2010オリンピック男子フリー
氷上にスケート靴を履いた青年が立ち、
そしてゆっくりと滑り始める。
遠くの、遥か遠くの、
クワッドを飛ぶ位置を見すまして、
風を受けて滑っていく。
彼がそのジャンプに転んだ時には、
心配そうな顔つきのジェルソミーナに向かって、
「大丈夫、大丈夫」って言いながら、
ニコニコしながら今度は軽くステップを踏んでいる。
「ほら、僕みたに、君だって楽しく滑れるよ」って
言っているみたいだ。
だからその時にはもう、楽しそうに、
ジェルソミーナも一緒に高橋大輔と滑っていた。
高橋大輔:3位
ショートはタンゴ風の曲(Eye by Coba)で、それを柔らかな感じで表現していた。しっかりとダイナミックに滑れて、プレゼンテーションも良く3位。一方、フリーはクワッドが失敗、若干のジャンプのミスもあって5位。総合で3位。ショートもフリーも表現は選手達の中で一番良いように感じた。特にフリーのコリオグラフが良く、本当にそこにジェルソミーナが居てもおかしくないような印象だった。高橋のマイムが優れている。滑りも良く、スピードもパワーも落ちなかった。フリーの衣装は白と黒のチェック柄で、良く役柄に合っていた。
織田信成:7位
ちょっと気合が入りすぎなのか、あるいは緊張しすぎなのか、チャップリンらしさがその表情からは消え失せていたものの、滑り自体の気合は十分で、トリプル・アクセルからのコンビの途中のターン以外はほぼノーミスであった。ところが終盤に靴の紐が切れるというアクシデントが発生。ループでミスった所で演技を中断し、審判の前でズボンの裾をまくって脛とぼろぼろの靴紐を見せる。靴先もボロボロ。まるでチャップリンのようだ。このアクシデント自体がチャップリンの喜劇のようだ。これは、あまりにも真剣すぎてチャップリンに成りきれない彼に、神様がプレゼントしてくれたちょっとしたイタズラなのかも知れない。復帰する時の観客の暖かい拍手につつまれていたその時の彼は、本当にチャップリンになれていたのかも知れない。その後は完璧だった。ショートは勢いのある良いスケーティングで4位、フリーは7位。クワッドには挑戦しなかった。
小塚崇彦:8位
ショートのジミ・ヘンドリックスの曲に合わせた滑りが素晴らしかった。乾いた感じの曲をワイルドにぶっきらぼうに表現していて、ややスローなテンポにぴったりと体の動きを合わせていた。全日本の時には曲のテンポが速いように感じたが、どうもそういうことでは無かったらしい。振り付けが素晴らしい。佐藤有香の振り付けとのこと。ゆったりとのびのびと、地味でさりげない有香さんらしい振り付け。衣装は燃える赤系統でクールな感じのデザインだった。パンツはGパン風。8位。フリーではクワッドを両足着地ながら成功。2度目のトリプルアクセルをミスした以外ほぼ完璧で8位。こちらのコリオグラフも佐藤有香。
エヴァン・ライサチェック:1位
真面目で無骨な感じの大男。それなのにショートもフリーも女性的な振り付けで、ちょっとこの人には合わないように思った。ノーミスで1位。ショートは2位。
エフゲニー・プルシェンコ:2位
クワッドをトリプル・トウとのコンビで高く楽々と飛んでいた。しかしながら他のジャンプは軸がよれたり曲がったりでクオリティがイマイチ。ノーミスだったが2位となった。表現もいま1つ乗っていなかったように思う。ショートは滑りも表現も完璧で1位。
ステファン・ランビエール:4位
ショートがウィリアム・テル、フリーが椿姫でそれぞれ清楚で上品なテルとアルフレードだった。アクセルなしのクワッド・トウが2度で若干のミスがあった。他のジャンプもギリギリ。スピンの軸が良く出ていて素晴らしかった。ショート5位、フリー3位。
ジョニー・ウィアー:6位
塵ひとつない清潔で美しい姿勢とコリオグラフ。ステップでよろけていた以外はほぼノーミスで6位。芸術性に優れたスケーターでユニークな個性だ。
佐藤有香:コーチ
ジェレミー・アボットのコーチとして登場。落ち着いた、にこやかな表情が親ゆずり。ジェレミー・アボットは不調で特にショートが悪く15位。フリー9位で総合9位。残念。全米チャンピオンだったのに。
スコア:
合計 ショート(技術, 構成, 減点) フリー(技術, 構成, 減点)
1ライサ 257.67 90.30(48.30, 42.00, 0) 167.37(84.57, 82.80, 0)
2プル 256.36 90.85(51.10, 39.75, 0) 165.51(82.71, 82.80, 0)
3高橋 247.23 90.25(48.90, 41.35, 0) 156.98(73.48, 84.50, -1)
4ラン 246.72 84.63(41.48, 43.15, 0) 162.09(78.49, 83.60, 0)
7織田 238.54 84.85(46.00, 38.85, 0) 153.69(79.69, 77.00, -3)
8小塚 231.19 80.54(42.14, 37.45, 0) 151.60(78.40, 74.20, -1)
高橋のクワッドの失敗は減点も含めて得点0だったので、仮にクワッドをノーマルで飛べていれば、クワッドの基礎点を9.8として合計257.03で2位。織田のアクシデントでのマイナスは5.6くらいなので、それが無いとすると244.14で5位。高橋の構成点の84.50は最高。
2010.2.19 バンクーバー