二銭銅貨

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ラ・ボエーム/2008映画

2009-06-16 | オペラ
ラ・ボエーム/2008映画
2008 ドイツ、オーストリー
作曲:プッチーニ、演出:ロバート・ドーンヘルム
指揮:ベルトラン・ド・ビリー
出演:アンナ・ネトレプコ、ローランド・ビリャソン

どっさり降る雪。
厳しい雪。
優しい雪、暖かい雪、
ふんわりした気持ち、
鋭い気持ち、
白い雪。

真っ赤な題字、
2人の恋。

オペラをそのままに映画にするのは難しい。この作品はオペラの形を崩さずにそのまま映画にしたもので、そのための工夫が色々とある。オペラを舞台撮影したものであれば、その舞台の緊張感がそのまま伝わるので良いが、映画として作るとなると単調になる。その単調さを防ぐための工夫が幾つかあった。画面の色を抜いたりとか、映像の重ね合わせを使ったりとか、窓の外を航空機から眺めた雲のようにしたりとか、他にも色々とあったように思う。音楽ビデオクリップの感じだ。舞台のオペラと同じように登場人物は必ずオペラを歌っているが、唯一、息絶える前のミミは歌っていない。ここも工夫だったのであろう。

幕間が無いことに案外違和感を覚える。n幕目とn+1幕目の音楽が間隔無しで連続して演奏されるのであるが、一方でオペラは間を置いて演奏される事を前提に作曲されているので、そうした違和感を覚えるのであろう。ここは数十秒でも、なにかしら間を置いた方が良いと思った。

なおエンドロールの所は、最後のシーンでプッチーニの音楽が終わるために無音だった。音楽に関してはあくまでもプッチーニに忠実なのだ。

09.06.07 川崎アートセンター/アルテリオ映像館
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三十三間堂通し矢物語

2009-06-14 | 成瀬映画
三十三間堂通し矢物語 ☆☆
1941.09.17 東宝、白黒、普通サイズ
監督:成瀬巳喜男、脚本:小国英雄
出演:長谷川一夫、田中絹代、市川扇升

まじめで硬質。
力強く放たれる矢のようだ。

きりっと強い田中絹代は、
ちょっとお姉さんな役柄。
対する長谷川一夫はかっこいい侍で、
いつも通りだ。
まっすぐで素朴な青年を市川扇升。

素直にまっすぐ飛ぶ弓矢のように、
直線的で気持ちのいい映画だ。

いくつかの黒澤作品でなじみのある小国英雄の脚本。男性的なタッチのシナリオで、主役の田中絹代も男まさりな感じ。女性を描く事のうまい成瀬さんの特徴はあまり出ておらず、違和感なく自然な男性的な仕上がり。

ベテランと若手の心の絡み合いがテーマで、伸び盛りの若手を前にした時のベテランの心情というものも一つの見所。映画では自分の不利益にもかかわらず若手を指導する敵役のベテランの気持ちの気高さが賞賛されているけれども、実際にはそんなもんでは無い。実際には、若手に対する強い嫉妬や抜かれる恐怖やいまいましさってものがあるはずです。そうした葛藤を長谷川一夫は多少なりとも表現していたように思う。

09.06.06 シネマヴェーラ
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09歌舞伎座6月/正札附根元草摺、双蝶々曲輪日記、蝶の道行、女殺油地獄/歌舞伎

2009-06-09 | 歌舞伎・文楽
09歌舞伎座6月/正札附根元草摺、双蝶々曲輪日記、蝶の道行、女殺油地獄/歌舞伎

正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)
出演:松緑、魁春
メリハリのある直線的な動きの魁春は律儀で真面目。松緑は若くて元気、やんちゃな感じ。

双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)
角力場(すもうば)
出演:幸四郎、染五郎、芝雀、吉右衛門
幸四郎の濡髪長五郎は貫禄十分の大横綱。対する放駒長吉は吉右衛門で一徹な若者、まだ幼い。若者とベテランのジッとした緊張の睨み合い。

蝶の道行(ちょうのみちゆき)
出演:梅玉、福助
恋の行く末、果てる様を描く舞踏。蝶の息絶える、念入りな姿。コンテンポラリーな演出で音楽が竹本。軽い感じの舞踏に重い音楽の組み合わせ。不思議な世界。赤と青のダイナミックな色合い。

