二銭銅貨

星の数: ☆良い ☆☆すごく良い ☆☆☆激しく良い ☆☆☆☆超激しく良い ☆☆☆☆☆ありえない

ナヴァラの娘、道化師(日本オペラ振興会)2018

2018-02-10 | オペラ
ナヴァラの娘、道化師(日本オペラ振興会)2018

作曲:マスネ/レオンカヴァッロ、指揮:柴田真郁
演出:マルコ・ガンディーニ
美術:イタロ・グラッシ、衣裳:シモーナ・モッレージ
演奏:東フィル
出演:
アニタ(娘):西本真子、アラキル(彼):持木弘
レミージョ(アラキル父):大塚雄太、ガリード(司令官):村田孝高
ラモン(隊長):松岡幸太、ブスタメンテ(兵隊):安東玄人

カニオ:藤田卓也、ネッダ:佐藤康子、トニオ:須藤慎吾
ペッペ:澤﨑一了、シルヴィオ:岡昭宏

現代の紛争地帯にある軍事拠点を思わせる木の板でできた高い壁、何かの記号のような英数字が所々に黒の活字体で書かれている。その壁は舞台奥の左右にあって、そして中央には多数の椅子がランダムに積みあがってバリケードをなしている。それがこの基地の出入り口。円形の丸い大きな板が支柱と共に地上に2個、壁に1枚ぶるさがっている。衣裳はスペインの内戦を題材にした「ナヴァラの娘」にふさわしい印象のもので、1900年前後の雰囲気。全体として殺伐としたイメージだ。

音楽に銃声のような音もあったりして、かなり実験的で意欲的な作品だと思った。低音が多く暗いイメージだが旋律は美しい。しぶい。

西本は素朴で強い声のソプラノ。低音主体の曲だったのかも知れないがメゾのような印象だった。持木は真面目な印象、ベテランな感じ。村田はストイックな芝居で声が強い。大塚は落ち着いていて安定したバリトン。

「ナヴァラの娘」は本邦初演。

パリアッチになると一転して明るい雰囲気になる。壁だけが継承されて椅子のバリケードは無くなる。後の劇中劇の場面で観客の兵隊たちが椅子に座るので、バリケードの椅子がそれになったという趣向だろう。壁にかかった円形の板も残っているが、カラフルな色に塗られている。道化師たちの衣裳もカラフルで楽しい。特にネッダの衣裳は短いチュチュのようなスカートで可愛らしい。白地に黒の模様があしらわれておしゃれだ。道化師一行の中には本物の曲芸師がいて、片手で体を支えて地面に平行にグルグル回ったり、玉に乗りながらジャグリングしたり、大きな輪っかに掴まって輪っかをぐるぐる回したり、いろいろとやって楽しい。すごいサーカス的な気分が盛り上がった。曲芸師に見とれて、ネッダとシルビアのアイコンタクトとかがあったらしい場面を見逃してしまった。自分がカニオみたいだ。

藤田は真面目で美しいテノール。「衣裳をつけろ」では真面目に絶望し、美しく慟哭していた。佐藤は強いソプラノ。軽いアリアも強めに歌う。声が純粋で、崩れ乱れ濁りがない。いい感じ。芝居は深刻。熱い情熱が押し殺されたようににじみ出て、殺されて当然のいいネッダになった。須藤は猫背が全然に似合わなかったが、真面目で気迫のあるトニオだった。深刻で悲劇的で悲惨な身の上を感じさせる芝居だった。出だしの口上は客席最前列での狭いところで歌って、かっこ良く決まっていた。幕間の間奏曲ではカーテン前で鏡を見ずに横に裂けた唇を描く芝居をした。結構難しいだろうなと思ったが上手に描けていた。藤田も「衣裳をつけろ」の所で鏡を見ずに顔を白く塗る芝居があった。沢崎は能天気で明るいキャラクター。岡は真面目で一途な感じ。

合唱は前半が男声ばかりで暗い雰囲気だったが、後半になると女声が入り、とりわけ美しく軽い気分になった。演奏は上手で管楽器が良い。力強く安定して情熱的。

戦時の「ナヴァラの娘」が終わって、明るい平和な時代になった。けれども、やっぱり悲劇は起こる。ヴェリズモっていいなと思う。

18.01.28 東京文化会館
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする