰囲気。江戸歌舞伎、上方の世話物、中国文化が融合していて面白い。とにかく団十郎が良い。和藤内の白と紫の大きな太い縞の着物が印象によく残る。平戸の浦の団十郎はのんびりとゆっくりした景色で和風。潮風や日差しが優しい。水色の空。シギとハマグリが喧嘩をしている。のどか。千里ヶ竹ではトラ退治。そんなに荒々しくなく、朝飯前に軽くやっつける団十郎風の踊り。その後も、若々しい動きや、また逆にじっくりと落ち着いた、こらえるような芝居が続いて団十郎の気分が芝居を支配する。

翫雀は中国の豪快な悪者、李蹈天(リトウテン)を軽快豪快に演じて気持がちよい。何をやってもうまい役者だ。藤十郎が錦祥女で可愛らしい様子のお姫様だったけれども、芯はめっぽう強い。梅玉は夫の将軍、甘輝の役。若干、役所の役人風で豪快な感じは少なかったけれども、ゆっくりとした団十郎の和藤内とは良いバランスだった。東蔵は母の渚で毅然としてしっかりとしている。ピンと伸びた真っ直ぐな姿勢はこの物語の心棒になっていた。左團次は父の老一官位で、飄々とした爺さんだ。

特に渚のセリフの中でニッポンが連発される。要するに海外で恥じをさらしたくない、日本精神を矜持をしっかり見せたいということで、これは当時のそして今の日本のナショナリズムの特徴の1つだと思った。集団の結束を固めるためのものや、国益追求のためのものではなく、恥ずかしい態度を見せたくないという心情だ。

10.11.07 国立劇場
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ボリス・ゴドゥノフ/MET10-11舞台撮影

2010-11-24 | オペラ
ボリス・ゴドゥノフ/MET10-11舞台撮影

作曲:ムソルグスキー
演出:スティーブン・ワズワース
指揮:ワレリー・ゲルギエフ
出演:ゴドゥノフ:ルネ・パーペ
   マリーナ:エカテリーナ・セメンチュック
   グリゴリー:アレクサンドルス・アントネンコ

ロシアの民衆が主人公で、これをいつもよりも人員を増やした合唱団で強力に表現する。移り気で気儘な民衆は時に衆愚と呼ばれるけれども、為政者達はこの民衆を支配しているようでいて、実は民衆に支配されている。今日でも国内、国外を問わず、その構造は昔から変わっていない。このオペラは絶対主義の時代のものだけれども、絶対主義であろうと自由主義であろうと、その構造に違いが無い。

絶対主義下の民衆の自由な気分と言うのはツンドラの表土の下で蠢く小さな微生物の無限の群れのようで、それが当時のロシア民衆の特徴なのかも知れない。ロシアの大地とは、この凍土の下で強くたくましく生きる自由な民衆の蠢きのことを意味するのであろう。

ルネ・パーペは重厚で重く、軍事用語で言えばまるでレシプロエンジンの四発重爆のようなバスだった。これに対してゲルギエフのオーケストラは最新鋭のジェット機満載の原子力航空母艦のような印象だった。重い重いオペラでソプラノなんて出る幕ない。

マリーナのセメンチュックは強烈なメゾで気合が良く、悪辣ぶりも優れていて気持ちがいい。美貌のメークで、強烈なバスやバリトンの男達に負けていなかった。

演出は繊細でデイテールにこだわった演劇的なものだった。、バレーダンサーのような身のこなしの白痴イヴァヌイチ(聖愚者)や民衆の扱い方が良かった。

10.11.14 109シネマズ川崎
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イル・カンピエッロ/日本オペラ振興会10

2010-11-23 | オペラ
イル・カンピエッロ/日本オペラ振興会10

作曲:フェッラーリ、演出:松本重孝
指揮:柴田真郁、演奏:テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ
出演:
ファブリーツィオ(本好きの父):清水良一
ガスパリーナ(ファブリーツィオの娘):納富景子
ルシエータ(小間物行商人の彼女):小林教代
ドナ・カーテ(ルシエータの母):松浦健
アンゾレート(小間物行商人):和下田大典
オルソラ(揚げ物屋のカミさん):但馬由香
ゾルゼート(オルソラの息子):藤原海考
ニェーゼ(ゾルゼートの彼女):大音絵莉
ドナ・パスクワ(ニェーゼの母):鹿内芳仁
アストルフィ(旅の騎士):森口賢二

ベネチアの下町の気のいい隣近所の人々の何気ない一日を写した軽喜劇。人々の心と心がつながって、喧嘩をしても、仲直りをしても、何をしても、仲間意識の気持ちは強靭。

美術も衣装も簡素で、オペラの軽快さに合わせていた。普段着オペラ。特に主人公も無く、アリアも無く、登場人物の出番もほぼイーブンで、若手向けの人材育成オペラにはちょうど良い。