女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)
出演:仁左衛門、孝太郎、梅枝、歌六、秀太郎、梅玉
仁左衛門が若い。若さの未熟さが全開。親の歌六、秀太郎の子を思う気持ちがめっぽう強い。この親の甘さがこの物語の1つのモチーフで、それが良く出ている。親ってそんなもんだし、子もあんなもんだ。ただ、その一線を踏み外さなければ良いのにと思う。ちょっとした事なんだ。

高音の梅枝の声やしぐさは全体に暗いトーンのこの物語の中で輝いていて、メリハリを作っていた。

豊嶋屋(てしまや)の油樽の黒光りが陰惨な最後の修羅場を暗示する。殺伐とした陰惨の雰囲気。人々の心の悲しい顛末。油まみれの悲劇。

砂糖菓子のように甘い親の気持ちと油にまみれたお吉の血。陰惨でどうにもならない。近松門左衛門は良く描いたものだと思う。きつくて厳しい。初演以来上演されずに復活したのが最近だというのも、もっともなことだ。

大夫も頑張って気合が入っていて、特に三味線の前衛的とも思える演奏が印象に残った。滑らかでなくてガツ、ガツ、ガツとした弾き方で、陰惨さを強調していて映画音楽のようであった。

多分、「蝶の道行」だったか他の演目だったか、成瀬監督の「流れる」で使われている三味線の旋律と同じのがあったように思われた。これは杉村春子が電話口で口ずさむもので、それを伏線にラストで山田五十鈴と杉村春子が対面して弾く時の曲だ。

09.06.05 歌舞伎座
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09国立劇場5月/ひらかな盛衰記/文楽

2009-06-02 | 歌舞伎・文楽
09国立劇場5月/ひらかな盛衰記/文楽

(第2部)
ひらかな盛衰記
梶原館の段(かじわらやかた)
先陣問答の段
源太勘当の段(げんだかんどう)
辻法印の段
神崎揚屋の段(かんざきあげや)
奥座敷の段

文司が遣う平次の大馬鹿な性格がおかしい。不良ぶって、強ぶって、ふてぶてしいけれど、実際の喧嘩はめっぽう弱い。大きくておおぶりな感じがくだらぬ悪党ぶりを良く表す。

梶原館の段の腰元千鳥は勘十郎で、背の高い印象のすらっとした気性の強い美人。平次にちょっかいを出されても毅然とした形。神崎揚屋の段ではこれが傾城梅ヶ枝に変わる。こちらは大きく悠然とした構えに、ゆっくりとした表情。その中に源太に惚れてしまって、どうにもこうにもならない気持ちが現れる。その後半の、髪を振りほどき狂乱の態の梅ヶ枝は情熱的で力強く舞台一杯に動きまわる。源太に対する居ても立っても居られない情の深さと恋の強さ。赤い衣装が刺激的だ。

3つの違った印象の女形を勘十郎が遣う。

若男の源太を和男が遣う。こちらは真面目でおとなしく柔らかい。とても豪傑には見えない。ただ、梶原館の段での一閃、軍内を斬るところは鋭く美しい。実はこの人は、めっぽう強い。

腰元お筆は梅ヶ枝の姉さんで清十郎が遣う。端正で容赦のない潔癖さ、正義感の持ち主。この姉妹は強い。どうあっても強い性格で頼りになる感じ。男どもがどうにも頼りない。

辻法印の段では1人遣いの農民の人形が4人出てくるが、結構、仲間内での掛け合いなど、動きが多い。出遣いでは無かったので良くは分からないが、多分、有力な人形遣いがやっていたのではないかと思う。偽弁慶をかばう立場でいろいろしゃべる農民を遣う人形遣いの動きやその人形の動きは勘十郎風であった。とにかく4人の人形の動きは闊達でこの場を締めていた。

神崎揚屋の段の大夫は嶋大夫で、梅ヶ枝の強烈な意思と情熱を場内めいっぱいに力強く語った。重々しい感じの語りであったけれども、強さが若々しくて、梅ヶ枝の若くて強靭な感じが良く出ていた。

09.05.17 国立劇場
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