二銭銅貨

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アルミーダ/MET09-10舞台撮影

2010-05-26 | オペラ
2010-05-26 / オペラ

アルミーダ/MET09-10舞台撮影

作曲:ロッシーニ
演出:メアリー・ジマーマン
指揮:リッカルド・フリッツァ
出演:アルミーダ:ルネ・フレミング
   リナルド:ローレンス・ブラウンリー

これは歌主体のベルカント・オペラらしい。やや退屈ぎみになる所だけれども演出が良くて飽きない。

真っ赤な衣装の少女なのか、あるいは小さな女性なのか、どちらか分からないけれども、愛の妖精役が空から降ってくるのが始まり。最初から意表を突いていて面白い。舞台には復讐の悪魔役と、この愛の妖精役が度々出て来るけれども、特に愛の妖精役の方はアルミーダの付き人みたいな形で頻繁に登場する。小柄でバレエ風の衣装にトウシューズなのでバレリーナなのかも知れないが、バレリーナにしてはちょっと太りめな感じ。優しい素朴な顔だちで、この役柄にピッタリと良く合う。この人物の使い方がうまいし、またそのにこやかな表情が終始くずれない芝居も良い。この劇全体をピリリと引き立てているこの女性はジマーマンの投影なのだろうか。特に、男性にリフトされ、空中から恋の矢を射る場面は印象的な演出だった。宙に浮いた真っ赤な衣装が鮮烈に残像として心の中に残る。恋の矢で射られるって、こんな感じなんだ。恋の矢で射られたのはリナルドでは無く観客だったかも知れない。

2幕目の最初の方の悪魔たちのダンスも凄くて良い。ヌルヌル、ドロドロ。ぐるぐる、ねちねちした感じが秀逸だ。演出だけでなくダンサー達が素晴らしい。その後の舞踏会風のバレエも豪華で良かった。このオペラの本筋を投影した振り付けに物語性があって、長いバレエ・シーンだったけれども面白かった。音楽を細かく解釈して曲の変化をきちんと舞踏に反映し、なおかつ、あら筋を表現できるように工夫されていた。

フレミングの歌は安定していて力強く、ブラウンリーは美しい。2人の2重奏は声質が良く合っていて、そのアンサブルが美しい。やさしく場内を包み込んでいて、美しすぎるので、そのまま目をつむって眠ってしまいそうだった。2幕目の多分、「甘き愛の帝国に」はセビリアの理髪師の「今の歌声は」に匹敵するような大きなアリアだった。自信たっぷりに悠然と指揮棒を振りながら堂々と歌っていた。この魔法の杖が指揮棒という発想も面白い。最終場面のブチ切れのアリアは強くて激しくて強靭。迫力が満ちたままに終わる。

このアルミーダというのは「サブリナ/魔女は16歳」で言えば慌て者のヒルダ・タイプの魔女のように見える。けれどもフレミングがやると、性格が知的なゼルダ・タイプになってしまう。演出的にはヒルダのほうが面白いと思うけれども、ゼルダ的と言うお芝居も、それはそれで良いかもしれない。ヒルダもゼルダも好きだから。

10.04.16 109シネマズ川崎
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オンディーヌ/ロイヤル・バレエ2009舞台撮影

2010-05-23 | バレエ
オンディーヌ/ロイヤル・バレエ2009舞台撮影

2009年上演
作曲:ヘンツェ、振付:フレデリック・アシュトン
指揮:バリー・ワーズワース
出演:オンディーヌ:吉田都、パレモン:エドワード・ワトソン
ベルタ:ジェネシア・ロサート、ティレニオ:リカルド・セルヴェラ

ゆるやかな風にゆっくりと乗って流れる空気、
薄水色の静寂な水面に、
薄緑色のかすかなもやがかかるように、
オンディーヌは立ち、歩き、座り、そして水に戯れて、
無邪気に妖精の気をあたりに放射している。
なぜか、その、あたりに散らばる音楽はハープで、
なぜか、その、オンディーヌはバレエ足だ。

柔らかいゆっくりとした印象の吉田都。端正で思いやりのある、でもちょっと冷たいところのあるエドワード・ワトソン。恋敵のジェネシア・ロサートは元気良く、小気味良く、活発で、直線的な若い娘を良く演じていた。ただ、ご本人は若い王子の母親くらいに見える方なので、ずっとそう思って見ていた。やけに息子に色目を使うへんな母親で面白い演出だなどと思ってしまった。リカルド・セルヴェラは海の王の役でダイナミックに強い踊りを踊っていた。最後の方で出て来る劇中の舞踏団の踊りのカップルも強くて活発でキビキビした踊りで楽しかった。

劇のラストは、死んで横たわっているパレモンをやさしくいたわっているオンディーヌの哀しい姿。パレモンが死ぬなんて結末は可哀相すぎるので、なんとかして生かしておいてやりたいと思った。

オンディーヌはブロードウエイのミュージカルになっていて、1954年にオードリー・ヘップバーンとメル・ファーラーの共演で上演されている。彼女がどうしてもやりたいと熱望してやった役だそうだ。バレエのオンディーヌの今回のバージョンは1958製作のようなので、このミュージカルの後になる。主演の2人が似ていると言うほどでは無いけれども、この2人はちょっとオードリーとメルみたいな所があって、見ていて当時のミュージカルもこんな風だったのだろうかと思った。