ルシエータの小林教代は強くて伸びのある幾らか劇的な歌唱、恋人役のアンゾレートの和下田大典は重厚な感じ、彼の嫉妬の対象となるゾルゼートの藤原海考はベルカントっぽいテノール。彼ら3人がやり合う場面は、トスカとカヴァラドッシとスカルピアのようで、演奏も含めて迫力があった。

ガスパリーナの納富景子は明るい感じで最後の歌が美しい。ニェーゼの大音絵莉は繊細な感じ、オルソラの但馬由香はお母さん風の安定したしっかりした歌だった。

松浦健と鹿内芳仁はおばさん役で大変だった思う。歌はともかく楽しそうにやっていた。アストルフィの森口賢二は軽快でとぼけた感じ、ファブリーツィオの清水良一は生真面目な感じだった。

最後以外は特にこれといった曲も無く、全編レチタティーヴォと言っても良いオペラで芝居の要素が強い。芝居をちゃんとやらなければならない点で歌手達は大変だなと思ったけれども、それぞれ芝居も歌も一所懸命にやっていた。オーケストラはピアノと各楽器2個づつ位の小編成だった。

最後の「さようなら、愛しのベネチア / bondi venezia cara」が際立って美しい。うっとりするようで、この歌のためにこのオペラがあるんだと思った。歌っているのはガスパリーナの納富景子だけれども、出演者みんなの魂が乗り移ったような歌だった。

10.11.13 テアトロ・ジーリオ・ショウワ
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ラインの黄金/MET10-11舞台撮影

2010-11-20 | オペラ
ラインの黄金/MET10-11舞台撮影

作曲:ワーグナー
演出:ロベール・ルパージュ
指揮:ジェームズ・レヴァイン
出演:ヴォータン:ブリン・ターフェル
   フリッカ(妻):ステファニー・ブライズ
   ローゲ(火の神):リチャード・クロフト
   アルベルヒ(盗人):エリック・オーウェンズ
   フライア(娘):ウェンディ・ブリン・ハーマー

出だしの人魚の3人娘が面白い。水中バレエのような振り付けを空中でやり、なおかつこの3人は歌手で、宙吊りの後にすぐ歌い出す。引き続きアルベルヒとの会話や、強くて美しい三重奏が始まっていく。3人のうちの1人は「つばめ」に出ていたリゼット・オロペーサで、メイキング画像の中で宙吊りを怖がっていた。

ヴォータンのブリン・ターフェルは落ち着いて重厚、沈着な感じ。フリッカのステファニー・ブライズは安定した強いメゾ。ローゲのリチャード・クロフトは急坂をワイヤで吊られたまま、急坂に立った状態で何度も歌っていて、ご苦労さんだった。最後のカーテンコールではブーイングだったのかブラボーだったのか良く分からなかったけれど、オーっと大歓声が上がっていた。アルベルヒのエリック・オーウェンズは、卑屈だけど人間的な下積みのナニクソな感じが良く出ていて良かった。歌も強くて大きかった。

美術は多数の板を回転して様々な局面を生成せきるようにしたもので、これを床や壁にするという斬新なアイディアのものだった。

音量が大きすぎたのか音が若干ワレ気味だったような気がした。

10.11.06 東劇
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水で書かれた物語

2010-11-06 | 邦画
水で書かれた物語 ☆☆
1965.11.23 中日映画社、白黒、横長サイズ
監督・脚本:吉田喜重、脚本:石堂淑郎、高良留美子
原作:石坂洋次郎
出演:岡田茉莉子、浅丘ルリ子、山形勲、入江保則

水で書かれた物語なのに潤いが無い。
水気が無い。
水分が無い。
乾ききっている。

不思議で、かなり気持ち悪い。「羊たちの沈黙」や「ベニスに死す」を見た時と同じような印象。具体的に気持ち悪い場面があるわけではないけれども、強烈に気持ちの悪さが残った。それぞれに良い映画で、多分、その抽象的な表現がリアルであるためにそんな印象を残すのであろう。

「羊たちの沈黙」はカニバリズム。「ベニスに死す」はホモセクシャル。こちらはエディプス・コンプレックス的なもの。どうも、こういうタイプのものには生理的拒絶反応があるらしい。

映画自体は実験的で意欲的なものだった。銀行のシャッターが閉まるシーンが印象に残る。冒頭と中間の2回ある。うまいカットだと思った。何か、この世と不思議の国の世界との間を区切るシャッターで、そのシャッターを降ろして、「さあこれから不思議の国の世界に行きますよ」という感じだった。

10.10.24 NFC
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