もともとオードリーはバレエをやっていて、プロを断念して踊り子から女優になった人だから、多分、オンディーヌのバレエなんて、もしできたらやって見たかったんだろうなと思った。「初恋」では彼女のバレエが少し見られるし、ミュージカルでは「ファニーフェイス」、「マイフェアレイディ」がある。オンディーヌ風映画に「緑の館」があり、この最後は原作が悲劇なのにハッピーエンドになっている。ひどい改作だと思ったことがあるけれども、でも悲劇は哀しいから、最後は芸術性を無視してでもハッピーエンドのほうが良いのかも知れない。

10.05.15 109シネマズ川崎
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カルミナ・ブラーナ/新国立劇場バレエ09-10

2010-05-22 | バレエ
カルミナ・ブラーナ/新国立劇場バレエ09-10

振付:デヴィッド・ビントレー、指揮:ポール・マーフィー
演奏:東京フィル

前半はガラントゥリーズという名称の振り付けで、モーツァルトの初期の作品の幾つかを用いたもの。演奏は小規模な弦楽によるものだった。クラッシクな振り付けで舞台も白い衝立を2枚置いただけの簡素な作りで30分くらいの上演だった。衣装は淡い黒とオレンジかベージュのような色合いで地味な色彩、日本的な雰囲気だった。優雅で優しい中にも直線的な鋭さを感じる振り付けだった。

後半は約1時間のカルミナ・ブラーナ

作曲:カール・オルフ
出演:運命の女神フォルトゥナ:湯川麻美子、恋する女:高橋有里
   ローストスワン:寺島まゆみ、神学生1:吉本泰久
   神学生2:福田圭吾、神学生3:芳賀望
   ソプラノ:安井陽子、バリトン:今尾滋、テノール:高橋淳

最初と最後の「おお運命よ」の踊りはへんてこで印象深い。シャープでそれでいてクネクネしている。直線的でなおかつ曲線的なのだ。演奏は強力で迫力に満ちていた。声楽はバリトンが主体でしっかりと歌われていた。テノールはローストスワンの歌だけのようであったが、気持ち悪さが良く出せていて良かったと思う。ソプラノは強い芯のあるクリアなソプラノだと思った。

美術は黒が基調の重厚な感じのものだったけれども、オフザケ満載なのでそんなに重苦しくなく、というよりも、むしろ軽快な印象だった。鮮烈な赤の衣装のフォルトゥナは鮮烈なイメージで、この赤のために全美術が作られているのかと感じた。赤は血の色、恋の色、生命の色だから。

演出はシモネタありのオフザケをさりげなくやる感じで面白い。バレエダンサーは元気良く、合唱は強く、楽しい公演だった。

10.05.04 新国立劇場
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偽大学生

2010-05-16 | 邦画
偽大学生 ☆☆
1960.10.08 大映、白黒、横長サイズ
監督:増村保造、脚本:白坂依志夫、原作:大江健三郎「偽証の時」
出演:ジェリー藤尾、若尾文子、藤巻潤、船越英二

当時の学生運動を批評した物語で、まだ1970年頃の病的なまでに狂ってしまった学生運動のはるか前の時代のものである。学生運動に参加して狂ってしまったジェリー藤尾を病院のスタッフが称して「最近はこういう狂人がはやっているんだ」と言うけれども、そのセリフはその後の学生運動の狂気を早い時期に予測していて凄いと思った。

狂気に走る学生運動とか、宗教活動とか、政治活動とかのメカニズムが良く分かる映画だと思った。

伊丹一三(後の十三)が学生運動のリーダ役で出て来る。マジメっぽく、正義感に溢れた感じの秀才風なんだけれども、実はコアは凶悪なんではなかろうか、という雰囲気を醸し出していて良い芝居だった。

偽学生のジェリー藤尾に、しまいには他の正規の学生が同一化してしまうという所にこの寓話の狙いがあるのではないだろうか?若尾文子が真実を告白する場面があるけれども、学生たちからは無視され、若尾文子は茫然とする。学生たちはすでにジェリー藤尾の嘘を信じ込んでいて、この偽学生に同一化しているのだ。この寓話の狙いは、偽ものは、すなわち学生運動に血道をあげる正規の大学生そのものじゃないかと言う主張なんではないかと思う。偉そうな事を言ったり、正義面したり、したり顔で話したり、断言したりする奴らや、奴らの言っている事や、ジャーナリズムなんてものは、みんな偽物なんだ、という事かなと思った。

10.04.29 新文芸座
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からっ風野郎

2010-05-13 | 邦画
からっ風野郎 ☆☆
1960.03.23 大映、カラー、横長サイズ
監督:増村保造、脚本:菊島隆三、安藤日出男
出演:三島由紀夫、若尾文子、船越英二、川崎敬三、神山繁
   水谷良重、志村喬、根上淳

からっ風が吹きすさぶような画面の印象は三島由紀夫がもたらしたものなのだろうか?他の出演者の精緻で美しい芝居が際立っているだけに、荒々しい三島由紀夫の芝居が目立って、そんな印象を与えているのだろうか?リアルな荒々しさ、荒っぽさ、乱雑さという意味では、これも1つのリアリズムなのかも知れない。

ずいぶんと月並みなストーリーだけれども、それでも主人公の心の矮小さが良く出ていて、それがこの物語の主題なんだと感じさせる。それが、その矮小さが人間なんだと感じた。

エレベータで運ばれて行く三島由紀夫が、わざとらしい。陳腐な演出だけどやけに印象に残る。三島由紀夫が可哀相だ。

若尾文子にキレがあり、強くて、気風が良くて、美しい。衣装の色合いも美しく映る。引き立て役の川崎敬三のナヨナヨ感も芸術的だ。神山繁のゼンソク持ちの殺し屋もすばらしい。これもワザとらしい芝居なんだけれども、落ち着き払った殺しの職人がクールだ。

10.04.29 新文芸座
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